調合士旅行記

扇 直角

プロローグ

そこには大陸によって分断された海があった。北にある雲を超えるほどの大きな天空の山々から流れ込む雪解け水が、北東にある海へと流れ込む。その水は大陸の東を大きく迂回しながら南西へと流れていき、南にある灼熱の火山のトンネルを抜けて南西へと抜ける。その水は、気まぐれに現れる西の草原の隠し海道を超えて、北西をゆっくりと流れて、北の山の元へと戻っていった。


海を分断する大陸は、十字の形をしており東、西、南、北に真っ直ぐ伸びている。


十字の大陸を真っ直ぐ東へ進むと、海へと行き詰まる。どんなに高い場所から見ても永遠に途切れない水平線は、空の色と海の色を、水平線から現れる太陽が美しく反射させる。決め打ちのように止ってしまった大陸は、砂の帯を経て、海と寄り添って生きている。


十字の大陸を真っ直ぐ西へ進むと、無限に広がる草原が見えてくる。時には霧で隠し、時にははっきりと、景色の全容を表わす不思議な草原。湿った風は、全てを運ぶ。それが、幸か不幸か。誰にも分からないまま。全てを大陸と草原に吹き渡らす。


十字の大陸を真っ直ぐ南へ進むと、永遠と燃え続ける炎を生み出す山がある。溶岩をまき散らし台地を作り、海がそれを削って運ぶ。炎に焼かれ、炎を食らい、炎によって生み出される。命を作る暴挙を、火山は止めることなく作り続ける。


十字の大陸を真っ直ぐ北に進むと、天空の山々を越えた先に扇を開いたように広がっており、どこまでも続く雄大な白と緑を描いていた。時折北から吹く暴風が、山にかかる雲を全てふき消してしまう。


大陸の真ん中に大きな国が一つ。東西南北に小さな国が四つ存在する。

東にある時程と海洋の国、ウロトク。

西にある幻と再転換の国、モールスカッシュ。

南にある逆説と炎山の国、ヴィトール。

北にある静寂と要塞の国、ギチャ。

そして

全てを交差する廻天の中心国、ルナカニア王国。


誰かが言った。

ウロトクの海には強大な水蛇がいると。

誰かが言った。

モールスカッシュの草原には、雷鳴と共に現れる猛獣がいると。

誰かが言った。

ヴィトールの火山には、岩肌のような鱗を持つ翼竜がいると。

誰かが言った。

ギチャの雪原には、雪の中を泳ぐ大鮫がいると。

そして。

誰かが言った。

ルナカニア王国にいる冒険者は、それら全てと対峙したと。

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