第54話「PvP、戦場のかおり」
「ギルマス、ついにPvP(対人戦)が実装されるわね」
マクスウェルがギルドハウスでそう話しかけてきた。PvP事態は以前からあったのだが、エリア限定だったり、PvP機能をオンにしていなければ対戦ができなかった。今回の実装はギルド同士の戦闘、つまり直接ゲーム内で殺し合いをするイベントを開けるようにするというものだった。
「そだな、でもまあ大会に参加しなければ死ぬようなこともないし、心配ないだろ」
そこへ妹からのワクワクを隠しきれない声音で直通チャットが入った。コイツはPvPを待ち望んでいたようだ。戦闘狂だからな、当然と言えば当然と言える。
「お兄ちゃん、ギルドバトルが実装されたら参加しましょうね!」
「気が向いたらな。相手はカンスト勢になると思うけど勝機はあるのか?」
「勝てる相手と戦えばいいんですよ!」
思った以上に志の低い妹だった。よく考えてみれば俺も真面目にやる気がないのでそれもまた遺伝なのかもしれないな。
「マクスちゃんは私と戦ってくれますよね?」
俺の説得は諦めマクスウェルに説得の対象を移した。この場にはメアリーもいるのだが、未だにレベリングの途中もいいところなので戦力として認識しなかったのだろう。
戦うばかりがギルド運営ではないというのに戦力をひたすら求めるギルメンが多すぎる。ウチは民間軍事企業ではないんだぞ。ファラデーやフィールズなどはそれを突き詰めていて、ギルドハウスに顔を出す回数を減らしてでも討伐に励んでいる。俺もギルドに討伐クエストで貢献してくれている二人を責める気にはならない。
「私はやるわよ、たとえ一人でも参加する予定よ。戦いは楽しみね」
「ギルマスも参加しましょうよー!」
「俺はギルド運営があるんだよ。データの処理がどれだけあるかは知ってるだろう?」
ギルマスとしては少人数ギルドの運営に下働きは必須だ。ヴィルトが手伝ってくれているとはいえ、トップがギルメンに全て押しつけるのは残酷というものだろう。
「ホントですよ、ギルマスがいなかったら雑務が回りませんよ」
ヴィルトはそれだけいうと再び会計処理に戻った。コイツは縁の下の力持ちを具現化したような奴なので頼りにしている。
「皆さん対人戦は経験したことがあるんですか?」
メアリーがそう尋ねてきた。ネトゲをやっているなら当然だろう。
「ああ、知らずにPvPエリアに入ったことがあって、カモがきたと思われたんだろうな、速攻で後ろから魔法を撃たれて死んだよ」
「私は知っててはいったわね……あそこがそこまでの廃人エリアだとは思わなかったわ」
「一回はやりますよねー……私も興味本位で入って殺伐とした中斬り殺されましたよ」
三者三様の体験を語る。メアリーがビクビクしていた。
「大丈夫だよ、まだ全エリアでPvPが実装されたわけじゃないからな、モンスターをトレインして押しつけてくるキャラにさえ気をつければ安全だよ」
そう、MPK、つまりモンスターを大量に釣ってエリアを切り替えると残されたモンスターは近くにいる人を襲う。昨今では無くなりつつあるシステムだが、このゲームでは未だに実行可能だった。
「ではフォーレちゃんとマクスウェルさんが対人戦に参加されるのですか?」
「ま、実装されたらの話ですけどね、今はまだ取らぬ狸の皮算用ってやつでしかないですし」
「実装を反故にされることは滅多にないけど、絶対ないとは言いきれないところが運営の信用出来ないところなのよ」
運営は平気で実装予定だったり、ナーフ予定だったりをひっくり返す。だからあまり信頼はされていないのだが、フォーレのやる気に満ちあふれた顔と、マクスウェルの野心を隠そうともしない態度を見ていると、運営は是非実装して欲しいなと思った。
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