第43話「マクスウェル、寝落ちする」

 その日、ログインすると妙にギルドハウスは静かになっていた。


 そして一目見て奇妙に思えたのはマクスウェルだ。一歩も動かず背筋を伸ばして椅子に座っている。俺は静かなのに理由があるのだろうからフォーレに直通回線を開いて訊いてみた。


「なんで皆黙ってんの?」


「マクスちゃんですよ」


「マクスウェル? アイツなんでピタリと止まってるんだ?」


「ああなる少し前に大あくびをしていたんですよ」


「ああ、寝落ちね」


「そういうことです。マクスちゃんも最近デスマやってるって言ってたので、静かに寝かせてあげようという話になりました」


 マクスウェルを眺めると目鼻立ちの整った顔のままピクリとも動いていない。鼻をつまんでやったらどうなるんだろうなどと考えてしまう。


「そういうことなので会話をするときは直通回線を開いてくださいね」


「分かった」


 そこへヴィルトからの回線が繋がった。


「マクスウェルさんは少しこのゲームに本気になりすぎなんですよ。ここ最近もギルドクエストの納品にがんばってましたからね。少し休ませてあげましょう」


「ウチのギルドは生活を犠牲にまでして欲しくはないんだけどなぁ……」


「ギルマスの気持ちも分かりますが、ここは居心地がいいですからね……しょうがないでしょう」


「ウチってそんなに居心地がいいか?」


 ギルマスをやっていてなんだがそれは疑問だ。


「納品をせっつかれることもないですし、雑用はギルマスがやってくれますし、毎日ログインを強要したりもしませんからね」


「そんな厳しいギルドあるのか?」


「トップ層は大体どこも多かれ少なかれ厳しいらしいですよ? ここはがんばらなくてもいいので楽なんですよ」


「まるで経験があるようだな?」


「私は以前どことは言いませんが大手に入ってましたから。努力でなんとかなるならともかく、ガチャのアイテムまでノルマにされたのでやめたんですよ。さすがに課金強要はちょっとね」


「ヴィルトも苦労してたんだな」


「ええまあ、ですからここは居心地がいいんですよ。ここを抜ける人が少ないのもそれが原因じゃないですか?」


「そういうものなのかな?」


「そういうものです」


 どうやらこのギルドはそれなりに帰属意識を持たれているらしい、少し嬉しく思えてしまう。


 俺は小声で全員に言った。


「……マクスウェルをそっと寝かしておいてやろう……全員今日はこの部屋に来ないように」


 皆頷いて部屋を離れた。翌日朝、ログインしてみるとマクスウェルが離席モードになって変な格好で机に突っ伏している。俺は『デスマご苦労様』と言って、おそらくもう家を出たのであろうマクスウェルに感謝した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る