第17話「キャリープレイ」

「お兄ちゃん! キャリーしてください!」


「やだよ面倒くさい」


 妹からの直通チャットで他力本願な頼みが来たので俺は即座に却下した。キャリーとは実力のある人を仲間にして自分が引っ張って勝利させてもらうプレイだ。そんな邪道なプレイングをさせるわけにはいかないなぁ……


「えー……今日のデイリークエスト面倒なんですよ、運営が調子に乗ってゴーレムの討伐とか入れてますし」


「そのくらい単独でやれよ? ゴーレムくらい倒せるレベルだろうが」


 しかし妹はダダをこねる。


「だって~……討伐に補助アイテム必須ですし、お兄ちゃんに頼れば余計な買い物の必要は無いじゃないですか!」


「俺に負担がかかるだけだよなぁ!?」


「でも私の懐は痛みませんよ?」


「最悪だなお前……」



 クズい妹を放っておいてギルマスの作業を進めようとしたところ妹に直通チャットを占有された。


「お兄ちゃん! お願いします!」


「お願いしますよ!」


「妹のお願いが聞けないんですか?」


「可愛い可愛い妹ですよ?」


「兄が妹につくすのは義務でしょう?」


「妹が可哀想じゃないんですか!」


 うるさい……頭の中に直接声をかけられ続けるのがここまで鬱陶しいとは思わなかった。デイリークエストくらい一人でこなせという正論は聞かないのだろうな……正論は人を納得させる道具ではないとよく言ったものだ。


「ああもう! 分かったよ! さっさと済ませるから前衛職に切り替えておけよ、俺がヒーラーで後ろから支援してやる」


「さすがお兄ちゃん! 話が分かりますね!」


 ごねまくったやつがどの口でそれを言うのかと思った。妹はゴネるのが得意、そういうことだ。


「じゃあお兄ちゃん! 四十秒で支度してきますね!」


「おう、タイマーで計っておいてやるよ」


「冗談に決まっているじゃないですか!」


 そう言って軽口を叩いて自室へ入ってジョブチェンジをしに行った。俺はヒーラー用の装備を調えてゴーレム討伐用に防御力デバフのかけられる装備に変更しておく。


「さて……ゴーレムくらいさっさと片付けるか……」


「お兄ちゃん! 準備できました!」


「じゃあポータル開くぞ?」


 魔道士職はある程度任意の場所にポータルを開くことが出来る。俺がヒーラー役を買って出た理由でもある。


『ポータル』


 高山地帯へのポータルが開いたのでそれに触れてワープした。ゴーレムの出現地帯のど真ん中に突っ込んだのだが……


 ずぅぅぅん……


 どぉぉぉん……


「ゴーレム、狩られてますね……」


 ゴーレムが今回のデイリークエストターゲットなので当然の如く辺り一帯のゴーレムをポップした側から狩られていた。一応このゲームでは人工生命体って設定だったかな……人間の都合で作られ人間の都合で狩られる、気の毒な生き物だ。


「よーし、じゃあ釣ってこい、俺が回復はしてやるから」


「はーい……」


 露骨にやる気を無くした妹がゴーレムを釣りに行った。ポップした側から釣られていくのでなかなか釣れない様子だったが、ノルマは一匹なので討伐班は次第に減っていき、ある程度経ったところでようやくゴーレムが釣れたようだ。


「お兄ちゃん! 助けてくださーい!」


「はいはい『ヒール』」


『ヒール』


『ヒール』


 俺が『ヒール』を使っているかぎり妹が落ちることはないのでマクロ登録している回復を連続実行していく。前衛専門というわけではない妹の非力な攻撃がようやくゴーレムのHPをゼロにした。


 ずぅぅぅん……


「落ちたな……」


「倒せましたー!」


「じゃあ帰るぞ」


「はーい!」


 こうしてその日、妹のキャリーを終え、早々にログアウトしていったアイツを見送ってから俺は面倒な雑務をこなすことになったのだった。

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