ノンリアルファンタジーオンライン~ダメ人間×ネトゲ廃人の世界は電子の海の中にある~廃人ギルドの日常風景

スカイレイク

拡張パッチ第一弾編

第1話「ゲームの中では酒だって飲めちまうんだぜ」

因幡いなば! またゲーム内で酒を飲んだな!」


「なんれすかおにいひゃん! べつにいいれしょう!」


「そうなるから辞めろって言ってんだろうが!」


 俺の妹、かみくらいなはアル中だ。もちろん高校生のコイツがスーパーやコンビニで買う事は出来ない。ではどうするか? 最近ブームのノンリアルファンタジーオンラインを使用する。


 このゲームは強力な感覚フィードバックをする事で有名になり、痛み等はさすがに抑えようと思えばオフに出来るのだが、もっぱら他の機能を使用するためにネトゲとしての役割を果たしていた。


 フルダイブMMORPG、それは没入感を深めた新時代のMMORPGの……はずだった……


 昨日


「いやーレアモンスターの討伐は苦労しましたね!」


「いやいやフォーレさんのおかげですよ! いつ入ってもログインしていらっしゃいますし、助かりますよ! あ、こちらにビールを一杯!」


 酒場でレアポップのモンスターを討伐した打ち上げをしている。このゲームではリアルの相手が誰かを知る仕組みはない。匿名で登録可能で、金さえ払っているかぎりはアバターが保持される。そしてこのゲームではプレイヤーの情報を取得しない。つまり……


「プハァ! この一杯は生き返りますねえ!」


 ご丁寧に飲酒感覚のフィードバックはあり、VRゴーグルから脳内にアクセスして擬似的に酔わせる事が可能だ。つまり未成年でもこの世界では安心死手酒が飲めるというわけだ。


 こうして我が妹『神倉因幡:ハンドルネーム、プリズム・フォーレ』は酒を飲んでいい気になっている。ちなみに俺の妹は高校生だ。


 俺が作ったギルド『ホライズン』では堅苦しいルールは一切無く、自由にしていいし、ギルドへの貢献も自由となっている。総てが自由という事は……酒を飲むのも自由という事だ……法整備が追いつかず、ゲーム内での飲酒は一切規制されていない。アルコールを用いない飲酒という新時代のUXが未成年達に大いに楽しまれている。


 要するに代替アルコールというわけだ。脳内に干渉して一切化学物質を使う事なく酩酊感を出しているので警察も動く事は出来なかった。


 今、俺のギルドにどれだけ未成年がいるのかは不明だが、アバター達で集まって酒盛りを出来る程度の年齢ではあるのだろう。


「アポロさんの指示は完璧でしたね! ポップを感知するのも早かったですし」


「そうだな、ギルマスと言うだけの事はある」


 ジェニーにハープーンがそう声を上げる。二人ともなかなか出来上がっているようで、発言の信頼性は担保できない。


「はー……見ましたか? 私のエンドオブワールド! 一撃であのタコを吹き飛ばしたんですよ?」


 妹は自慢気に言っているが、味方を数人巻き込んでいる。やり過ぎという言葉はコイツに存在しないのだろう。運営がフレンドリーファイアを無効にしてくれれば済むだけの話ではある。


「フォーレさんはやり過ぎなんですよ! このギルドがいくら自由だからって味方を巻き込んで大技を使わないでください!」


「ほー……じゃあジェニーさんは私の魔法無しであのピンチを脱出できたと?」


「それは……うぐっ……」


 言葉に詰まっている。確かに今回一番活躍したのは因幡だ。フォーレとして大技を放ってジャイアントオクトパスを沈めた。それはいい、味方の八割がその魔法で吹き飛んでいなければの話だが……


「まあ細かい事はいいじゃないですか! このホライズンの繁栄を祝って! 乾杯!」


「乾杯!」


「かんぱーい!」


「フォーレはもう飲んでるだろうが……」


 誤魔化そうとした妹に突っ込みが入る。現実では酒など飲んでいないが、妹はこのゲームの中では立派なアル中だ。


 そうして気にする事もなくビールをあおる妹、このゲームではプレイ中だけの効き目でゲームを終了すれば酩酊感は消えてなくなる。だからいくら飲んでも構わないというのは違う気がするがな。


「おい! それも良いが今回の戦果ガチャは誰が引くんだ?」


 その言葉に部屋の空気がさあっと冷え込む。誰もが見てみないふりをしていた現実と向き合う事になった。


 このゲーム、当然ながらガチャが実装されている。MMORPGへのガチャ実装には反対もあったものの、公式が『ガチャがあれば基本無料に出来ます』と発言した事によりガチャは賛同を集め実装された。


「ギルマスが引くんじゃないの?」


 ホライズンの経理担当をしている『ヴィルト』が俺に声をかける。


「いや、俺は前回引いたから遠慮しておくよ」


「えー……ギルマスが引かないと誰が引くんですか?」


「はい!」


「ギルマスが引かないと誰が引くんですか?」


「はい!」


 立候補しているフォーレを無視して誰か立候補しないかと皆を見渡している。ヴィルトは経理担当だけあって平等なギルド運用を心がけている奴だ。依怙贔屓はしない、戦果ガチャは貢献度に応じて引けるので俺が引くべきといいたいのだろう。ダメ元で毎回やられるばかりのフォーレは自然と無視している。


「誰か……」


「うぅ……無視されてる……」


「じゃあ僕が引こうかな」


 タンクの『モース』がなんとか申し出てくれた。フォーレは最近かなり引いているので優先度では下のはずだ。


 なお、ギルドガチャなので誰が引いても所有はギルドの共有物となるのだが、その中にギャンブル依存のような人間を混ぜるとそれでも引きたがる。我が妹がその典型的なサンプルだ。


「ではモースさん、今回の戦果メダルはあなたに渡しますね」


 ヴィルトがモースにアイテムトレードのアイコンを表示させる。すぐに成立してメダルはモースのものになったが、取り引きアイコンが出るなり即座に手を伸ばしたのはフォーレだった。もちろんリジェクトされていたのだが諦めないメンタルはリアルで発起して欲しい。


「では僭越ながら……」


 ガチャボックスのアイコンがポップしてそこにメダルを投げ入れる。ガラガラと回り一個のカプセルが出てきた。


「『イジェクトボタン』でした、使い切りですがそこそこ使えますね」


 俺はハズレを引かなかったモースを褒める。


「よくやった、それがあれば今度のダンジョン攻略で攻めた戦略が出来るな」


 イジェクトボタンは使用するとギルド全体を割り込みなしにホームへ強制送還させるアイテムだ。デスペナを考えると危なくなったら逃げざるをえないこのゲームで、魔物に追われても突っ込んでいけるアイテムは割と便利だ。


「ぐぬぬ……」


 悔しがっている我が妹は言葉も無しにログアウトした。俺のギルドは参加自由脱退自由だがこういうムーブはやはり好まれない。


「私はログアウトしまーす」


 フォーレがそう発言する。すねているようにしか見えないので、みっともない真似は兄としてやめて欲しいと思う。


 シュンと妹のアバターが消えた。こちら側で飲んだ酒は当然だがリアルに持ち越すような事は無い、突然現実と向き合う羽目になるので飲んでいる最中に突然のログアウトはやめた方がいいと思うのだが……


「ギルマスー! 私もぼちぼち落ちますね」


「俺も今日は出てくよ」


「そうか、また今度な」


 モースとヴィルトが離脱した。ヴィルトはログアウトしたようだがモースの方は街に繰り出したようだ。ウチは個人の行動にとやかく言わないので好きにすればいいと思っている。


「さて、皆いなくなったし俺もログアウトするか……」


 メニューを表示してログアウトの項目を選んだ。途端に意識は現実に戻ってくる。うんざりするような現実に向き合う時間が来てしまった。

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