第2話

ピッという音と共にゲートが開く。

魔質認証システムが導入されたのが入社した前の年だったらしいので、つい最近のことだ。

これだけ見ても古い体質の会社だとわかる。

魔法がモジュール化され、組み合わせるだけで誰でも簡単に複雑な魔法が使えるこの時代に、こんな大きな会社が魔質認証システム入れてなかったなんて。


「どよ、最近?」


「トヨタ魔導士。お久しぶりです」


新人研修で会って以来だから、2年ぶりか。

大した案件回してもらえない、上司に嫌われてるダメ魔導士のトヨタさん。


「何か疲れてない?あ、こんなこと言ったらパワハラか。ごめんごめん」


まじだるい。


「いえいえ、全然だいじょうぶですよ。今人事に呼ばれてて…」


こんなこと伝える必要ないのについ言っちゃうって。

やっぱ私、かなりプレッシャー感じてるんだ。


「人事かぁ。それはあれだね。まあ頑張って!」


まじ他人事。この人まじ無理。


「じゃ、私ちょっとすぐ行かないとなんで」


私はそのまま最上階の人事部に向かった。


「あ、えと、フライス部長は?」


何だこれ、誰がどこに座ってんの?フリーアドレスってやつ?


「フライスさんはあそこですよ。そうそう、フリーアドレスを実験的にやってて、みなさん戸惑われるんですよね」


満面の笑みで教えてくれるお姉さん。なるほど、じゃあ私の部署もいずれフリーアドレスになんのか。


「ヨナミさん、こっちこっち」


フライス人事部長が笑顔で手を振っている。

気さくで親しみやすい人事部の長。

そう思われたいけど、誰も親しんでくれない哀れな部長。

いや、本当に哀れなのは、こんなおじさんに運命を弄ばれるしかない私たち社員なんだろうな。


「わざわざ別室にお呼びしたのはですね」


たしかに、初めて見たよこんな部屋。

会議室でもないし、一体なんの部屋?


「魔魂についてなんです」


ちらりと私を見やるその目は、何とも言えずどんよりと曇っていた。


「もうおわかりでしょうが、先々月の魔魂の持ち分がですね、あなたのパーティーだけちょっと合わないんですよ」


「え?パーティーの持ち分のオーバーは規定内だったはずです」


それはそうだろうと部長がうなずく。


「それはそうでしょう。そうでなければ登録魔法が認証されるはずもない。ただ、ですよ。ユリアさんの魔魂の消耗率とマイリさんの消耗率が同じなんですよね」


「それは私が配分してますから」


でしょ?管理者として最適な仕事をしただけなんですけど。


「それがあり得ないんですよ。あなたたちのパーティーが倒した魔物、こなしたミッションを考えると、ユリアさんとマイリさんが消耗した分とあなたが消耗した分では全然足りないんです」


部長はちらりと私の顔を覗き、続けた。


「ということで、結論です。あなたは私たちが把握している以上の魔力を有していて、ユリアさんとマイリさんに本人が気づかぬうちに魔魂を与えていた」


「ええ?そんなこと」


「しかあり得ないんですよ、状況から考えて。このことの何が問題なのか。第一に、会社に能力を偽って伝えたということ。第二に本人の同意なく魔魂を与えたということ」


「いえ、そんな大したもんじゃないですし、私なんて。案件こなすだけで精一杯でとてもそこまでできるような余裕なんてありません」


「第三の問題として、会社の魔力を測定する能力があなたの偽装能力よりはるかに劣っているということです。これが最大の問題だと判断しました」


なにそれ?じゃ私悪くないじゃん。


「ということで、今日からトヨタ魔導士のパーティーに入ってもらいます」


ええええええええ、まじで?

大体チームって、あの人部下いないじゃん。


「そうですね、まあ今の段階ではトヨタさんとお二人のパーティーになりますか。明日正式に辞令があると思いますので、今日はとりあえず退社していただいて結構です」


はぁ。とりあえず今日はストロングなあいつ飲んで寝よ。

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