第20話 アルベルトだったモノと後悔

 アルベルトは父親に連れられて、とある場所へ連れてこられた。

 後ろから、二人の守護獣ビーストがついてきている。


「ここは……」


 アルベルトは痩せてギョロリとした目で、周囲を見まわす。

 地下の洞窟を思わせる穴の中はジットリとしていた。


「王国の秘密の部屋だ」

「ここなら、お前の問題を解決できる。許可を得るのに、苦労したんだからな」

「父上、ありがとうございます」

「私はお前の味方だ」


 その言葉がアルベルトを安心させた。

 奥に進んでいくと天井が高い空間に出た。

 真ん中から水が湧き出ていて、放射状に長四角の池に流れている。


「こんにちは。炎スキルの名家の方かな?」


 老人がイスに座っていた。


「いかにも。話は知っているだろう?」

「あなたさまも、よくやるよ」

「……」

「父上?」


 父親はアルベルトを前に進むように、うながした。


「炎スキルの名家から来た、アルベルトだ」


 老人はアルベルトの顔をガッシリとつかんだ。すこしひるむが、耐える。


「ほうほう、いい眼をしている。ご飯は食べたか?

 うーん、ガリガリだな。大丈夫。じきに太る」

「どうすればスキルを取り戻せる?」

「大丈夫、大丈夫。わしは良いところまで来てるからな。

 お前なら成功する」

「……言っている意味が分からないぞ」


 アルベルトのとまどいを無視して、老人は池の1つを指さした。


「さあ守護獣ビーストを入れろ」

「貴族に命令するのか?」


 不愉快そうなアルベルト。

 老人はアルベルトの髪を鷲掴みにした。


「お前は黙ってわしの言うことを聞け」

「そうだ。アルベルト、わがままを言うんじゃない」


 父親の言葉に違和感を抱くが、アルベルトは頭にモヤがかかって、考えられない。


「魔術……魔物……神の使い……守護獣ビースト……すべて騎馬族が持ってきた」

「そうだ。そのすべてが王国の敵だ。よく覚えてるじゃないか」


 父上が褒めてくれる。

 そうだ、俺はレオに復讐しなくてはいけないんだ。

 騎馬族の言う“神の使い”は、王国では怪物と呼ばれていた。

 王宮でも、限られたものしか読めない本を父上は俺に渡してくれた。

 その本には、騎馬族の悪しき魔術や、恐るべき神獣の伝説が書かれていた。


「さあ、池に守護獣ビーストを入れろ」


 それでも、アルベルトはためらった。

 この池はなんだか変だ。

 池に浮かんでいるのは、髪の毛なんじゃないか?


「早くしろ」


 父親の守護獣ビーストが、アルベルトにむけて炎をだした。


「ひっ!」

「ご主人様!」


 アルベルトの守護獣ビーストがかばう。

 すぐに父親の守護獣ビーストが体当たりをして、アルベルトと守護獣ビーストを池に落とした。


「まったく、肝心なところでお前はダメだな。……同時に落としたが、いいのか?」

「ささいな違いです。

 しかし、あなたさまも、なかなか強引なお方だ」


 池の中なのに苦しくない。父親と老人の声が聞こえる。


「実の息子を、人造魔物の実験につかうなんて、たいした度胸だ」

「スキルが使えない守護獣ビースト持ちなんて、人間ですら無い。

 こいつの処理を教えてくれて助かった」


 人造魔物?処理?

 父上は俺を最初から殺すつもりだったのか!?

 じゃあなんのためにあんな本を……。

 お前の味方だと言ってくれたのは、嘘だったのか!?


「老人、あとは頼むぞ。アルベルト、しっかりやれ」


 父親の足音が遠くなっていった。

 アルベルトの体はどんどん池の底へ沈んでいく。

 老人が、様々な薬品を流し込む。

 池の中のアルベルトに向かって話しかけた。


「いつもは罪人でやってたんだ。

 たいした守護獣ビーストも持たない奴らばっかりさ。

 あんたはその点、期待ができる。

 スキルを奪われたといっても、元の守護獣ビーストが強いからな」


 池からの反応はない。老人は作業を続ける。

 アルベルトの近くに、キラキラ光るボールのようなものがいくつも落ちてくる。

 それが魔物のコアだが、アルベルトは知らない。


「あんたのオヤジは、だいぶ悪いことやってんだってな。

 いつか恨まれて死ぬだろうよ」


 アルベルトは、それから自分がどうなったのかを覚えていない。


 ………………

 …………

 ……


 久しぶりに外へ出されたのは、どれくらい経ってからだろう。

 いつものように歩いていると、足元が粉々に砕ける。

 なんだか地面が遠い。


(魔術……魔物……神の使い……守護獣ビースト……すべて騎馬族が持ってきた)


 不思議と、どこに行けば良いのかが分かる。

 首は固まっていて動かない。

 目だけがギョロギョロと動く。

 体全体を動かすのは少し苦手だ。


(レオ……レオはどこだ……守護獣ビーストは……)


 まっすぐ歩くのを、邪魔をする何かがある。

 ちいさな、人のようなものが、セカセカと動いていた。

 何も感じないので、気にしないで歩いていく。


(!)


 足をつけたところが、壊れて脚がハマった。

 まったく抜けない。


(神獣……魔物……騎馬族)


 顔に竜巻スキルを受けて、目がひどく痛む。

 よけたつもりだが、すこし当たったようだ。

 しばらく痛みに苦しむ。

 そして、あたりにいるはずの守護獣ビーストを、手当り次第に探した。


(レオ……!)


 レオは空中にいた。

 俺の動きが遅くて追いつかない。

 レオは、鋭い何かを投げた。

 痛い!

 両目に、刺さるような痛みと焼けつくような痛み。

 ぐんぐんと、頭の奥まで痛みが入りこむ。


 パリン


 頭の奥で、何かが割れた。


(魔術……魔物……神の使い……守護獣ビースト……)


 そのすべてを破壊しろと言われた。

 それでこそ、炎スキルの名家だと。


(だけど、父上は俺が死んでもよかったんだ……守護獣ビーストにスキルがないから)


 アルベルトの思考は止まらない。


(あの時、レオを馬鹿にしたから?)


 それが終わりのはじまりだった。


(ぜんぶ俺が悪いのか?)



 アルベルトの意識は途絶えた。



 ◆◆◆

 次回は魔術師にさらわれたレオたちのお話に戻ります。


 読んでいただきありがとうございました。 

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