君が笑うまでの〇〇日間
@hakotenamane
第1話 『地獄の門』
今までいろんな事があった。まぁ、その大半はいじめの事なのだが、今思い出しても辛い。今思い出しても苦しい、今思い出しても吐き気がする。
そんな事を考えていると察したのか私の隣にいる人が
「大丈夫?志保。顔色悪いよ」
と言ってくれた。
大丈夫、その言葉にどれだけ救われただろうか。
漢字にしてたった三文字、ひらがなにして五文字のこの言葉に、どれだけ救われ、どれだけ心の痛みが和らいだだろうか。
今私の隣にいる人が一番最初に大丈夫と言ってくれたのは、いつだったかな。
そんな事を考えながら志保は目を閉じ、今までの記憶を思い返す。
志保の経験は長く、苦しいものであったがそんな経験が無ければ、今私の隣にいる人は赤の他人である事を考えると、何か特別な物を感じた。
最初にいじめられたのは小学生の頃、いや、小学生の頃からだ。
志保は小学生なのに他の子と比べたらすらりと背が高く、顔立ちが整い、美人で、クールで、とても小学生とは思えないような人だった。
そんな者だからクラスの男子、いや、学校中の男子からはめっぽうモテて、学校中の女子からも人気が高かった。
だが一つ、そんな小学生にしてはハイスペックな志保にも欠点があった。
ある日の夏、水泳の授業の時である。近くにいた女子がわざとらしく大きな声でこう言った。
「あれー?志保ちゃーん。背中のこれ、どうしたのー?」
背中のこれ、実は志保には左の肩甲骨あたりに大きなケロイドがあった。
そのケロイドは昔、交通事故の傷跡が原因となっているケロイドである。
「えっ、あぁ。これはね。ケロイドって言って、傷跡が大きく盛り上がってできた物なんだよ」
志保がそう言う。なぜこんなに冷静なのか、それは志保自身ができた物だからしょうがない。いちいち隠して過ごすより包み隠さず普通の人と同じように曝け出そう。逆に隠す方がバレた時に恥ずかしい。そう思っているからだ。
今思えば、まだこの時は笑っていられたのだ。
それから何日かして、志保の事を良く思わない人達にその情報が伝わったのかもしれない。
志保が学校に来ると突然、クラスの中で志保の事を良く思っていない女子達から『ケロイド女!やーい』と言われたのだ。クラスの中で志保の事を良く思っていない人達はクラスの女王的存在で、志保はあまりその人らとは上手く関わらないなと思っていた。そんな奴らに絡まれたのだ。正直言って苦痛だった。
それからいじめが始まったのだ。ここから志保の地獄が始まったのだ。志保は生き地獄に落とされたのだ。
初めはオーソドックスないじめだった。まぁいじめにオーソドックスも何も無いと思うが。暴言、暴力、仲間外れ、物が無くなる。本当に良くあるようないじめだった。
志保はいじめ自体はあまり苦痛ではなかった。いずれ飽きて自然消滅のような感じになるだろうと思っていたからだ。それよりも親にどうしたのと聞かれる方が苦痛だった。
ーーだから言えなかったんだ。『いじめられてる』と、『助けて』と。言えなかったんだ。親に心配なんてかけたく無いから。
ある日の事である。志保はいつものようにクラスの志保の事を良く思わないグループ。反志保グループからいじめられていた。
「やーいケロイド女。お前キモいんだよー。どっか行け〜」
そう言って石を投げられていた。
「ちょっと、やめてよ。痛いよー」
そんな事を志保は言った。反志保グループの周りにいる奴らが志保の事を見ながらコソコソと何かを喋っている。
少し気を許したのがいけなかったんだ。グループの一人から放たれた石が志保の右目に当たった。これには志保も苦痛に感じた。
『誰か……助けて……』そう思った時ーー誰かの声が聞こえた。
「おい、やめろよ。痛がってるだろ」
志保がその方向を見るとそのにいたのは同じクラスの男子、陸斗だった。
「はぁ、なにお前。突然。マジキモいんですけど〜。なに、それで志保を救ったヒーロー気取り、マジきしょい」
そう反志保グループのリーダー格の女子が言う。でも、その時。いや、これから志保が経験していくいじめの中で唯一志保の味方であり続けたのは紛れもない陸斗だ。本当はその他にも居たが反志保グループの圧力で裏切られ、散々な事になっていた。
そう、志保から見たら陸斗は紛れもないヒーローだった。絶対に裏切ることの無いヒーロー、唯一志保の味方であり続けたヒーローだったんだ。
「へっ、なんだよ。気持ち悪い。今日はこのへんにしといてやるよ」
反志保グループのリーダーが言うとわらわらとグループが走り去っていく。
「大丈夫?志保ちゃん」
陸斗がそう言う。
「うん、大丈夫」
そう志保が言った。
志保はとっさに目を開ける。そしてトイレに走り、嘔吐をする。
「大丈夫?やっぱりつわり酷い?」
そんな事を言われた。
「いや……そうじゃなくて。今まであったいじめを思い出してた」
そんな事を志保が言うと
「なんでわざわざそんな事を……そんな辛い事思い出さないで良いのに」
と言われた。続けて
「ちなみに今どこまで思い出したの?」
と言う。
「小学生、小一の頃。あなたが最初に大丈夫って言ってくれた時までは思い出した」
そう志保が言うと
「あぁ、石が右目に当たったやつ」
と言う。
そう、今志保の隣にいる人とは他でも無い陸斗だ。そして志保は思う。そうだ、最初に大丈夫って言ってくれた時って、この時だったんだ。
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