第23話

 そういう事かあ。昨日、向こうの駐車場で鳥丸さんたちが輪になって話していたのは、その話だったんだ。あれは要らない古道具のリストのことだったんだな。


「じゃあ、こっちの倉庫の中も片付けた方がいいわね。もしかしたら、お互いに必要な物と要らない物を交換できるかもしれないし」


「そうね。明日、祭りの片付けの後で男衆にやってもらいましょ」


「重たい物は、ウチの馬鹿息子に運ばせればいいから。帰ってきている時で丁度よかったわ」


 また仕事が増えたな、輪哉くん。頑張りたまえ。あ、大内住職だ。今日は若いお坊さんたちも一緒か。みんなTシャツにジャージ姿だ。しかも、全員ツルピカ頭。やっぱり、その筋の人たちに見えるぞ。恐い、恐い。


「いやあ、遅くなりました。お、だいぶ進んでますな。今日はウチの小坊主たちも連れてきましたよ。日頃お世話になっている地域の祭りですからな、この者たちにも協力させましょう。若いですから重たい物を運ぶのは任せてください」


「まあ、これは、これは。本当にすみません。――あなたあ、このガスボンベと発電機は運んでいいんでしょ」


 じゃあ、俺が手伝うまでもないか。陽子さんのところに行こう。


「あ、そうそう。どなたか、ウチの墓地の中の草取りをしてくださった方はいませんか。あるいは、草を取ってくれた人をご存知の方は」


「どうなさいましたの?」


「いや、お墓の雑草が片っ端から掘り返されていましてね。まあ、ウチの小坊主たちも頑張ってはいるのですが、草が伸びるのは早くてね、追いつかんで困っていたのですよ。ところが、昼食を終えて少し散歩しようとしたら、ほとんどのお墓の雑草が掘り返されている。びっくりしましてな。これは、お礼を言わないと、と思いまして。もしかして、高瀬さんとこの輪哉くんかな。午前中に墓参りにいらしていたようだが」


「まさか。うちの子はそんな立派な子ではないですよ。土佐山田さんのご主人じゃないですか」


「そんな訳ないじゃない。裏庭の草取りがやっとの人よ。別な方でしょ」


「そうですか。はて、誰かのお……」


 俺ですが、敢えて言わない。あなたのように。陰徳あれば必ず陽報あり。そう信じよう。


「美歩ちゃん、何してんだ、こんな所にしゃがんで」


「あ、桃太郎さん。ほら、見て。せみさんだよ。元気がない。風邪かな」


 あらら、随分と弱っているな。瀕死の状態じゃないか。こりゃ駄目だな。


「――ホントだな。きっと、鳴き疲れたんだよ」


「死んじゃうのかな……」


「そうかもな。俺も図書館で少し調べたんだが、こいつらは夏までが寿命なんだ。きっと、こいつらなりに、ひと夏の短い命を全力で精一杯に生きたんだよ。悔いはなかろう」


「食べちゃ駄目だよ」


「食べるか! 俺を何だと思っているんだ、美歩ちゃん」


 美歩ちゃんは瀕死の蝉を優しく両手で包む。何をする気だ。まさか、食べるのか?


「蝉さんは、木の汁を吸うんだよ。お腹一杯になれば、元気になるかも」


「いや……どうだろうなあ、老衰のじいさんを食べ放題の焼肉屋などに連れて行ったら病気が治ったと言う話は、聞いたことが無いが……」


「どこか、いい木はないかな」


「ああ、人気のファミレスならぬセミレスなら知ってるぞ。仇に恩で報いる事になるが、まあ、これも善行だな。こっちだ、美歩ちゃん。ついてきな」


 仕方ない。美歩ちゃんの気が済むようにしてやるか。

 という訳で、美歩ちゃんを連れて観音寺に向かう。






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