Day3-10 食堂でキルシュと


食堂の入り口ではキルシュが待っていた。



そんな所で仁王立ちしてるもんだから、食堂に来た生徒たちがビクビクしてるぞ。


目を合わせたらシメられると思って、誰もが目をそらす。


もしくはキルシュに一礼して食堂に入る。


あの……先輩、キルシュは1年生ですよ。


騎士科の上級生もキルシュに頭を下げていた。


食堂の場所ってここしか知らなかったけど、各学科の校舎の近くにそれぞれあるらしい。


どこの生徒でも、どこの食堂へ行ってもいいのだが、大体は一番近い食堂に行く。


ここは普通科校舎のそばにある食堂なので、ほどんどが普通科の生徒だ。


たまに騎士科の生徒もいる。魔術科の生徒は見当たらない。



「ごきげんよう、私の王子様。体調は……大丈夫か?」


「やあ、キルシュ。昨晩は心配させて悪かったね。全然大丈夫だよ」


「そうか、ならば良かった。……今日はまた一段とかわいい女の子を連れているな」



僕の後ろにいたノアちゃん。


キルシュと目が合い、ガタガタ震える。


多分、ルリノさん以上に怖いだろう。



「は……初めまして、キルシュ様! ノアと申します」


「初めてまして。騎士科のキルシュだ」



キルシュはノアちゃんの前で跪いた。



「かわいいかわいいお姫様。どうか私を貴女の騎士にして頂けませんか?」


「ひゃあ! えっ? ……えぇっ?」


「おい、キルシュ。ノアちゃんを口説かないでくれないか」


「ははは。冗談だ」


「び……びっくりしたぁ……」



いつも目が本気だしな、キルシュは。


ノアちゃんは冗談だと分かってほっと胸を撫で下ろしていた。



「騎士は二君に仕えず。私はヒロト殿にしか忠誠を誓うつもりはない」


「相変わらず騎士してるな」



キルシュは僕に抱きつき、そしてキスをする。



「あのさ、キルシュ」


「何だ」



異常にボディータッチをしてくる彼女。


やる気満々っぽいんだけど……



「僕、お腹が空いててさ。先にお昼ごはんを食べてからでもいいかな」


「……もちろんだ。かまわない」



一瞬、目つきが鋭くなった。


してあげたい気持ちはあるんだけどさ……。


してる途中でお腹が鳴ったら嫌だと思うんだ。


僕もキルシュも。




ーーーーー




日替わり定食があったので、それにした。


A定食は"肉と野菜の炒め物" と "トマトソースのパスタ"


B定食は"旬の魚のムニエル" と パン、スープ、サラダ付き


Aの方がボリュームがありそうだし、Aにしよう。



「でも、肉って何の肉だろう?」



何と言ってもファンタジー世界だからな。


オークかな?


ワイルドボアとかかな?


もしかしてケンタウロスかな?



「見て分かりませんか? 牛肉ですよ」



ベルデからツッコまれた。


くそぅ。


この辺はファンタジーじゃないのかよ。



「じゃあ、魚は? 何の魚?」


「私もAを頼んでますから分からないです。Bを頼んだはノアさんですね」


「ちょっと待ってくださいね。……うん、これはタラです」



魚もファンタジーではなかった。



「待たせたな」



最後に席に着いたのはキルシュ。


僕やベルデと同じA定食だが、量がハンパない。


ペガサス昇天盛りだ。



「そんなに食べられるのか?」


「食べることも鍛錬のうちだ。強くなるためにはたくさん食べないとな」



しかも、あっという間に平らげた。


すげえ。


この辺りはファンタジーだ。




ーーーーー




「明日はネレア殿のコンサートだな」



あ、明日だったんだ。


つい、口を滑らせそうになったが、声には出さないで良かった。


さすがに僕が知らないのはまずいだろう。



「楽しみですね」


「本当ですね」



ノアちゃんとベルデが言う。



「みんなも行くの?」


「もちろんだ。学園の生徒は全員行くだろうな」



そうなのか。


学園全員ってすごいな。王都で一番人気の歌姫とは聞いていたが。


よくコンサートに行って歌を聞く人たちの間では人気がある程度だと思っていた。


ネレアは国民的人気を誇っており、コンサートは国民的関心事のようだ。



「生徒会長が相手なら何とかして勝とうと思えるが。さすがにネレア殿が相手となったら挑む気にもなれないな」


「ネレアってそんなに強かったのか?」



歌唱スキルは敵に攻撃することも、味方の能力を上げることもできる最強のスキルなのだ!


……って違うか。



「いや、殴り合って勝負するという意味ではなく。ヒロト殿を取り合うという意味でだな。誰からも好かれているし、もちろん私も彼女のファンだ。歌に対する姿勢、ファンや周りの人に対する姿勢、子どもや恵まれない人に対する姿勢は尊敬に値する。聖女様よりも人気があるしな」


「ネレアってそんなにすごかったんだな」



クラスで一番かわいい女の子くらいしか思っていなかった。


その認識でも、僕にとっては身に余る幸運だった。


クラスで一番、学園で一番どころか、この国で一番の女の子だと言うキルシュの意見。


実際は分からないが、このキルシュにそう言わしめるのだから、本当なのだろう。



「でも、僕はキルシュのこと、好きだよ。最初は怖いと思ったが、冗談も言うし。剣の鍛錬には真面目で、真剣に強くなろうとしているし。普段は男っぽいけど急に女の子っぽくなったりするし。まっすぐに僕のことを好きだったりするし」


「貴殿はどれだけ私に惚れさせたら気が済むのだ」



再びキルシュがキスをしてくる。


食欲も性欲も旺盛だ。




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約束通り食後は彼女とした。


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