さんごと妹分のマジ生活

びしゃご

1 vs 食堂『ふじもと』(1)


 4月なのに異常気象で氷点下にいたる寒い夜だった。

 両親の住む豪邸の隣にある大きなガレージをさんごは自分の部屋にしている。

 ガレージの隅にある簡易ベッドの布団の中でさんごは寒さで震えていた。

 自身のYouTubeチャンネル『さんごTV』のアップロードを終えてから随分の時間が経っているが、あまりの寒さで眠れそうもない。


「くそ……さみいぃぃ……」


 ガレージには父が、娘のためにエアコンを設置してくれているのだが、8畳用エアコンであり、30畳はある大きなガレージ全体を温めるのには無理があったのだ。


 寒いから特攻服を着たまま寝ていたさんごは布団を持って、エアコンの前にある『使用済み』と貼られたプロパンガスがたくさん乗せてある軽トラの荷台によじ登って横になり布団を被る。

 エアコン直接の温風を受けて寒さを凌ぐためである。


「うっし、これで大丈夫や。 プロパンガスがいっぱいあって狭いけど眠るには十分や」


 ケイタイを取り出し、自身のユーチューブチャンネルを開く。


「ちっ……まだ『一人でしりとりやってみた』は視聴者0かよ…… 収益化は遠すぎんな。 やっぱりタネせんがなきゃ注目を浴びる企画ができんわ。 ジジイを脅して金を貰いてえ所だけど、今は会社を計画倒産しとる間に、ババアと客船で海外旅行に行っとる。 しかたねえなバイトでもしてみるか? バイトなんてしたことねえけど……」


 📱 ≪とり………りんご <❍><❍>

 ↓

 📱 ≪ごりら……らっぱ  ― ― zzzz

 



 昼12時。



 ガラガラ―――


⛑≪さんごさん! おはようございます!


 ガレージに入った妹分はさんごの簡易ベッドへ歩んだ。


⛑≪あれ~? さんごさんドコにいるのかな?


 トラックの荷台から、ヒョンとさんごのヘルメット🐞と顔が出てきた。


「おう、来たか?」


⛑≪さんごさん? 軽トラの荷台なんかで寝てたんすか?


「昨夜は寒かったやろ? この場所ならエアコンの温風が当たるからな?」


⛑≪なるほど、あ? さんごさんが更新してたユーチューブ全部見て高評価押しときました


「ほかに視聴者は?」


⛑≪あ……いえ……今のところ私以外は見てないみたいです


 さんごは特攻服の胸ポケットからメビウスメンソールの煙草を一本取り出してジッポライターで火をつけて吸った後に、


「ちっ、金さえあれば大食い企画とか出来るんやけどなぁ……」


⛑≪さんごさん! 気を取り直して昼ごはんを食べに行きましょう!


「オマエ、金は?」


⛑≪500円あります! お腹ペコペコっす! お腹いっぱい食べたいっす!


「オレも腹減ってるから腹いっぱい喰いたい。 でも今の俺はオマエ並みに金欠や、1700円でジジイ(父)が、いつか帰ってくるまで生活せんといかんからな。 オレも昼飯に使える金は500円までやな」


 さんごは荷台からスッと下りて、


「安いなら『ふじもと(安い食堂)』か『いかや(ヤンキー高校生の溜まり場のお好み焼き屋)』か『ポパイ(ヤンキー中学生の溜まり場のたこ焼き屋)」か『竹田(さぬきうどん)』やな…… コメを喰いたいから『ふじもと』にすっか?」


⛑≪はい! 


燃料ガソリンが勿体ねえから歩いていくぞ」


 二人がガレージを出た時、

 さんごのガレージの隣の家に一人で住むイッちゃってるオジイサンが、杖をプルプルさせながら、


「テントウムシのさんごちゃ~ん……( º灬º )」


 さんごは目をかっ開いたガンを飛ばし、

「ジジイ、俺のチャンネルを登録しろや、ケイタイ貸せ、オレがアカウント作ってチャンネル登録してやるからよ」


「トンネルゥゥゥ?( º灬º )」


「ちっ、もう手遅れかよ」


 さんごはイッちゃってるオジイサンに背を向けて食堂へ歩く。

 イッちゃってるオジイサンは、さんごの背中に張られた【使用済み】と大きく書かれた紙を見つめ、


「使用済みだったんだぁぁ( º灬º )」





 歩いて5分で、古い食堂『ふじもと』に到着した二人は、昭和が漂う店内に入る。


👵≪いらっしゃい


テーブル席に座って壁に貼られたメニューを見上げる。


―――――――――――――――――――――――

天ぷら定食(三種類)       300円

トン汁定食(豚あり)       300円

焼肉定食(牛肉使用)      450円

八宝菜定食(肉あり)       300円

梅干し5個定食(自家製)      200円

とんかつ定食(ロース使用)    400円

かつ丼             400円

カレーライス(本場パキスタン風) 250円

カツカレー(定食と同じとんかつ) 480円


ごはん単品  50円

ごはん大盛  無料


1人で全メニューチャレンジ(制限50分間) 3000円(成功の場合無料)

――――――――――――――――――――――


⛑💧≪う~ん、悩みますね~


「そうやな、とにかく安く腹いっぱい喰いてえからな?」


⛑✨≪さんごさん、名案があるっす。 二人合わせて1000円でカウントすると『天ぷら定食』と『焼肉定食』と、ふじもと名物のパキスタン『カレー』をシェアして食べれるっす。 +ゴハン大盛で頼むと腹いっぱいになれると思います


「ほう……<❍><❍>」


⛑≪いきましょう!


 さんごは腕を組んでメニューを見上げる。しばしの沈黙を越え、


「チャレンジや……」


⛑💦≪え?


「チャレンジや……ちょうど大食い企画をしたかったところや。 オマエはケイタイで『さんごチャンネル』の撮影を頼む」


⛑💦≪でも! さんごさんの全財産1700円と私の500円を合わせても3000円には足りません! あまりにも危険すぎます!


 さんごは食堂のオバアサンに目をかっ開いたガンを飛ばし、


「おいババア? 全メニューチャレンジの定食とカレーのゴハンは普通なのか? やばくなったら大盛とかオカズを増量とかしねえだろうな?」


👵≪量を増やすなんて姑息な真似はしないから安心して


<❍><❍>.。o○自信に満ちたババアの顔…… オレじゃ無理とでも思ってんのか?


「ババア! 全メニューチャレンジ持ってこいや! ≪❍≫≪❍≫」


👵≪チャレンジありがとさん


 すぐに、


👵≪はい、最初は梅干し定食よ


⛑≪はや


 テーブルに梅干し5個と味噌汁とゴハンの乗ったお盆が置かれた。


👵≪ハシを持ったら50分勝負のスタートだからね、梅干しの次は八宝菜定食だよ


⛑📱≪ではさんごさん、撮影スタートします、3、2、1、はい


 さんごは、ケイタイに目をかっ開いたガンを飛ばし、


「オメエら視聴者のケジラミども、今からオレが高松市の食堂『ふじもと』で1人で全メニューチャレンジすっぞ。 言っとくが、ガチでオレとカメラマンの全財産は合わせて2200円しかねえ……全メニューチャレンジには3000円かかる。 これがどういう意味か、オメエら分かるか? 負けたら終わりなんだよ。 オレが成功したら高評価とチャンネル登録 夜露死苦よろしく


 ハシを持った!


 さんごの人生をかけた勝負! 待ったなし!


 



🐞🐞🐞🐞🐞🐞🐞🐞🐞🐞🐞🐞🐞🐞🐞

 所持金1700円

「さんごTV」チャンネル登録者数1

🐞🐞🐞🐞🐞🐞🐞🐞🐞🐞🐞🐞🐞🐞🐞

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る