第32話
side アルシェード
ゴーレム戦の後は特に問題が起きる事なく、地上に出る事が出来た。
問題が起きたのは地下を出た後、ライオスが宣言通り敬語を使ったんだ。
僕は親しい人から公の場以外で堅苦しくされるのは嫌いだし、彼もそれくらいは分かってるだろうに。
まあ、公の場に出た時とか家臣達の前でボロを出さないための練習なんだろうけど、距離を取られたみたいで納得いかなかった。
そこで僕は一計を案じる事にしたんだよ。と言っても、彼をちょっとからかうだけなんだけどね。
怒った彼やオルトの家が直ぐ近くにあると知って驚いた彼の顔は良いものだったよ。
その後、使い慣れた抜け道を使ってオルトの家について彼の協力を得る事が出来て一安心した。
オルトの協力を得られなかったら、いくらフィンブルがあるといってもハイアンの討伐は難しくなるからね。
それもあってオルトがあの話をするまでは、僕は上機嫌だったんだ。
『ああ、それと……ビビア殿ですが、あの方がそう簡単に裏切るとは思えませぬ。家族でも人質に取られているのでしょう。決して本心からではなく、苦渋の決断だったはずです』
これを聞いた時、僕が思った事はただ一つ。
……どうして、僕を選んでくれなかったの?
そのあまりにも身勝手な考えをした事に気付いて、僕は自分に吐き気がした。
だって、僕は彼女がどれ程、夫と娘を愛しているのか知っているから。その人達よりも僕を選んで欲しいなんて強欲が過ぎる。
そう、大切な人の為に……ボクヲ、キリステタンダ。どうシて、責メる事が出来ルだろうカ?
……大丈夫、ダイジョウブ。今のボクにはライオスがいるから。
でも、一つの心配が心の中に生まれるのを感じた。
ライオスにボク以上にタイセツナ存在がデキタノナラ、ボクハ、マタ、キリステラレル……?
認めない、みとめない、ミトメナイッ!……そんなの、認められる訳がないじゃないか。
……逸る気持ちを抑え込みながら、ライオスを二階に案内して彼の後ろについてボクも彼と同じ部屋に入る。
ライオスはボクが一緒に入って来てる事に気付いて追い出そうとするけど、ボクが出るつもりがないと理解したら、直ぐに諦めた。
不満がある命令にも表面上は文句を言っても結局は従ってくれる。
ああ、やっぱりライオスはボクに甘い。
もっと甘えたくなって彼の膝の上に頭を乗せる。彼は慌ててたけど、釘を刺せば直ぐに大人しくなった。
正直、今すぐに確認したい事があったけど、焦って行動しても良い事は何もない。
まずは、ビビアについての悩みを聞いて貰う事にした。
その途中、ライオスがボクを慰める様に頭を撫でてくれた。乱れた僕の心が多少なりに落ち着くのを感じた。
頭を撫でて貰いながら話を継続して、小手調べに答えが分かりきった質問をした。
『…………アルシェードを選ぶと思う』
ライオスの感情からは嘘は感じられなかった。
ちょっと答えるのに時間がかかったのは不満だったけど、僕もその程度では怒ったりはしない。
そして、僕はこの話の核心である内容を口に出した。
『それは……難しいだろうな』
ああ、君もやっぱりそう思うのか。
やっぱり、忠誠だけでは人は裏切る可能性があるのだろうね。
ライオスの顔が強張る。何やらボクに対して危機感を覚えているらしい。
一体、ボクの何を危ぶんでいるんだろうか?
君の強張っている顔も可愛いと思うけど、それよりも答えて欲しい事があるんだ。
――ねぇ、今の君に僕以上に大切な存在はいるかな?
『いや、いない』
ボクは彼の答えに歓喜した。
今、ボク以上に大切な存在がいないのなら、彼をボクに縛り付けるのはそう難しい事ではないはずだ。
自慢ではないけど、ボクの容姿は整っている。彼も初対面の時はボクに見惚れていた程だ。
ボクの全てを使って、君をボクのものにしてみせるよ。
『ああ……俺はお嬢の騎士だからな』
ああ……君はボクだけの騎士だ
◆
意識が浮上するが分かる。
「ああ、寝ちゃってたみたいだね」
あの日から三日、ライオスは駆け付けたオルトのお陰で一命を取り留めて、回復魔法とポーションでボロボロだったライオスの体は完治している。
だけど、ライオスはまだ目を覚まさない。
我が儘を言って彼の看病は僕がやっている。時間があれば彼の寝ているこの部屋に様子を見に来たりもしていた。
その途中で僕はライオスのベッドに突っ伏して寝てしまったらしい。
「んんぅ……」
上体をベッドから起こして、凝り固まった体の筋を伸ばす。
窓の外を見るとすっかり空は暗くなり、月が空の頂点に来ていた。
僕がこの部屋に来たのは夕食と湯浴みを終えてからだったから、かなりの時間寝ていたらしい。
「どうせなら、もう少し先まで夢を見てたかったな」
夢の内容はライオスと出会った三日前のあの日の事だった。
あの後、彼が運命共同体と言ってくれたり、名前の呼び方を変えたりして夢で見れたら楽しかったのに……。
「(まあ、先を見過ぎるもの嫌だよね。あの不愉快なゴミを思い出しちゃうし)」
「でも……あの時のライは格好良かったな。僕の為にあんなにボロボロになって……氷属性の魔力に適性が高いから僕は寒さにも強いんだけど、ライはそんな事知らないで助けに来てくれたんだろうね」
あの場での行動の正解はオルトが来るまで大人しく待っている事だったと思う。
勿論、フィンブルの冷気だから僕も長い時間曝されていれば、危うかっただろうけど、それでもオルトが来るまでは持っていたはずだ。
いや、知っていたとしても彼はきっと僕を助けに来てくれるだろう。
僅かでも僕に危害が及ぶ可能性があったのなら、彼は命を賭して行動してくれるという確信がある。
だって、ライオスはボクだけの騎士なのだから。
かけ布団の中から彼の手を引っ張り出して、僕の頬に当てる。
「あぁ、やっぱり君の温もりを感じると安心するよ。だけど、やっぱり君が起きている時には及ばないかな。ライ、早く起きてね」
朝までまだ暫く時間があるから、いつも通りライオスのベッドに潜り込んで寝ている彼に抱き着く。
彼の温もりと共に安心感に包まれて、眠気がやって来る。
「ライ、愛してるよ、アイシテル。……君は僕のものだ」
寝る前の日課を終えて目を閉じる。
今日も良い夢を見られそうだよ。
◆
side ライオス
「ここ、何処だ?」
目が覚めると知らない部屋にいた。だが、見覚えのある懐かしい部屋だった。
床はフローリングで壁は白い色をしていたが、材質が前世の物と同じ気がする。
「……だぁっ!負けたっ!アイツ、チート使ったな!画面全体攻撃でガード不可、即死付きとか格ゲー嘗めてるだろッ!」
「誰だッ!」
咄嗟に声がした方に振り向くとテレビとゲーム機があり、その前に少年が一人座ってコントローラーを握りしめ、何かを喚いていた。
「遊戯の神である僕に勝てないからってチートに頼るのは禁じ手でしょ。せめて、もう少し弱いチート使ってれば勝てたのに」
少年はこちらに気付いた様子はなく、ブツブツと文句を口にしている。
「おいっ!聞こえてるのかっ!?」
「ん?そんなに大声出さなくても聞こえてるよ。ちょっと待ってなよ」
「っ!」
振り返った少年の顔立ちは整い過ぎていて、人間味がまるでなかった。
ゾワリとした悪寒が背筋を走り、唾を呑む。
「よし、通報完了。これでバンされるでしょ。あっ、お前、いつまでそこにいるつもりだよ。こっちに早く来る」
「あ、ああ」
待たせた事へのお詫びもなく、少し眉を眉間に寄せて俺を命令口調で手招く。
だが、不思議と逆らう気が起きず、大人しく少年の近くへ行く。
「さて、まずは自己紹介だね。僕はミロ、前世の君を殺した犯人だ。ああ、事故じゃなくて狙ってやったから、そこは勘違いしないでよね」
…………は?
――――――――――――――――
あとがき
これで序章終了です。
次回の話で彼が転生した理由と、都合よくゲームに関しての事を思い出せた理由が分かります。
まあ、後者はもう予想出来てると思いますけど。
神様転生かよ、飽きてるんだよなと、思った方もいるかもしれませんが、そういった存在の関与が無いのに十年以上前の事を詳細に思い出せないと思うんですよね、普通。
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