第221話 教会が無人になった日

「「な、なんだ!うわっ!」」


 くふふふ。皆さん驚いていますね。地下の薄暗いところから、日のあたる教会の裏庭に出たのですからね。じゃあここで待っていてもらって、僕達は回復魔法の教本もらいに行きますか。


「皆さん。この後少しだけ待ってて下さい。悪者の教会の人達は、衛兵さんのところにいますので、もう捕まったりする事もないので大丈夫ですから。この後少し、覚えてもらいたい事があるので、待っていて下さいね。よろしくお願いします」


「おい、どういう事なのだ? 本当に地下に戻らず、外に出ていても大丈夫か? 教会のやつらは回復の力のある者、俺達を逃がすなど考えられないのだが。確かに今ここにはいなさそうだが」


 おじさんが一人前に出てきてそう言ってきました。


「あのですね、教会の人がいないのは、先日冒険者ギルドで教会のえっと、司教さんに僕が絡まれまして、その時に司教さんの命令でしたが、教会の兵士さんが剣を抜いたのですよ。なので捕まえて皆さんを奴隷にしたり、色々とやっていた悪さを白状したはずです。それを知った衛兵さん達がこの教会に来て、捕まえたんだと思います」


「じゃあ、俺達は自由になったって事か?」


「はい。たぶんこのダンジョンの街ではもう大丈夫だと思いますよ」


「そ、それなら早く家族の元に帰りたいのだが」


「はい。ですから皆さんが使える『回復魔法』と『手当て』スキルのちゃんとした使い方を覚えていってもらえば、この街はダンジョンの街です。怪我なんて日常茶飯事に起こりますよね? その怪我を皆さんが治せば冒険者さん達は喜んでお代を支払ってくれると思いませんか?」


 おお、皆さん興味津々ですよ。いつの間にか円を組んで、僕達が真ん中になっていますし。


「そこで教会が取っていた料金よりも安く。そうですね、小さな切り傷で銀貨取っていたのを大銅貨にするだけで、これまで多少の傷なら我慢して、数日依頼を請けずに休んでいた方達も、治療を受けに来ると思いませんか?」


 くふふふ。皆さん『そ、そうだ、大銅貨で休まなくて良いなら絶対来るぞ』『俺も冒険者だったが、その通りだ』とか良い感じですね。


「なので『回復魔法』と『手当て』スキルのやり方が書いてある本を持ってきますから少しだけ待っていてもらえますか?」


「ああ、一刻も早く帰りたいってのはあるが、それは待っても聴いておくべきだと思う。頼む、その本を俺達に見せて欲しい」


「はい。では、少しだけ待っていて下さいね」


 僕は教会の庭に面したテラスから中に入り、テラの言う方に進んで一階の奥にあった執務室のような部屋に到着しました。


「とりあえず、その本棚のここからここまでがそうね。まだまだ別の部屋にもあるから次の部屋に行くわよ」


「ほう。なるほど中々分かりやすい教本ではないか。スキルがあれば詠唱をするだけで発動とはな。まあ、魔力を無駄に使い、効果も半減といったところかの」


「そうね。まあ、ライみたいな人は滅多にいないわよ? サーバル家のまわりと言うか、ライまわりの人以外わね。まったく、古代魔法がライまわりで復活していってるものね、ほら、こっちの部屋の木箱の中身は教本よ」


 それから何ヵ所か部屋を巡ると、人数分以上の教本が手に入りました。


 そしてみんなを待たせている庭に向かい、一人一冊ずつ配ったのですが、まだ字の読めない子もいたので、その子達には大人の方が教えるようにお願いして、解散となりました。


 みんながぞろぞろと教会から出ていきますから、大通りは少しだけ混雑しましたが、すぐにみんな自分の家にバラけていきました。


 それを見送っていると。


「君。先日冒険者ギルドで、やっぱりそうだ。君も教会に捕まっていた方が心配で見に来たのかな?」


 あっ、先日の衛兵さんですね。


「はい。そんなところです。でも皆さん出ていきましたよ? 教会の中は誰もいないみたいですし」


「うむ。詰問の際に聞いた話では、奴隷の魔道具を嵌めていると聞いたのだが、まあ、後で調べればわかる事だな。よし私はあの者達がちゃんと帰れるか見てくる事にする。ではな」


「はい。よろしくお願いしますね」


 そう言うと、何人もの衛兵さん達が、バラバラに帰っていく人達について、教会から離れていきました。


「ライ。じゃあこれでこの街は終わりなの? それとも残りのダンジョンも覗いていく?」


「そうですね、たぶんこの教会の話が広まって、その内この大陸の教国にも知られますよね?」


「そうね、警戒されて、悪さの証拠を隠されたりするかもね。それじゃあ先に教国から行っちゃえば良いじゃない? これから暑くなる夏だし、北の教国ならちょうど涼しくて良いかもね」


「そうじゃな。それにこの大陸一のダンジョンがあるからの。良い考えじゃ」


「おおー! 大陸一ですか! 良い物が採取できるのかな?」


「ん? いや、それもあるが、強い魔物がいるのじゃ。それも素材が採れる魔物ばかりでな。人気が大陸一なのじゃよ。高ランクの冒険者はもちろん、低ランクでも、採取できる薬草や食材も豊富なのじゃよ」


「あら、じゃあ、良いお土産になりそうな物があるかもしれないわね」


「そうだね、よし、今から飛んじゃいましょう!」


 そして僕達は、ダンジョン街の北門に向かう事にしました。

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