第146話 奥さん候補発見です

「公爵は泳げるんだな! やるじゃねえか!」


「まだまだ! くっ! ライ、早すぎるぞ!」


「くふふふ。最近ですが沢山練習しましたからね♪」


「ねえムルムル。結局こうなるのね、イシェまで······あの恥ずかしがっていたのはなんだったのかしら」


(······たのしい······いいこと)


「はぁ、そうね、楽しまなきゃね。よし、ライ! 滑り台よ! 縦回転は無しでね!」




 大きなお風呂で楽しんだ後、三人でのぼせてしまい、少し心配されましたが、翌朝、朝ごはんを管理監さんのお屋敷でいただいた後、イシェやキャロ、お屋敷で泊ったみんなに挨拶をして町を出ました。


 次はタシンサ男爵がいる街に向かいます。聞くと、今いるバラクーダ辺境伯の領地の隣で、小さいながらも商業の街だそうです。沢山の商人が、集まり、湖の畔にある賑やかな街。


 長い下りの先に見えるキラキラと日の光で輝く湖、それを見下ろしながら走るとその畔にある街が見えました。お昼くらいには到着すると思います。


 予想通りお昼前には門前に到着。入門も、人数が少なく荷馬車の方達は色々と見られているようですが、歩きはギルドカードを見せるだけで入る事が――。


「え、Sランク! 小僧じゃなくてき、君が!」


「はい」


 くふふふ。門番さんは僕のギルドカードと顔を何度も見比べ、わたわたしています。


「よ、よし、通って良い、じゃなくて、どうぞお通り下さい」


 ――できました。入門完了です♪


 門をくぐり抜けると広場があり、その一角に冒険者ギルドを見付け、早速中へ。


 お昼時ですから食事処は混雑していますが、受付は空いています。まっすぐ進み、真ん中のエルフさんですね。つんっととんがり耳のお姉さんじゃなくて、お姉さんの左にいる、なんだか偉い人に見えるおじさんにお尋ねすることにしました。


「こんにちは。ギルドマスターさんにお手紙をお持ちしたのですが、いらっしゃいますか?」


「ああ、こんにちは。ギルドマスター、手紙だそうだ」


「え? 私ですか? どちらからの手紙でしょうか?」


 なんと、エルフ耳のお姉さんの向こう側のもう一人いたお姉さんが返事をしましたよ!


(くふふふ。残念ね、ちなみにこのおじさんがサブマスね、お昼時で交代していたのかもね)


 僕の予想は外れ、少し残念ですが、僕は手紙を持ちながら右に移動して、返事をしたお姉さんの元に。


「はい、この手紙です」


「ありがとう。どなたかなっ! ――サーバル男爵様の! 剣聖様ですよ! あわわわ、こ、恋文でしょうか! ど、どうしましょう! 転属願いを本部に出さないといけませんよね、ねえ、サブマス、私どうすれば良いの!」


「だぁ! 落ち着けギルドマスター! まずは中身を確認だろうが! ったく、こんなんでよくSランクまでいけたもんだぜ、それでいて頭も良いと来てやがるし、ほらよ、ナイフ貸してやるからさっさと読め」


「だ、だってぇ~、憧れの剣聖様ですよ~。ぶぅ~」


 あはは······父さん、Sランクの方が父さんの事好きみたいですよ、まだまだ奥さんが増えても良いですし、僕にも弟か、妹ができるかも知れませんから、僕は反対しませんよ。


 ギルドマスターはナイフを受け取り、それはもう丁寧に開封し、壊れ物でも扱うが如く中の手紙を出して、そ~っと手紙を広げ読み始めました。


 キラキラな期待してますよの目から、鋭く、獲物を狙う目に変わりました。雰囲気もまるで先程とは違い、ピリピリとした感覚が伝わってくるほどです。


「サブマス、読んで······」


 ギルドマスターは言葉こそ、苛立ちを隠さない声色ですが、手紙は丁寧に横に来ていたサブマスに渡しました。


 渡された手紙を一応丁寧に扱いながら読見始め、こちらも顔が赤くなり、怒りがにじみ出ています。そして、読み終わったところで、国境ダンジョンの事をお話ししました。


「ねえ、サブマス。タシンサの馬車は明日出発でしたよね」


「ああ。往復の依頼が来ていたぞ、支援物資のため、なるべく安く多くを運ぶために金を使い、護衛の報酬は下げて欲しいと言われ、クソ野郎の癖に考えたなと感心したが、全部自分の儲けのためじゃねえか!」


「それに隣国へ攻め入るって? よし、今から吊し上げに行きますか、屋敷は更地で良いわよね?」


「ギルドマスターさん。お屋敷は次に来る方に引き継ぎがあるでしょうし、本人だけで我慢して下さいね、それに壊してしまうとまたお金がかかりますよ?」


「そうでした、ん~、仕方ありませんね、たかが男爵風情が領主ってだけで威張り散らしていたからその内と思ってたしちょうど良いわね、君も手紙をありがとう。そうだ! 剣聖様にお返事を書かなきゃ!」


「はい。書いてもらえれば、僕が父さんに渡しますよ」


「え? と、父さんに?」


「はい。申し遅れました。僕はライリール・ドライ・サーバルと言います。お気軽にライと呼んでください。あっこれギルドカード、ギルドマスターさんとお揃いです♪」


 僕はギルドカードを見せ、驚いてくれるのを期待したのですが。


「嘘っ! どうしましょう! お、お義母様と呼んでもらえるかしら、ラ、ライ君?」


「おい! そうじゃねえだろ! まったく、すまねえな、ってか『スライム使い』か、想像通りのお子様だな。この後は時間あるか? このポンコツギルドマスターとライだな、ライの二人がいれば、奴を無傷で捕まえられるだろ?」


「は、はぁ。まあできますね、えっと、本当に父さんの奥さんになりたいのなら、後で紹介しても良いですよ?」


「ぜひ!」


 シュッと音が聞こえたと思ったら、カウンターの向こう側から僕の方へ乗り越えて来て、ギルドカードを見せるため前に出していた手を握りしめてきました。


 うん。この人凄く強いですね、こんな方がサーバル男爵領に来てもらえれば、父さんも喜びますよね。


(はぁ。まあ確かにそうよね、お義母様も大したものだし、この方も加われば戦力強化間違いなしだけど)


(だよね! よし、タシンサ男爵を捕まえて、すぐに連れていきましょう!)

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