第144話 古代魔法使い

「ちょっ! ちょっと待って下さい! す、すぐに確認してきます!」


 そう言うと持っていた槍を落とし、たぶんですが、キャロの手紙を届けに行った人と二人でやってた門番さん······あの、あなたが行っちゃうと、誰もいなくなっちゃいますよね······怒られませんか?


「なんだよ門番の癖に客をほっといて行っちまったぞ。しゃーねーな、俺がやっといてやるか。よいしょって重てえなこの槍、こんなの持ってちゃ動けねえぞ」


「キャロ、怪我しないでね、鉄でできた槍だから結構重いよね?」


「おう。俺はナイフしか使えねえな、短剣も重くて仕方ねえしよ、どっかに軽い武器でもねえもんかな、そうすりゃ討伐依頼も請けるんだがよ」


 うん。キャロは町の中で依頼をしていて欲しいな、たぶん怪我しちゃうよ。


「なんだ、その程度の槍が持てねえなら魔法を習えよ、多少は魔力があんだろ?」


「習う金がねえな。誰かただで教えてくれねえかな~、どっこいしょと! ふう」


 門の所に槍を立て掛けたキャロ。今度は壁に向かって右手を伸ばし。


「ファイアーボール! とかやってみてえ!」


「かははは! そうやってりゃ良い、いつかはできるかもな、だがアローを覚えた方が良いな、ボールだと焼け焦げるから売値が下がるからよ。それにファイアー系よりウインドとウォーターだな。あれなら値下がりも少なくてすむぞ」


「そうだよキャロ、それに魔法はね、ちょっと手を貸してね。こんな風にやるんだよ」


 僕はキャロの手を掴んでキャロが動かしやすそうな方向に回してあげました。


「おおっ、体ん中を何かぐるぐる回ってるぞ! これが魔法か! よし! こう来てこう来るから、勢い付けてぇー! ウインドアロー!」


 え? 自分で回し始めて動きも変えてるしそのままだとお屋敷に飛んでっちゃう!


 呪文を唱えたキャロの手は、お屋敷に向いています! 出ましたよ!


 僕は咄嗟にキャロウインドアローを操り、地面に、石畳はマズイので、横の芝に向けて落としました······なんて子ですか、ほんの一瞬でぐるぐる覚えちゃいましたよ。


(ライ、この子覚醒したわよ······分かる?)


(う、うん。凄い魔力を感じるよ、くふふ。跳び跳ねてますね)


「うおー! 見たか今の! 俺の手からウインドアローが出たんだぜ! ひゃっほーい♪」


「やるじゃねえか! マジでやりやがった、その調子で練習しとけよ、その内狙ったところに撃てるようになるからよっと、門番が戻ってきやがったな、早く入れろってんだ。おい! 入って良いのか!」


 お屋敷から出てきた門番さんは、芝に開いた穴と、飛び散った土を怪訝な顔で一瞬見ましたが、止まらずに門まで戻って来ました。


「お、お待たせしました。ライ様、それから皆様も、どうぞお通り下さい。そうだ、お前も一緒に行ってこい、皆様の案内と、滅多に会えるものじゃない公爵様と会えるからな」


「おっ、良いのか? まあ見るくれえはしてみたいもんな、おしっ、みんな行くぞ、俺が案内してやる、何度もこの屋敷には来てるから任せておけ」


 そう言うと掴んだままだった僕の手を引き、石畳の上をお屋敷に向かいます。


 後ろからも冒険者と兵士の皆さんが付いてきますがこんなに一度に入って怒られないのかな? と思っていると。


 キャロは正面の入り口には進まず、芝生に入っていきます。


 お屋敷を回り込むようにして向かったのはテラスのようです。


(ねえテラ。キャロもう自分で魔力をぐるぐるしだしてるよ、それも無意識に······凄い事だよね?)


(そうね、凄いと言うか、こんな子初めてよ。ねえ、この子イシェに預けない? イシェの元ならしっかり学べると思うわよ、ちょうど年齢も一緒だし)


(あはは······見た目が全然違うのに、そうだね、相談してみるよ)


 テラと念話してる間にテラスに到着し、階段を三段上り、開かれている所から。


「おっちゃーん! お客さん連れて来たぞ! それに公爵は、お前だな。初めまして、俺はキャロだ! よろしくな。おっちゃんは頑張ってるからいじめんなよ」


「こ、これ、キャロや、公爵様に向かってなんて事を、早く謝りなさい」


「くははは、構わん。冒険者仲間はほとんどそんな感じだからな。ところでキャロとやら、なぜ私の夫となるライの手を握っておるのだ? もしや、ライの友人であるか? それに、こやつには厄介になるのでな、少しばかり屋敷が窮屈になるが、そこは許せ」


「おう。公爵も泊まるのか、俺もたまに裏の小屋でこっそり泊まってるからよ。ってか用事を忘れていたぜ、おっちゃん、俺の手紙の受け取りをくれねえか? それから公爵の友達も連れてきたぞ······え? 公爵がライの奥さんになるんか?」


 途中で気付いたようですが、手を繋いだままの僕を見上げそう言いました。


「あはは······人攫いにあったところを助けた時にちょっとばかりあってね、そうなったんだよ」


「うむ。皆も無事で何よりだ。キャロ、案内感謝する」


「「お嬢ぉー!お嬢様ぁー!」」


 兵士さん達と冒険者さん達が部屋になだれ込み、大騒ぎです。ですがイシェは笑っていますから、本当に良かったと思います。よし、こうなったらバーベキューにしてもらいましょう。


 僕は管理監さんにこの屋敷の料理人さんを紹介してもらい、テラス前にバーベキューの焼き台を土魔法で作ったりと準備を始めました。


 キャロには依頼達成の報告がすんだらここに戻るよう言って走り去るのを見送り、料理人さんにオークを数匹さばいてもらいました。


 日もかげり、薄暗くなるころキャロが戻り、バーベキューが始まりました。


 その中でイシェにお願いに行きましょう。


 ちょうど管理監とイシェ、なぜかキャロが同じ席で食べているようですし。


「イシェ、ちょっとお願いがあるんだけど、良いかな?」


「ん? 良いぞ、できる事ならやってやろうではないか」


「ありがとう。キャロの事なんだけど」


「ん? 俺の事?」


「そうだよ、キャロは凄い魔法の素質があるからイシェに保護してもらいたいと思ってね、学院に入れるならそれも良いかも」


「ふむ。Sランクの旦那様にそう言わせるほどか。······キャロよ、お主私と共に来るか?」


「Sランク! お前そんなにスゲー奴だったのかよ! おっと、公爵、俺みたいなもんが側にいても大丈夫か? この町の孤児院出身だぜ?」


「くくくっ。今さら何を言うておる。私にはそれで良いのだ。そうだな、気を付けるのは皇帝と他国の王くらいな物だ。構わん。私はお主を気に入ったのでな」


「······そ、そうか。じゃあ俺もSランクに行けるのか?」


「うん。学院を卒業したら一緒に旅をして、依頼を請けてればその内上がっちゃうよ」


 そしてキャロは公爵家に居候する事になり、頑張って勉強するそうです。その後、イシェとキャロに魔力の回し方を教えて、その夜はこのまま管理監の本宅でキャロも泊まる事になりました。




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