第111話 テラとムルムル

「よし。ライが帝国行きの依頼を請けてくれるなら、ひとまずの防衛策は各町村でもできる事があるだろう。そうだライ、助けた者達をこの後ラビリンス王国へ運んでもらえないか? いくらサーバル家の庭が広いとはいえ、メイドや料理人を見ていて不憫でな」


 さっきのマリーアを思い出し、申し訳無さが込み上げてきました。


「そ、そうですね、ダンジョン街で良ければすぐにでも行けますよ? ですが七百人ほどいますよね? いきなり行って泊まるところが確保できるかどうかですね」


 僕達や冒険者達なら夜営でもなんでもできますが、子供達はそうは行きませんからね。


「うむ。その事は既にライが子供達を連れてきた段階で、あの町に住む領主に魔道具で受け入れの打診をして了解を得ている。だから領主の屋敷に連れて行けば問題はない。費用についてもラビリンス王が出す事になっているから心配はないぞ。それから千五百人だぞ?」


 そ、そうでした、後からも沢山送りましたから、それくらいになりますね、あはは······。焦りすぎました。


 でも転移は大丈夫です。それに確か領主のお屋敷は門を入ってすぐにありましたし、門の中は中々の広さもありましたから大丈夫ですね。


「分かりました。そうだ! プシュケを学院に通わせたいんだけどこんな途中からは無理ですか?」


「え? お、お勉強――!」


 プシュケは凄く驚いたような嫌なような微妙な表情になりましたが、今からならそんなに遅れはないはずですし、それに、お嫁さんになってくれるなら、フィーアやティとも仲良くなって欲しいかな。


「王都の学院に入れるか? フィーアも王都に呼べば来そうだがノスフェラトゥ公爵が、うんと言わんだろうな。ブラフマー公爵領にティを戻すか?」


「ディーバ、それだ。将来的に家族になるのだ、それは良い考えだと思うぞ」


「あはは······。シーとアースにも探してやらんとな。ライに四人も奥さんができるようだし、まあケット・シーが混ざってるが」


「父さん五人だよ。テラもお嫁さんになってくれるからね♪」


「にゃ! にゃにを急に! ち、ちょっとちゅってしたからそんな事言われてもまだ心の準備が――あっ······」


 この部屋のみんながテラに集中しちゃってますね。


「まあ♪ テラちゃんはライの旅立ちからずっと一緒ですからね。ムルムルちゃんもライの奥さんになってくれるのかな?」


 母さんがそう言うと、ムルムルは二本の突起を伸ばし、丸を作り、ぷるっぷると震え、良いよ~って事ですね。


「ム、ムルムルまで! し、仕方がないわね! ライ、私が奥さんになった限りは滅茶苦茶頑張りなさいよね! ムルムルもよ! それからプシュケ、リント、ここにはいないけどティとフィーアも私がついてるから頑張りなさい!」


(でないと、この中だとムルムルとプシュケ以外は······)


「うん。頑張るよ。お嫁さんになってくれてありがとうテラ」


「よし。では、帝国に行く前までには入学の手続きは終わらせておこう。宰相、手配を頼む」


「かしこまりました。数日はお時間をいただきますが、ラビリンス王国の王都に赴くのでしたら大丈夫ですね」


 その後、怒られることもなく、話は進み、おやつをいただいた後、千五百人を連れて、ダンジョン街に戻りました。もちろん門の外でしたから、沢山の目があり、驚かれましたが、すぐに門番さんが領主さんに連絡を入れてくれたので、すぐに街に入り、そのまま領主のお屋敷に入ることが出来ました。


 引き渡した後、泊まるところを探していると、露店があったので色々見て回ってしまいました。


「良いのがありましたね♪ 学院に持っていかないとですよ!」


 そう言って、掲げているのは、釣竿だから、余り持っていかない方が良いかもですよ。でも喜んでいますし、良い事にしましょう。


 リントは、干し肉を大事そうに抱えて、二本足で歩いていますし、器用ですね♪


「ライ、このブドウは美味しいワインになるからお父様の領地で育てるわよ!」


 今度は紫色のブドウを一粒頭に乗せています。まあブドウならそんなに大きく······。気を付けておきましょう。


 ムルムルはなぜか残りのブドウを一粒ずつ消化していってます。それ、残しておかなくて良いのかな? 後で怒られない?


「あっ! ムルムルそれ食べちゃみんなの分よ! 残しておきなさいね」


 食べる分だから良いみたいだね。


 そんな感じで僕は、プシュケと一緒に釣竿を買いました。夕方宿を探していると、三階建ての宿がありましたので、そこに入ることにしました。


「こんばんは。一晩空いてますか?」


「いらっしゃいま······せ? 僕ちゃん達に泊まれるかな? 銀貨五枚だけど」


「はい。大丈夫ですよ? 後お風呂はありますか?」


 そう言って銀貨を出していると。


「おやまぁ。小さな冒険者さんだと思ったけど、それじゃあ中々上のランクみたいですね。う~ん、お風呂のある部屋は大銀貨の部屋ですね、ごめんね」


「じゃあそこでお願いします」


 出しかけていた銀貨をしまい、大銀貨を出しているとプシュケが僕も思っていた事を先に言っちゃいました。


「大きなお風呂楽しみです! 泳ぎは任せて下さいですよ!」


「おやおや。それじゃあ大銀貨三枚のお部屋なら、十分泳げるわよ、一枚のところもゆっくりは入れるんだけど、泳ぐのは無理かなぁ」


 僕は黙って大銀貨を三枚出して、受付のお姉さんに渡しました。


「本気かい! あははは。毎度あり部屋は階段を上がった一番上の三階だよ、はい、お風呂楽しんでね。晩ごはんは部屋に運ぶから、少しお待ちください」


「「は~い♪はいにゃ!」」


 鍵を受け取り階段を上るとそこはなんと左右に一部屋ずつしかないではありませんか!

 そして、その一つの部屋の前には、護衛でしょうか、装備をしたままのお兄さんとお姉さんが立っていました。


 僕はその扉のお向かいの扉に向かい、鍵を確かめると正解ですね。ここが僕達の部屋のようです。


 一応お向かいさんなので、ご挨拶だけ。


「お疲れ様です。今夜一晩はお向かいさんです。うるさくはしないつもりですが、もし何かありましたらお気軽にお声掛けくださいませ。失礼します」


「まあ。礼儀正しい冒険者君。よろしくお願いいたしますね」


「うむ。どこかの貴族上がりだろうね、よろしくな」


「では、失礼しました」


 そう言って、僕達は部屋に入りました。


『ねえ、今の子凄い武器を持ってたわよ』


『ああ。見た目で侮ることはできんな』



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