第81話 またまた忘れていました

「にぁぁ~。畑だらけにゃ」


 入ってきた門とは違う門から出て、お昼ごはんを作ろうとしていたのですが、リントの言う通り見渡す限り畑畑畑。


「サーバル男爵領でもエルフの町がこんな感じで一面畑だから野菜が育ったらこんな感じになるのかもですね」


「そっか、ライが大きな畑を作ってましたからね。うんうんたぶん負けてませんよ♪ 秋の実りの季節が楽しみです」


「そうだね。よし、ここでバーベキューにしよう! この前マシューにオーク肉を切っておいてもらったんだ。リントにはお魚もあるよ」


「肉にするにゃ! さかにゃはまた今度にゃ」


「ライ。ムルムルのはオークキングを出してね。くふふふ。さあムルムル、美味しいオークキングよ!」


 ぷるっぷるっ


「おお。嬉しそうですね、よし出すね~ほいっと!」


 ズンと畦道あぜみちにオークキングを出してムルムルを······ん~、最近魔石の色が濃くなったような?


 気のせいですかね。


 ムルムルをオークキングの胸の上に下ろすと、みにょ~んと伸びて包み込んでしまいます。

 その後はいつも通りシュルシュルと縮まり元の大きさに。


「うんうん順調ね♪ どんどん食べて大きくなるのよ」


 テラはムルムルをぽんぽんと叩いてそんな事を言いますが、ムルムルは普通のスライムですからね。でも魔石を高速で回してぐるぐるを頑張っているようですが······あれ? 少し魔力も魔石に引っ張られ微かに動いていますよね?


 でもそんな時でしたテラが叫びだしたのは。


「――あぁぁぁぁー! 不味いわライ! 来ちゃった! 来ちゃったのよ!」


「どうしたのテラ? そんなに慌てて何が来たの?」


 テラはムルムルの上で立ち上がりせわしなく足踏みをしてますがムルムル大丈夫?


「ご!」


「ご?」


「あの子のー! 御神樹様のー!」


 御神樹様の······っ!


「あ! あぁぁぁぁー! ま、不味いですよ! あぁぁぁぁー! どうしよう! と、とりあえずサーバル男爵領に行かなきゃ! 転移!」


 パッ


「ありがとうライって嘘! 嘘嘘嘘嘘っ! ライここお屋敷の中じゃない! は、早く! そこからで窓からで良い! もう大きくなっちゃう! お願いだから庭で良いから外へ!」


「うん! もう開けてられません! 僕の最大魔法! アルティメット・ウインドー!」


 バゴォー


 激しく回転する風の刃が二階にある僕の部屋の壁を綺麗に丸く切り取り、破片も小さな石ころくらいにまで切り刻まれ、大人の人が立って通れる大きさに穴が空きました。

 そこから外へ出るため勢い良く走り出し、肩にいたムルムルとテラを手に抱え、勢いをつけたまま飛び出しました。


「お願いもう少しだけ待って! ライ庭の真ん中へ! あの大きな池の真ん中ならたぶん!」


「うん! 全速力でいきます! はぁぁー!」


 ドンッ


 着地と同時に前へ地面を蹴りつけ方向を縦から横に変えます。


 ドゴッ


 たぶん穴が空きましたがそんな事は言ってられません!


「間に合わない! ライー!」


「任せて!」


 僕は慎重に大きくなり始めた果実をテラの頭から手に取り、屋敷の庭の中央にある大きな池へ、池の中央にある島に目掛けて投げました――しっ!


「間に合え!」


「お願い届いて!」


 手を離れた果実は少し大きくなって今したが、まだ十センチくらいしでした。ですが池の方に近づくにつれムクムクと大きくなり、池に後少しで届く! と言うところでもう大きさは十メートルを超え沢山の根っこがみるみる内に伸び、その一本が地面についた瞬間!


 ズズズズズズッ


「嘘っ! 手前で根付いちゃうよ! テラ!」


「不味いわ! たぶんまだまだ近い! ギリギリお屋敷に届くかも! どうしょう! 未来のお義父様お義母様のお家なのに! ライ何とかしてぇー!」


 え? テラ、僕のお嫁さんになってくれるの······。


「やったぁー! もう任せて下さい! ちょっと根っこの先が切れちゃうかも知れませんが許して下さいね! ぐるぐるーーー! 転移!!」


 パッ


 転移させた場所は家の自慢の一つ、湖と言ってしまえるくらい大きな池、たぶん対岸までは二百メートルくらいある池の中央。

 そこに浮かぶのは、半径二十メートルほどのそこそこ大きい島。その島の上空です。


「うん! あそこならまずお屋敷には届かないわ! 池の範囲でおさまるはず!」


 根っこが相当伸びてましたのでたぶん百メートルくらい上空に現れた根っこのお化け。


 その一番したの根っこが島についた瞬間でした。


「うにゃー! どんどん根っこが伸びてるにゃ! ずにょにょにょーってのびてるにゃよー!」


「はわわわっ! 鳥かごみたいに根っこがなってますよ! あー! 島が囲われちゃいましたぁー!」


 リントとプシュケが言った通り、本来なら土の中にあるはずの根っこで島を包むように鳥かご、おりのようになっています。


「良いわ、そのまま大きくなりなさい! ライ、根っこに魔力を補充すれば丈夫に太くなるからお願い! あのままの根の細さでは倒れちゃうの!」


「よし! 街中どころか、広げられる最大で魔力を補充してあげる!」


 僕はおもいっきり魔力をぐるぐるさせ、あっ、エルフの町までも届きました!


 みんなからも少しずつお借りしますね――!


「ほいっと!!」


 根っこが囲っている島の中央に魔力をどんどん集めていきます。


 それはもう景色が蜃気楼のようにゆらゆらと歪んで見えるくらいの魔力が集まってきています。


 すると、細い根が隣の根っこと絡まり合いながら太く、たくましい根に生まれ変わっていきます。


 無数の、数えきれないほどあった根っこは数を減らしましたがその一本一本がたくましく太くなり、しっかり大地を掴んだように。


「神眼! やったわ! この子も賢い! まとめた根っこでしっかり立っちゃったわ! 七十二本の根っこで支え、今度は上に行くわよ!」


 それは、テラの団栗の木より、僕の団栗の木より、元々あった御神樹よりも幹の太さも高さも遥かに上回る巨大な木が······


「坊っちゃんこれは!」


 カヤッツ


「ライ坊っちゃんなんて物を」


 マシュー


「まあまあ。大きな木ねぇ」


「いやお前、大きい木だがそれよりなんだこれは······」


 父さん母さんまでお屋敷から僕達の元へ駆け寄り、木を見上げながら各々そんな事を呟いています。


 これは怒られちゃいますかね······。

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