第44話 ハイエルフの村 ①

 小道を森の奥に向かって進んでいると、ぽっかり木々が無くなりサーバル家のお屋敷くらいが空き地になっていました。


 その空き地に小屋がぽつんと建っていて、その横にはこんもりとした物がいくつもあります。


「たぶん人族の炭焼き小屋ですね。この森にたまに来てるって聞いたことがあります」


 プシュケがそれを見て、教えてくれました。


「へぇ~、ここに寝泊まりしながら炭を作っているのか。だから小道に馬車にしては幅の狭いわだちがあったんだね♪ 納得です♪ プシュケ、ちょっとだけ窯の造りを覗いてみるから待っててね♪」


「はい。そっちが窯です、村にもありました。でも屋根は魔物に壊されているみたいですね」


 窯の入口は土壁みたいな物で蓋をされているので中を見ることが出来ませんが、全体は丸くこんもりと膨らんでいます。


「いくつもあるから結構大量に作っていたみたいですね。家の方はっと」


 扉に手を掛けるとやっぱり閉まっていました。


「ん~、次はいつテントが張れる場所があるか分からないので、今日はここで泊まることにしましょう♪ テントを出しますね」


「扉が開いていれば一晩だけ借りられたのですが残念ですね。でもテントって私好きです♪ 村から出て三日テントで寝ましたから。一人は寂しいですが。あはは」


「だよね♪ 僕なんか冒険に出る前も家の前でテントを張って、遊んだよ。そして焚き火をしてハサミエビを焼いて食べたりしてたんだ♪」


「まあ! それは楽しそうです♪ あっ、手伝いますね♪」


 二人で小屋と窯の間にテントを張り焚き火の用意もしておきます。


 するとテラが一つの方向を指差しました。


「ねえライ。この方向に目的の木があるんだけど、何か感じるのよ。ちょっとライも見てくれない?」


「いいよ♪ ん~、ほいっと!」


 テラが指差す方向に魔力を広げ伸ばしていきます。


 すると壁があるように感じました。


「壁がありますね? ん~、それも炭焼き窯みたいにこんもりとした感じかな?」


「それね。あの木をおおえるほどの結界を張っているなら中々のものね」


「あっ、それ私がいた村だと思います。御神樹様の根元に住んでいましたから」


 御神樹様か、うんうん相当高い所まで結界があるようですから立派な木なのでしょうね。


「そうなの? プシュケ、私達はそこに寄りたいのだけど大丈夫? なんなら隠れていても良いわよ?」


「いえ、父さん母さんに冒険者の仲間が出来た事を報告出来ますから一緒に行きましょう」


 夕ごはんを食べ、一緒にテントで寝て、魔物の襲撃もなく夜が明けました。


 朝ごはんはサンドイッチにして、食べ終わり片付けをして出発です。


 炭焼き小屋の空き地からは道無き道、本当に獣道を進む事になりました。


 方角は、壁(結界)目印にしていますので、迷う事はありませんが下草をかき分け進むので、どうしても時間がかかってしまいます。


「ん~、プシュケが三日かかったって言う原因はこの下草があるからですね。よし、プシュケを背負って、木の枝を使い進みましょう♪ おいでプシュケ」


「へ? 背負うのですか? 私を? ですか?」


「うんうん♪ ん~と背負子があったはず······、あった! はい、乗って♪」


 僕はずっと前マシューに頼まれて作った薪用の背負子、僕似合わせて作ったのでマシューには小さすぎて、使えたかった背負子です


 それを背負いしゃがみこんで、プシュケが乗るのを待ちます。


「じゃあ乗りますよ? 良いのかな? よいしょ」


 プシュケが前向きに乗ったので、立ち上がり、ロープを使い僕とプシュケを結びます。


「よし♪ これでプシュケが落ちることはないね♪ んじゃ~ムルムルとテラは昨日と同じで抱えるね」


「頼んだわ♪ でも落とさないでよね、しっかり持っててよ!」


「は~い♪ よ~い、ドン!」


 ぴょんぴょん枝から枝へ跳び移りながら進んでいると、下から見上げているゴブリンさんがいて、「えっ?」って顔で見てきましたが、ウインドニードルを飛ばしやっつけながら進んで行きます。


「はわわわ! はや! 速いです! 高いです! もう山菜を採りに来ていた場所ですよ! もう少ししたら大きな岩がありますので、そこで止まって下さい。中に入るのにやり方があるんですよ」


「ん~、分かりました。あ、あれですね~♪ と・う・ちゃ・く!」


 スタッ


「着地も完璧!」


「凄いです! 私が三日かかったのに、半日もかかっていませんよ! ライ凄すぎです!」


「ぬふふ。頑張って修行した成果なのです♪」


 着地した目の前には大きな岩がちょうど門のようになっていて、横並びの岩の上に橋渡し状態で岩が乗っています。


 そこから入るんだと思うのですが、見られてますね。


 とりあえず門番さんのところに向かいましょうか。


 そして門番さんに声をかけようとした時門番さんから声がかかりました。


「止まれ! 人族がこの村になんのようだ!」


「ここの村にある木の様子を見に来たのですよ。以前その木のお世話をしたそうですから」


「ならん! ここはハイエルフの聖地! 野蛮な人族など入れたのは相当昔の事だ! 貴様のような子供がいつ世話が出来ると思っている! 帰れ!」


 あら、簡単には入れてもらえないようですね。


 背中から弓を外し、矢も矢筒から引き抜き僕に向けて構えてきました。


「ちょっと待って下さい! 私です! プシュケです! あ、あのライ、下ろしてもらえますか?」


「ん? 良いけど、今弓矢で狙われているからきをつけてね」


「は、はい」


「まあ危なくなっても僕が守りますから」


 わえていたロープを外し、しゃがむとプシュケは、「よいしょ」と背負子から降り、門番さんに向きなおります。


「プシュケか、三日前に出ていったと聞いたが、何しに戻ってきた」


 弓矢は構えたままなので、少しぐるぐるさせておきましょう。


「ライ、この結界破れるわよね?」


 テラはまた耳たぶを引っ張りながら小声で聞いてきます。


「うん。思ったより簡単そうだよ♪ やっちゃう?」


「くふふふ。まあ、そうなのね♪ なら今じゃなくても良いわ。入れてもらえないならその時破れば良いだけだし。でも弓矢はちょっと嫌ね。プシュケの話が上手く行けば良いけど、ダメなら引く前に気絶させるのよ」


 そうですよね。気絶した瞬間に矢が飛んで来ちゃいますし。


「うん」


「冒険者になり、共に活動する仲間が出来たので、父さんと母さんに報告しに来たのです。どうか入れてもらえませんか? ちゃんと通行の札を持っています」


 プシュケは、首からネックレス······紐で小さな木札が吊ってあるだけの物を門番さんに見せていますが。


「残念だが入る事は出来ん。今日のお昼にハイエルフでは無い者を産んだお前の母親の処刑が執行される。それを阻止しようとした父親も、反逆者として同じく処刑が執行される事になっている」


 えっ?


「だから立ち去れ! 仕事のじゃまだ!」


「う そ······」


 何ですかそれは! 罪なんてどこにもないじゃないですか!


「テラ、もう僕はやっちゃいますよ!」


「やっちゃえ! そんな理由で私の弟子になったプシュケの親が殺されるなんて許せない!」


「行くぞ! ほいっと!」


 最初に結界の魔力の流れを無茶苦茶にして解除してしまう。


 パシッ


「よし! 次は村の全員をやっちゃうよ! せ~の」


「何! け、結界が! 結界が消えただと!」


 村全体にぐるぐるを広げ伸ばしていきます。


 村人全てを包み込んで──。


「ほいっと!」


 プシュケの目の前にいる門番さんはこの場で一気に魔力を発散させて気絶させます! 矢を落とし、足元から崩れるように気絶しました。


「プシュケ! 二人を助けに行くよ!」


「えっ? えっ? は、はい! 処刑なら、御神樹様の所だと! 門をくぐりまっすぐ、御神樹様の不可視結界が無くなり見えていますからそこに!」


「うん! 急いであの大きな木まで行くよ!」


 プシュケをお姫様抱っこして、テラとムルムルはプシュケに抱っこしてもらいました。


「きゃ」


「プシュケ! ムルムルとテラをお願いね」


「は、はい!」


 ムルムルとテラを大事そうに抱えたのを見て門をくぐり抜け正面に見える大きな木に向かって加速しました。





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