第二章
第34話 新たな旅路の始まり
ガタガタと緩い坂道を進んで、平坦な道に変わりました。
立て札があり、『これよりヴァルト辺境伯領』と書かれています。
「やっと辺境伯領に入ったね、十日掛かるんだもの、お尻が潰れちゃうかと思ったよ」
「仕方ないわよ、一日に頑張っても五十キロくらいでしょ、そんなものよ。それ以上だと馬が可哀想よ」
薄紅色の花を頭に刺したテラがそんな事を。
うん、それはそうだね。
辺境伯領に入ったけれど、目的の街までは二日掛かるそうだし、それから馬車を乗り継ぐか、徒歩で森に向かうしかありません。
最初に乗り合わせたお客さん達も、入れ替わり、最初から乗っているのは僕だけになりました。
「あははは、坊主。そんな時は尻の下に厚手のローブかマントを敷いとけばマシになるぞ」
一つ手前の町から乗ってきた親子連れのおじさんが話し掛けてきました。
「おお! そうですよ! 僕は何でそんな簡単な事に思い至らなかったのでしょう! ありがとうございます♪ では早速」
収納からお布団にしたりする、ツノガエルのローブを出してお尻サイズに折り畳んで座席に置き腰を下ろします。
「うんうん♪ これは良いです♪ おじさんありがとうございます♪」
「あははは♪ 俺達は次の町で下りるからそこまで必要ないが、あるのと無いのでは全然違うからな」
「うふふ♪ 十日って聞きましたが、さぞお尻が傷んだでしょうね」
「だぅ~」
赤ちゃんにまで笑われた気がします。
「はい、それはもうぺったんこになってましたよ♪ でもこれで快適な旅になります♪」
次の町でその親子が下りて行き、冒険者パーティーの男女二名ずつの四人が新たなお客さんのようです。
馬車が走り出して門をくぐる時、僕はこの馬車の一番御者台に近いところに座っていたので、前を向き座席に膝立ちで進む方を向いていました。
ガタン
おほほほっ!
「おいガキ! 危ねえから座っとけ! 落ちてもしんねえぞ!」
「はへ? すいません。ガタガタが楽しくてつい、あはは」
僕は膝立ちをやめ、正座にしました。
「だから、それも危ねえだろ! 床に足を付けてねえと踏ん張りが効かねえから」
ガタンガタン
うほほほ♪ 二回弾みました♪
「ったく、しゃ~ねぇ~なぁ~、ほら、ちゃんと座っとけ」
四人パーティーのお兄さんの一人が、僕の脇の下に手を入れ持ち上げる。
そして、座席に座らせられました。
「あ~、足が付かないのか······」
ぶ~。
え? 僕って短足なの! だ、大丈夫! これから伸びるはず!
「ありがとうございます。この辺りは轍が多くてですね、ぴょんぴょん跳ねるので面白がっていました。あはは」
「あっ! それあんたも駆け出しの頃やってたじゃない」
やっぱり面白いですもんね。
「なっ!」
「あははは♪ それで落っこちてたよね♪」
あははは♪ 落ちちゃいましたか。
「おお! 思い出した! 落ちてた落ちてた。あははは♪」
「お、お前ら! 忘れろ! じゃなくて、この子が聞いてるじゃないか! ち、違うんだぞ、危ないのは本当だからな!」
「はい♪ お兄さんの言うとおりちゃんと座っておきます」
お兄さんは気まずそうな顔をしながらそっぽを向いて黙ってしまいました。
でも、前の景色も見たいので仕方がなく首と上半身だけひねって、進行方向を見て楽しみます。
しばらく行くと、街道の途中で数台馬車が止まり、人を乗せたり降ろしているようです。
僕が乗る馬車も漏れずに止まり、四人パーティーのお兄さん達が降りるようです。
「ダンジョンがあるようね。ライはダンジョンには興味はないの?」
「ダンジョン! ありますあります! ここにダンジョンがあるのですか!」
思わず降りかけていたお兄さん達を呼び止めてしまいました。
「ん? あるぞ。入ったこと無いのか?」
「はい、薬草採取の依頼ばかり受けてましたし、Eランクですから」
「ああ~、Dランクからだもんな。な~に、EからDなんてすぐだ、ゴブリンの討伐依頼をやってりゃその内上がるってもんだ。お前も頑張れ!」
「はい♪ 頑張ります!」
な~んて、こっそり入る事だって出来るのですよ! その方法は······新ダンジョンを見付ける事です!
お兄さん達を見送りながら、ダンジョンの気配を覚えておきます。
「くふふふ。この感じがダンジョンですね~♪ これは異世界でダンジョンマスターになるお話にあった、ダンジョンのテンプレの足掛かりに出来るかも知れませんね♪」
「何? ダンジョンマスターになりたいの?」
「ん? あれ? 口に出てた?」
あちゃ~、たまにやっちゃいますね。
「うん。しっかり出てたわよ」
「ん~、なってもならなくても良いのだけど、ダンジョンマスターになったらダンジョンから出れなくなったりする?」
「それはないわね。ダンジョンに魔力の供給を続けないといけないから、出るに出れないだけだから。出ちゃうとそのダンジョンは成長しなくなるからね」
「崩れちゃったりはしないの?」
崩れちゃうなら流石になるのは嫌だなぁ。
ってかマスターにならなくてもダンジョンのテンプレは出きるのか!
「それはないわ、攻略に来た冒険者達から勝手に魔力を貰っちゃうから」
冒険者達が入れば、魔力の供給は問題ないのか。
「ん~、まぁ、その時になったら考えるよ。僕がやりたいのは、どこかのパー·····やっぱり内緒♪」
テラと話をしていたら、ガクンと衝撃があった後、馬車は乗せている人数が減り、軽快に進み始めました。
夕方、少し日が山に隠れ出した時、今夜の夜営地に到着しました。
寝床などを準備しないと駄目なので、馬車の近くにテントを出し、焚き火の用意をして行きます。
「ライ、下に降ろして。花を交換したいの」
「は~い♪ 今度はどの花にするの?」
ムルムルごと降ろされたテラは、もう決めていたのか、頭の花を引き抜き、ぽいっと捨てると、ムルムルから飛び降りて、足元の、小さな二葉を引き抜き頭に刺す。
「うんうん♪ この子にするわ一晩でいけないから明日まではこの子よ♪」
よく分からないですが、決まったようです。
「ムルムル、今夜は何食べるの? またゴブリンが良いのかな?」
ぷるぷる
「オークだって言ってるわよ」
ぷっぷるぷる
「あははは♪ 二匹だすよ♪ ほいっと!」
ズンズンと二匹出してテラによじ登られている途中のムルムルを、テラが乗るのを手助けしながら持ち上げ、上に乗せてあげる。
いつものように、みにょ~んと広がり二匹を包んだと思ったら、あっという間に吸収されて元の大きさに戻りました。
「よし♪ 少し枝を補充しないと駄目だよな。おじさん!
「ああ。気を付けて行くんだぞ」
御者のおじさんにこの場を離れる事を知らせておいて、森に踏み込みます。
「やっぱり、入ってすぐのところはみんなが拾っちゃうから全然無いね」
「そのようね。あっ! あそこにあるわよ!」
「おっ! テラありがとう。一本だけど大きいし寝る前の分にしちゃおう♪」
少しずつ奥に行きながら薪拾いを続け、明日の分くらいまで集まった時変な気配が森の奥からしました。
今にも消えそうな気配と、もう一つ。
「テラ、何かやられそうになってる。見に行くよ!」
そう言い僕は、肩のムルムルとテラを手に乗せ振り落とさないようにしてから一気に加速して消えそうな気配に向かいます。
木々をするすると避けながら走り抜け、下草が邪魔になってきたので枝に飛び上がり、さらに枝から枝へ飛び、枝づたいに奥を目指します。
森が開けた場所に大きな熊。
「真っ赤な毛皮! ライ! キリングベアーよ!」
「任せて! ぐるぐるしちゃうから! ほいっと!」
後ろ足で立ち上がり、振り下ろそうとしていた手が、僕達の声に気付き一瞬止まった。
一気に魔力を回しながら、漏れ出た魔力を倒れている子に回復するように変化させ流し込んでおく。
「気絶までは無理!」
僕は父さんに貰った刀を抜き、こちらを向いたキリングベアーの喉元に突き立てた。
「グボッ!」
「いっけー!」
グリッ!
刀をひねりながら熊の胸を前蹴り。
ドンッ!
「倒れろ! せい!」
ドンドンッ!
足踏みするように蹴りながら刀を抜き、後方宙返りをして地面に着地。
その間も魔力をぐるぐるさせるのは止めない。
「大きいから流石にしぶといね。なら、これだ! ほいっと!」
ウインドニードルを、眉間に五発。
プシュシュシュ
キリングベアーはよろけたと思ったら、ビクンっと大きく痙攣した後、仰向けにゆっくり倒れていきました。
「ひゅ~、やるわねライ」
「あははは、流石に強かったよ。おっと、収納! ムルムル血を掃除しておいてくれる? 違う魔物が来るかもしれないから。そっちが終わったらこっちもお願いね」
ぷるぷる
テラを肩に残してムルムルはみにょ~んと伸びて、キリングベアーが流した血を掃除しに行ってくれた。
そして僕は
「今治すからかじらないでね♪ んん~、ほいっと!」
辺りの魔力も使い回復魔法をかけて行く。
大きな傷口に手を添え。
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