第27話 追い詰め

 授業が終わったのですが、誰も出てきませんね?


「誰も出てこないのですが、いつもこんな感じなのですか?」


「はい、王子が一番最初に帰る事になっていまして、それまでは席を立つことすら許されておりません、ほら、王子が出てきましたよ」


 メイドさんが小窓から外を監視しながら答えてくれました。


 僕も、メイドさんと同じ小窓から覗き見すると、うん、王様と同じ焦げ茶色の巻き毛を手櫛でかき上げ、イケメンさんが顔を見せました。


 そこそこ背も高く、スタイルも良さそうに見えます。


 まぁ、兄さん達には遠く及びませんが、一人馬車に乗り、あちらの御者さんが扉を閉め、御者台に戻り、ゆっくりと馬車が走り出しました。


「その後がラクシュミー王女様です」


「綺麗な方ですね」


 金髪ストレートの長めの髪の毛で青い瞳、可愛いより既に綺麗な大人の女性の様な落ち着いた感じがします。


 おっと、

 そんな事を考えている場合ではありませんね。


「では、やっちゃいますね♪ せ~の、ほいっと!」


 待っている間に学校全体にまで範囲を広げていましたので、ぐるぐる回して魅了の魔力を集めるだけです。


 王子の乗った馬車が学院の外に出たのを確認してから僕は馬車から降りて、集めた魅了を取り敢えず収納しておきます。


 そして、馬車に向き直り騎士さんとメイドさんにお伺いを。


「少しだけ時間を貰って良いですか? 兄さん達が出てきますので」


「大丈夫ですよ、時間はまだ余裕がありますので」


 騎士さんはにこやかに返事をしてくれました。


「ありがとうございます♪」


 僕は、正面の入り口に近付き出てくるのを待ちます。


 何台か貴族のお迎え馬車を見送っていると、兄さん達が出てきました。


「シー兄さん! アース兄さん!」


「「ライ!ライ!」」


 兄さん達は一気に速度を上げ、僕に向かってきました。


「ふきゅ!」


 左右からサンドイッチにされ揉みくちゃにされます。


「ぷはっ! もう! 無茶苦茶ですよ兄さん♪」


「あははは♪ すまんすまん♪」


「二週間分のライ成分を補給したかったのでな、あははは♪」


「まったくもう♪ そうです、父さんと母さんも王都に来ていますよ、今お城に居ます。それに~」


「勿体ぶるなよ」


「父さん母さんが来ているのか、王様にでも呼び出されたのかな?」


「なんと! フィーアも来てます!」


「「なに!なに!」」


「よし、王城に向かうかアース、走ればすぐだ!」


「ああ、フィーア成分を補給したかったからな、シー兄さん、よし♪ ライ行くぞ!」


「ちょっと待って下さい。馬車で来てないのですか? でしたら僕は馬車で来てますので、兄さん達も乗りませんか?」


「「馬車で?馬車で?」」


 この場で説明は出来ませんので、二人を乗ってきた馬車に引っ張って行きます。


 騎士さんにお願いをして、二人も乗せて貰えました。


 馬車の中で簡単に説明し終わり、魅了かどうかは分からないが、王子からの変な魔力は受け流していたそうです。


「王子はそんな事をしていたんだな、試合の時はさらに俺達に勝ったって顔で来るんだが、俺は何か妨害する魔法だと思っていて、さらっと受け流してたよ♪ 効かなくて驚いた顔をした時には笑いそうになったけれどな。それからうちのクラスの半数がそんな事に······」


「それにマリグノ嬢か、シー兄さんやっぱり俺が言った様におかしかったんだよ、俺は絶対シー兄さんに気があるって思っていたからね」


 おっと! 隣国の王子様って聞いていましたが関係ありません♪ それならばその想いは遂げさせて上げたいですね♪ シー兄さん僕に任せておいて下さい♪


「ああ、それは俺も気付いていたが、隣国の事も噂になっていたし、王子に心変わりをしたものとばかり思っていたからな、そう言うお前こそラクシュミー王女からのお誘いはどうするつもりだ?」


 あはは、なんだか中にはいれない雰囲気ですね。


 そうそう馬車に乗ってこないのは、兄さん達の修行だそうで、走って学院に通っているとの事です。


 馬車は僕達を乗せて走り出し、お城に向けて進みます。


「なあライ、その肩に乗ってるスライムと、可愛いお人形はなんだ?」


「うんうん♪ 流石ライのお兄さんね♪ 見る目があるわ♪ 私はテラ! そして私の騎獣ムルムルよ! よろしくね♪」


 元気よくテラがムルムルの上で仁王立ちしながら自己紹介。


「うわっ! よ、よろしく?」


「うわっ! 動くし喋るし! よ、よろしく?」


 あはは、人形だと思っていたら動いて喋ると驚くよね。


「僕の旅の仲間になってくれたんだよ。色々助けて貰ったりしてるんだ♪ 仲良くしてね」


「あ、ああ、ライが世話になっているようだな。これからも仲良くしてくれると嬉しい。俺達ともね」


「うん、テラにムルムルだね。ライはまだまだ世間の常識だとか知らないから補助して貰えると嬉しいかな。よろしくお願いします」


「任せておいて! 私が立派な紳士に育て上げてやるから心配······お、女の子とのつきあい方は早急に教えないとお嫁さんだらけになりかねないからね······」


「え? ライのお嫁さんが決まったの?」


「誰なの! 僕達の妹になるんだよね♪」


「えへへ、一人目はティ、シャクティ・アン・ブラフマー公爵令嬢、二人目はフィーアだよ♪」


「「二人も!二人も!」」


「え? だってフィーアは吸血鬼しか駄目だって聞いたぞ?」


「公爵令嬢? いつの間に? 俺達が王都に出発した後の二週間でなにがあったの?」


「実はね······」


 旅立ちから、今日までの事を兄さん達に話していると、お城に到着したようで馬車が止まりました。


「なるほど、じゃあ一気に二人の婚約者が出来たのは······」


「そうね、そこをなんとか早く教え込まないと、三人目四人目の犠牲者が出てしまうわね」


「テラ、僕達の力が必要な時は何でも言って欲しい、僕達もその事を理解したのはライくらい、この学院の初等部に入ってからだったからね、あはは」


「はぁぁぁ、貴族の弊害ってところかしら、普通にメイド達に体を洗わせたりするのだからね、なんとか頑張るわ」


 なぜか三人は意気投合して仲良くなったようです。


 廊下を歩き、執務室に向かいます。


 コンコンコン


『誰だ』


「ライ殿とその兄、シーリール殿とアースリール殿を連れて参りました」


『ふむ、入れ』


 カチャ


 騎士さんが扉を開けてくれて、僕達は中に入りました。


 中には、全員集合で、女性組はお茶とお茶菓子をいただきながらの、お喋り。


 男性組は王様と別のソファーでお話をしていたようです。


 扉を閉め、騎士さんが王様に一連の事を報告しました。


「では、私はこれで失礼します」


「うむ、ご苦労、この後は夕食会の警備に回ってくれるか」


「はっ!」


 騎士さんは、一礼をして部屋を出て行きました。


「ライ、ご苦労だったな、シーリールとアースリール、そなた達の学院での活躍私の耳にも届いている。さすが剣聖と賢者の息子達だ、将来が楽しみでならん、ふふふ」


「「ありがとうございます陛下」」


「うむ、今宵の夕食会に出席して行け、我が家の恥を晒すこととなるだろうが、同じ学院、学年の者に見て貰うことも良いだろう」


「良いのですか? ライだけでなく、この二人まで」


 よし、ここは掩護射撃ですよね!


「アース兄さんとお姫様が良い関係になりたそうって噂を聞きましたし、マリグノ辺境伯令嬢もシー兄さんに気があるって噂を聞きましたのでくっ付けちゃいませんか?」


 僕がそう言った瞬間、僕以外が、お喋りしていた女性組まで、あれ? あの女の人は誰だろう? 可愛い子ですね。


 まぁ、良いでが喋るのを止め僕に視線を投げ掛けてきますのでこそばゆい感じがします。


「そ、それは真か?」


 王様が聞いてきましたので、頷きながら返事をします。


「はい、噂を聞きましたので♪ もしそうなると王様とも親戚、あっ、既にそうなる予定でしたね、あははは♪」


 テラが僕の耳を引っ張りながら


「ねえねえ、あのね、ライ、そう言うことは、本人達が頑張る事だと私は思うの、私も応援はするけれど、ほら兄さん達が真っ赤な顔になってるじゃない、あっちの女の子もだけど、って誰?」


「私の娘だ、今の話題のな」


「あちゃ~、当人がいちゃったのね。どうするのよライ」


  どうするかって、まずは自己紹介だよね♪


「お姫様なのですね♪ 初めまして、サーバル男爵家三男のライリールと言います。アース兄さん共々仲良くして下さいね♪」


「ひゃい! よろしくお願いいたします。

 それとアースリールしゃま! じゅっとおしゅたいしちぇましゅた! あわわわ、かみかみになってしまいました、アースリール様、初等部の頃よりずっとお慕いしておりました!」


 やったぁ~! 大成功じゃないですか!


「くっくっくっ、のうディーバ、我が王家はサーバル男爵家に乗っ取られそうだぞ?」


「あははは♪ やりおるなあ、そう思うだろ剣聖?」


「あはは、その様な事は······」


 父さん達は放っておいて、頑張れアース兄さん!


 アース兄さんはお姫様に歩みより、片ひざを付きお姫様の手を取りました。


「俺も、ずっと君の事を見ていたんだ。将来僕の所に来てくれるかな?」


「はい、末永く。どうかお立ち下さい」


 アース兄さんは手の甲にキスをして、立ち上がり王さまに向かって宣言をします。


「国王様、俺、私達の婚約をお認め下さいませ」


「お父様、私からもお願いいたします」


「うむ、お前の心は前々から気付いておったからな。学院卒業後にアースリールには叙爵するか、ディーバのブラフマー家に養子として入って貰うつもりであった、アースリール、娘と仲良く頼むぞ」


「はい! 大切にします!」


 ぬふふ、次はシー兄さんですね♪ 頑張っちゃいましょう♪

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