第一章

第4話 旅をしたいと思います

「ライ、本当にそれで良いのか?」


「はい、僕は三男ですから、もし、僕が女性であったならお役にも立てたのでしょうが、僕は男です、男爵家としては、シー兄さんが次期当主としても、申し分のない成績を修めています」


 うん、本当に、王都の学院で、入学当初から頭角を現し、今は生徒会長にまで、同期の第一王子を差し置いてです。


 凄いとしか言い表せません。


「アース兄さんも、シー兄さんに負けず劣らずの才をお持ちです」


 アース兄さんも、武に関して、入学三ヶ月目の武術大会で、同級生も上級生も関係無く全て無傷で倒したのですよ、もちろん王子様も。


 化け物レベルです。


「この兄さん二人が居るならば、僕がこの家の家名を名乗ることは不利益になります」


 家名を名乗ると言うことは、一人に掛かるお金は年間数千万の税を上乗せして払わないといけません。


 それから学校に、着る服、十歳からは社交界、パーティーなどにも出なくてはいけない、それにも新しく最新の服を買わなくてはなりません、見栄のためもあるのですがお高い生地を使い、一度のパーティーで一着、それが何度もパーティーがあると何着作らなければいけないのか分かりません。


 家は男爵家、領地も狭く起伏きふくの激しい土地のため農耕には向きません、細々と酪農で、農作物は、他の領地から買い入れている状態なのです。


「そんなことはない! ライリール・ドライ・サーバル!」


「冒険者でも良い、その名を持っていけ、そして、暇な時は帰ってこい、また一緒に食事をしよう」


「ううぅ~、泣かないつもりでしたのにぃ~!」


 ぽろぽろと流れる涙を拭うお父さんの手は大きく、剣の達人の筈なのに柔らかく、僕の頬に添えられています。


「そうよ、ライ、貴方は私達の子供なのですからね」


 お母さんは僕の後ろから抱き締めてくれる。


「ライ、これを持っていきなさい」


 お父さんが渡してくれたのは暖炉の上に飾ってあった、一振ひとふりの刀。


「私が冒険者をしていた時に使っていたものだ、ダンジョンでお父さんが発見したのだが凄く丈夫でな、お母さんと結婚する時に冒険者を辞めるまで使っていたものだ」


「その様な大切な物を僕に」


「ああ、今のライには少し大きいかも知れんが大丈夫だ、すぐに大きくなるさ」


「お母さんからはこれね」


 それは小さなピアスです、魔力回復の効果がある稀少きしょうなアクセサリー、お母さんは自分から外しながら僕の両耳に着けてくれる。


「うん、似合っているわ、お母さんの幼い頃にそっくりよ」


「うむ、髪と瞳の色は私と同じ黒色だが、容姿はお母さんにそっくりだ、それにそのピアスには魔力回復以外にも面白い付与がされているから、ライが自分で一つひとつ解き明かして行きなさい」


「ありがとう、お父さんお母さん!」


 転生して、死ぬ前の世界にもお父さんとお母さんは居ましたけれど、この異世界のお父さんお母さんも本当に大好きです。


「では、さようならではなく、行ってきます」


「行ってらっしゃい」


「頑張るのよ、行ってらっしゃい」


 僕は玄関を出て、街の門をくぐり、旅立ちました。


 そしてしばらく街道を歩き、街が小さくなったのを確認してから立ち止まりました。


「ひゃっほ~い♪ まさかこんなに早く冒険の旅に出れるとは思わなかったよ~♪ 冒険したかった僕にとっては~♪」


 思わず、くるくると回り全身でミュージカルのように喜びを表してしまいました。


「十歳でぇ~♪ 学校かぁ~♪ 家を出るかってこの世界は中々お子様には厳しい世界ですね~♪ 僕も子供ですが~♪」


 街道を行く人影も無いので恥ずかしくはありません、見物客はこん棒を振り回し突っ込んでくるゴブリンと、シュパシュパッ!


 よし、収納! お父さんの刀は切れ味抜群です。後は、ゴブリンに襲われていて、ほとんど潰れてしまったスライムが一匹居るだけですね。


「でろんってなっちゃってますねぇ、よしよし、魔石は無事のようですから仕方ありませんね」


 収納から小さなかごを取り出しっと、後はゴブリン村長の魔石を入れて、スライムも籠に入れておきましょう。


 助かるかな? 魔石はこれで大丈夫だよね? 村長はゴブリンでも上位種だったから魔石にもたっぷり栄養じゃなくて魔力が沢山詰まってますからね。


「よし、夜営予定の所まで行っちゃいましょう♪」



 籠を手にずんずん歩いて街道からの景色も楽しむ。ちょっと前は、広大な面積の花畑があって目を楽しませてくれました。そしてやっと夜営の予定をしていた分かれ道に、到着です。


 スライムさんは元気になっていたのでここでお別れです、水場の近くに籠から出しておろして······引っ付いて離れませんよ。


「スライムさん、この場所は嫌なのかな?」


 スライムさんは、ぷるぷるするだけで何も言いません、仕方がないですね、良い場所が見つかるまで一緒に旅をしましょうか。


「さぁ、夜営の準備ですが、ここでやっても良いのでしょうか?」


 分からないので、なるべく邪魔にならない所にテントを張りましょう。


 このために庭で練習した成果が出てくれれば良いのですが。


 水場から離したところにテントを張って完了です、焚き火なんかやっちゃいましょうか。


 石で縁を作り中に細い枝を入れ、魔法で火を着けましょう、次は少し太めの木も加えていくタイミングですね······ここです!


 火の勢いが一気に上がったところで、ほいっと、追加していきます。


 ここでマシュー作のスープを一杯分取り出し(沢山作ってもらいました、マシュー本当にありがとうございます)、パンと一緒に頂きます。


 ちなみにパンもマシュー作です。


 辺りも暗くなり、焚き火の炎と大きなお月様だけが光源です。


「何度も思ったけれどお月様大きいよね~地球の月とは違って模様が変わっていくから自転の回転方向が違うんだね~」


『地球ってなあに?』


「地球は僕が前に住んでいた······」


 喋りかけられた? あれ?


 辺りをキョロキョロ探してみても誰も居ませんね?


「幻聴かな」


『ねえねえ地球ってなあに?』


 声のする方を見たのですが、小さな花がポツンと咲いているだけですね······。


「もしかしてお花さんがお喋りかな? くふふ」


『うんしょ、うんしょ』


 お花が動き、一生懸命這い出ようとしている、頭から花を咲かせて、深緑の髪に褐色肌で、緑色のワンピースを着た小さな十センチくらいの女の子が地面から這い出て来るじゃないですか!


 そして自分が埋まっていた? 生えていた穴のふちに腰かけ僕の方を見上げてこう言いました。


うんうん神眼、へぇ、転生してきたのね、それより地球ってなあに?』


 やっぱり喋ってるし動いちゃってますよ!











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