第2章 124 準備と心構え
翌朝――
いつも通りに起床し、朝の支度を始めた。
今日は森の中で聖木探しをしなければならないので、動きやすい服装に着替えることにした。
足さばきが良いくるぶし丈のリネンのワンピースにエプロン姿に着替えた。これは初めて『エデル』に到着したときに着ていた服だった。
「やっぱり、こういう服が1番気楽でいいわね」
「橋本恵」として生きていた頃の前世の記憶の方が強く残っている自分にとって、やはり活動的な服装が1番気楽だった。
「本当はジーンズを履きたいところだけど……この世界には生憎そういう服は存在しないものね……」
おまけに仮にも私は女性で、しかも王女である。仮にズボンを履こうものなら、ますます頭のおかしい王女だと思われかねない。
「本当に……この世界は住みにくくて嫌だわ……」
ため息をついたとき、部屋の扉がノックされた。
『クラウディア様、お目覚めでしょうか?』
その声はマヌエラだった。
「ええ、どうぞ。入っていいわよ」
扉に向かって声を掛けると「失礼致します」とマヌエラが扉を開いて室内に入ってきた。
「クラウディア様、朝食をお持ち……え?!ど、どうされたのですか?そのお召し物は?」
「ええ、今日は森に入って聖木を探さなければならないから活動的な服装に着替えたのよ」
「そうなのですか?ですが……」
「ドレス姿だと森の中を歩けないでしょう?」
私の言葉にマヌエラは何故か黙ってしまった。
「どうかしたの?」
「……申し訳ございません。クラウディア様」
不意にマヌエラが謝ってきた。
「何を謝るの?」
「そ、それは……私の為に宰相と勝負をすることになってしまったからです」
マヌエラは泣きそうな顔で私を見る。
「貴女のせいじゃないわ。これは自分自身の為よ。いつまでもこの城で宰相やカチュアさんの顔色を伺っていることにうんざりしたからよ」
この言葉は半分は本心だった。確かに私の味方をしてくれる人達を守る為でもあるが、いい加減私に絡んでくる宰相たちに嫌気が差していたからでもあった。
「そうですか……」
「ええ、だから貴女は何も責任を感じることが無いわよ。それじゃ折角朝食を持ってきてくれたのだから頂こうかしら?」
「はい、すぐに御用意致しますね」
そしてマヌエラは朝食をテーブルに並べ始めた――。
****
午前9時きっかりにハインリヒが部屋に迎えにやって来た。
案の定、ハインリヒも私の服装を見て眉をしかめた。
「クラウディア様……まさかその平民のようなお姿で聖木探しに行かれるおつもりですか?」
「ええ、そうよ。聖木は深い森の中にあるのでしょう?動きやすい服装が1番いいと思わない?」
「ですが……聖女を名乗るあの女と勝負するわけですよね?となると、大勢の見物客がいるはずです。彼らの前でその姿で出られれば何と言われるか……」
「構わないわ。要は勝負に勝てればいいのだから」
「随分自信がおありなのですね。クラウディア様は」
「ええ、そうよ。アルベルト様の為にも頑張るわ」
するとそこで、初めてハインリヒが口元に笑みを浮かべた。
「成程……そういうことでしたら、私も頑張らねばなりませんね」
「ええ、宜しくお願いするわ」
そして私達は聖地に向かった――。
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