第2章 97 反論

 その声を聞いた途端、憂鬱な気持ちがこみ上げてくる。


「リシュリー宰相……」

 

 マヌエラが眉をしかめて、その名を呼ぶ。


「クラウディア様。ごきげんよう」


 背後から挨拶をされて、振り向いた。


「ええ、リシュリー宰相。こんにちは」


 挨拶を返した途端、 宰相は早速文句を言ってきた。


「クラウディア様……こう言っては何ですが、もう少し侍女教育をきちんとされた方が良いのではありませんか?」


「……何ですって?」


 私は宰相の目をじっと見た。


「良いですかな?仮にもカチュア殿は、この国の『聖なる巫女』なのですぞ?それを知っての上で、今の発言をこの侍女がしたのであれば大問題ですぞ。神殿を馬鹿にしているとしか思えませんなぁ?あまり無礼なことを言うのであれば、それなりの処罰を与えなければ示しが付きませんぞ」


 宰相の口元に意地悪な笑みが浮かぶ。その言葉にマヌエラの表情が青ざめる。

 私のことはどう言われても構わない。けれど、マヌエラにまで酷い態度を取り、挙げ句に処罰を与えるなど……。 


 流石にもうこれ以上は黙っていられなかった。


「リシュリー宰相。一つ尋ねますが……そこにいらっしゃるカチュアさんが本当に『聖なる巫女』である証拠はあるのですか?」


「何と罰当たりなことを言うのです!それはこの国には啓示があるからです!『空に虹色の雲の現れし時、この国に富と反映をもたらしてくれる『聖なる巫女』が現れると!そして確かにその時に。彼女は神殿の前で倒れていたのですぞ!」


「はい、そうです。私は突然この国に召喚されてきました」


 宰相の言葉にもっともらしく頷くカチュア。


「それだけのことで『聖なる巫女』という証拠になるのですか?大体、彼女が神殿の前に現れた瞬間を見た人物がいるのですか?証拠はあるのですか?口先だけなら何とでも言えますよね?」


 今迄何を言われても黙っていた私が、まさか言い返すとは思わなかったのだろう。宰相の顔が怒りの為か真っ赤になる。


「酷いです……クラウディア様。私は全く見たこともない場所に突然召喚されたのですよ?だから不安でたまらなくて……少しでも皆に受け入れてもらおうと頑張っているのに……。クラウディア様とだって仲良くなりたいので、お茶にお誘いしたのにそのような言い方をするなんて……」


 一方のカチュアは涙ぐんで私を見ながら訴えてくる。そして、それを避難してくるメイド達。


「冷たい方ですね」

「折角カチュア様が歩み寄ろうとしているのに」

「やはりきつい性格だったようですね」


「全く……!侍女も侍女ならその主も然りですな!まるで神殿を冒涜しているとしか思えませんな!」


 増々憤慨してくる宰相は私を睨みつけてくる。


「でしたら、そんなに『聖なる巫女』だと言うのであれば、何か奇跡の力を披露してみてはいかがですか?それを見せて頂けるのなら、カチュアさんが『聖なる巫女』だと認めて、敬意を示しましょう」


 ついに、私は宰相とカチュアにはむかってしまった――。

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