第2章 17 悪意と言いがかり

「いいえ。私の父が一方的に宣戦布告し、敗戦したのは事実ですから。宰相の仰ることは尤もです。どうぞお気になさらないで下さい」


「何?クラウディア。お前は本気でそのようなことを言っているのか?」


アルベルトが驚いた様子で私に尋ねてきた。


「はい、本気です。むしろ父の犯した罪を謝罪させて下さい。陛下、大変申し訳ございませんでした」


私はアルベルトに頭を下げた。


「クラウディア……」


すると、リシュリーが私に話しかけてきた。


「ほう……これは驚きです。やはりクラディア様は噂とは大分かけ離れたお方のうようですな。今回の旅に同行した兵士たちは皆、口を揃えてクラウディア様のことを褒めておりましたぞ?素晴らしい人格者だと」


「え?」


その言葉に思わず反応し、リシュリーを見た。

まさか…ユダ達のことを話しているのだろうか?


「おや?どうされましたか?クラウディア様。兵士たちがどうかしましたか?」


リシュリーは何処か面白げに口角を上げる。


「いえ、皆どうしているのかと思っただけですので」


「ほ〜う。クラウディア様はたかが一介の兵士たちのことを気にかけておられるのですか?」


「それは当然のことです。彼らとは何日もかけて長旅を共にした仲間なのですから」


「仲間…ですか?これはまた随分面白いことを仰いますな。彼らは単にクラウディア様をこの国に連れてくるという任務を果たしただけですが?」


すると何故かカチュアまで口を挟んできた。


「まぁ、クラウディア様はこの国の王妃となるお方なのに…随分庶民的な考えをお持ちなのですね」



その時――。


「いい加減にしろ!これ以上クラウディアに向かって不快な発言を繰り返すなら出て行けっ!俺は元々クラウディアと2人で食事をしようと思っていたのだ。それなのに何だ?!お前たちの頼みを聞き入れたクラウディアに対して……何という口を聞くっ?!」



ついに我慢の限界に達したのか、再びアルベルトは声を荒らげた。


「申し訳ございません、陛下!どうぞ……お許し下さい!」


するとカチュアが震えながらアルベルトに頭を下げた。


「陛下、確かに少々言葉が過ぎてしまいましたが……事実、クラウディア様が個人的に親しくしておりました複数の人物達がいたのは事実なのですぞ?実際に私が選抜した兵士たちから報告を受けておりますから」


そしてリシュリーは私を見た。



「!」


その言葉に私はユダの言葉を思い出した。

この中には敵がいると、再三に渡ってユダは私に話していた。


敵と言うのは、リシュリーが選抜した兵士たちだったのだ。


ということは……彼らは私が錬金術師だということもリシュリーに報告しているのだろうか?


私の背中を冷たいものが流れ落ちていく。




その時――。


「…それがどうした?」


アルベルトがリシュリーを睨みつけた。


「え?それがどうした…とは?」


「クラウディアが旅の供の兵士たちと懇意になって何が悪いのだ?」


アルベルトは頬杖をつくと、リシュリーに尋ねた。


「良くないに決まっているではありませんか?陛下に嫁がれる女性が、あろうことか特定の男性と懇意になるとは……あってはならないことです!」


リシュリーは何としても私を陥れたいのかも知れない。

一体誰が彼の手先の兵士だったのかは不明だが、これで判明した。


回帰前も旅に同行した兵士の中に、リシュリーの息がかかった兵士たちがいたのだ。だから『エデル』に到着する間に私の悪評が広まっていた……。



すると……


「いい加減にしろっ!リシュリーッ!クラウディアと大事な話があるのでそこの女を連れてさっさとこの部屋から出ていけ!」



アルベルトが叱責した――。






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