第1章 33 『クリーク』の人々との和解
「何だって…?【エリクサー】だって…?」
「あの幻と言われる薬…?」
「錬金術師だけが作り出せると言う…」
トマスの言葉でその場にいた人々全員がざわめき出した。
「クラウディア様…錬金術師だったのですか?!」
「姫さん…」
リーシャもスヴェンも驚きの目で見ているし、ユダも何を思うのか…じっと私を見ている。
「王女、貴女がこの薬を作ったのですかっ?!もしや…もしや貴女は錬金術師だったのですか?!」
トマスが再度私に問いかけてくる。
「トマス…」
これは想定外だった。まさかこんな大騒ぎになるとは考えてもいなかったのだ。私は自分が錬金術師であることを知られるわけにはいかない。
ここにいる人々を信頼していないわけではないが、錬金術師の存在を知ってしまっただけで、狙われる可能性があるからだ。
だから私は…。
「私が錬金術師?まさか、そんな訳あるはず無いじゃありませんか。この薬は城の地下倉庫の王族だけが開けることの出来る金庫があり、その中に秘薬【エリクサー】が隠されています。私はそれを持ち出しただけですから」
すると再び周囲がざわめき始めた。
「うん。そうだよな…」
「錬金術師はもはや伝説だからな」
「あ〜びっくりした…」
「しかし…」
トマスは尚も私が錬金術師であることを疑わない。そこで私はこの話を終わらせるべく、皆に大きな声で呼びかけた。
「皆さん、この薬の効果は実証されたと思います。手分けして重い怪我の人達から治療をお願いします。また怪我が回復された方々は清潔なシーツを用意してありますのでシーツ交換をして頂けますか?!」
「はい!」
「分かりました!」
「よし、みんなやるぞっ!」
それまで絶望的な雰囲気だった野戦病院が一気に活気づいた。人々は一丸となって怪我人の治療に当たり…あちこちで歓喜の声や、愛する人々が回復したことにより、抱き合って涙を流す人々の姿がそこにあった。
「フフ…良かった…」
するとそこへトマスが声を掛けてきた。
「王女様」
「何ですか?トマスさん」
すると彼は顔を赤らめた。
「…よして下さい。王女である貴女が私ごときに敬語を使うなど…名前も敬称無しで呼んで頂けますか?」
「分かったわ、トマス。何か用?」
本当は一刻も早く1人になれる場所を探し、【エリクサー】作りを開始したかったが、ようやくトマスと少しは信頼関係が築けたのだ。
私は今の関係を壊したくはなかった。
「先程は…とんだ非礼を王女様にしてしまいました。本当に申し訳ございません。貴女を疑い…酷く詰ってしまいました。どんな罰もお受けいたします」
トマスは頭を下げてきた。
「トマス…」
まさか私が罰を与えると思っていたのだろうか?いや…それほどまでに私の悪い噂がここまで届いていたのかも知れない。
「何言ってるの?そんなことするはず無いでしょう?それどころか、先程貴方の言っていた言葉は何一つ間違えてはいないわ。だって全て事実なのだから。…私の方こそ、本当にごめんなさい」
「いえっ!どうか頭を上げて下さいっ!それでは王女…私に罰を与えないのであれば、何でも命じて下さい。僕は貴女の命令ならどんなことでも聞きます」
トマスは真剣な目で私を見つめてくる。
「それでは…命令ではないけれども…私のお願いを聞いてくれる?」
私は笑みを浮かべてトマスを見た―。
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