第33話 「正反対の2人」

「柊さんじゃん、如月もいるし。 何?やっぱり付き合ってんの?」


「他に七海さんと海堂さんが居るのが見えませんか? 相変わらず思い込みが激しい方ですね?」


神崎と柊が笑顔で言い合う。

2人とも笑顔だが、2人の背後には鬼神が見える程に怖い。


なんなのこの威圧感。 柊さっきまで笑顔だったじゃん。


「…ごめん、話しかけるべきじゃなかったね…」


「…今更遅いだろ…」


八神が小声で謝ってくるが、もう始まってしまったから仕方がない。


「加奈には昨日ちゃんと言ったんだけどな…」


「まぁ…あの2人は正反対だからな。 根本的に合わないんだろう」


柊達を見ると、未だに笑顔で睨み合っていた。

柊があそこまでなるのは本当に珍しいからな…余程神崎の事が気に入らないんだろう。


「てか、柊さんもゲーセンとか来るんだ? 真面目ぶってるけど、意外とそうでもない感じ?」


「私が何処に居ようが私の勝手でしょう? 」


「ふ〜ん…?」


神崎は柊から視線を外し、今度は七海を見る。

七海はビクッと身体を震わせて神崎から目を逸らし、春樹の後ろに隠れた。


七海は神崎みたいな陽キャが苦手だからな…


「あんた知ってるよ。 青葉七海でしょ。 横にいるのは海堂春樹。 柊さんに青葉さんに海堂。 3人とも有名人じゃん?」


その後、神崎は俺の方を見てニヤリと笑う。


「如月あんたさ、この3人と釣り合ってなくない? 何?荷物持ちかなにか?」


「加奈。 それは言い過…」


「いい加減にして下さい」


八神が言い返す前に、柊が言い放った。

柊からは笑顔が消え、今は神崎を睨みつけている。


「貴方は容姿でしか人を判断できないんですか? 良くも悪くも高校生らしい考え方ですね」


「はぁ?」


「まず、如月さんに謝って下さい。 前回の事と、今回の事も含めて」


「なんで私が謝らなきゃ…」


「謝って下さい」


神崎の言葉を遮り、柊が言う。

神崎は急に雰囲気が変わった柊に押されている。


「私は本当の事を言っただけじゃん?

ていうか、本当はあんたら3人も、如月の事を引き立て役くらいにしか思ってないんでしょ?」


早口で捲し立てる神崎に、とうとう柊がブチギレた。


「貴女は…!いい加減に…!!」


「柊、やめろ」


今にも怒鳴りだしそうな柊を止める。

柊は俺を見て目を見開く。


「なんですか…また我慢ですか…?」


悲しそうな顔をする柊に、俺は小さく笑い、柊を神崎から離し、七海達の近くに連れて行く。

そして、俺は神崎と向かい合う。


「…別に俺はさ、周りの奴らに自分がどう思われようが興味ないんだよ。

人それぞれ考え方は違うからな」


「…はぁ?」


俺の言葉に、神崎は顔をしかめる。


「だけど、俺が悪口を言われる事で、俺の友達は辛い思いをするらしい。

正直、俺にはその気持ちは分からなかった。

だけど、今なら分かる」


俺は、神崎を睨みつける。


「俺の事はボロクソに言っても良いけどな、俺の友達を悪く言うのは辞めろ。

コイツらは引き立て役とか、そんな事を考えるような奴らじゃねぇ」


そう言うと、神崎は鼻で笑った。


「そんなの、なんで分か…」


「分かる。 コイツらの顔を見たら分かるんだよ」


柊だけじゃない。言い返さないだけで、七海も春樹も怒っていた。


そして、八神でさえも怒っていた。


「別に謝れとは言わねぇよ。 ただ、根拠もなく人を馬鹿にするのは辞めろ」


「…俺からもいいか?加奈」


八神が言うと、神崎はビクッと身体を震わせた。


「…さっきから黙って聞いてたけど、流石に度が過ぎるよ。 前に俺が言った事、もう忘れたか?

如月は俺の友達。 俺はそう言ったよな?」


神崎は震えながら頷く。


「じゃあ、俺が友達を馬鹿にされたらどう思うかも、知ってるよな」


神崎は泣きそうになる。


八神って怒るとこうなるんだな…

冷静に捲し立てて行くタイプか…


「なら、どうすればいいと思う?」


八神は笑顔で言う。

すると、神崎は俺達に頭を下げてきた。


「ご…ごめん…なさい…」


あの女王様でも、王子様には勝てないらしい。

素直にいう事を聞いて謝罪をする神崎に、俺達4人は苦笑いをする。


「俺からも謝るよ。 今回こうなった原因は俺が話しかけたせいだしね。

本当にすまない」


神崎と共に、八神も頭を下げる。


その後、八神は神崎を連れて何処かへ去って行った。


「ふぅ…疲れた」


俺は力無く自動販売機の前に置いてある休憩用の椅子に座る。


「…如月くん」


柊は、不安そうな顔で俺を見る。


「柊、今回も言い返してくれてありがとな」


「…こちらこそ、言い返してくれてありがとうございました」


柊はペコリと頭を下げてくる。


「正直、また言い返さずに我慢するのかと思ってました」


「私も思った」


「僕も同じだね」


「お前ら…どんだけ信用されてないんだよ俺は」


落ち込む俺を見て、柊は笑った。

そして、柊は元気よく立ち上がる。


「もう少しだけ遊んで行きましょう? 私、あの車のゲームやってみたいです!」


柊の提案に賛同し、俺達は柊と共に歩き出した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


あれから時間が経ち、今、俺は新しく飲み物を買いに行き、春樹はトイレに行っているのだが、飲み物を買って2人が待つ場所に戻ると、俺は先程の選択を後悔した。


柊と七海はかなりの美少女だ。

そんな奴らを、2人きりにするべきじゃなかった。


「良いじゃん俺達と遊ぼうよ!ね?」


「ですから…私達には待っている人が…」


ゲーセンという事で、かなり柄の悪い男2人にナンパされていた。

柊はなんとか拒否しているが、人見知りの七海は完全にびびってしまっている。


春樹もいないし、ここは俺が行くしかないだろう。


「柊、七海」


2人に声をかけると、2人の顔が明るくなった。

それとは真逆に、ナンパしていた男2人は俺を睨みつけた。


「何、お前がこの子達のツレ?」


「何この地味な奴。 こんなのより俺達と遊ぼーよ」


男達は無理矢理柊達の手を掴む。

マズイな、ここは強引にでも2人の手を引いて走るしか…


「ナンパとかキモすぎんだけど。 目障りだから他所でやってくんない?」


突然、神崎が声をかけてきた。

どうやらまだゲーセン内に居たらしい。


「あと、そこ邪魔だからどいて。 私そのクレーンゲームやりたいから」


「おぉ、君も可愛いじゃん! 3人とも一緒に…」


めげずに神崎にもナンパする男に、俺は素直に感心してしまう。

神崎は鼻で笑う。


「あんたらみたいな男、私に釣り合わないでしょ。 柊さん達にも釣り合ってないから、とっとと帰れば?」


煽るように言うと、男達はイラついたのか、顔をしかめる。


「店員さんこっちです」


近くで八神と春樹の声が聞こえたのでそちらを見ると、2人が店員をつれてきていた。


ナンパ男2人は店員に何処かへ連れて行かれ、その場には先程の6人が残る。


「柊さんさ、ああいう時はもっと強く拒否んなきゃダメっしょ? 青葉さんもびびってないで、強気に構えなきゃ」


「は、はい」


「…はい」


神崎にダメ出しをされ、柊と七海は頷く。

そして、次に神崎は俺の胸を叩く。


「アンタは1番しっかりしなきゃダメっしょ男なんだから。 さっき私に言い返したみたいに強気に行かないと」


「お、おぉ…?」


なんだ…?なんか神崎の雰囲気がさっきと違う気が…


そんな事を思っていると、八神が察したのか、小さく笑った。


「本来ならね、加奈はとても良い子なんだ。 ただ周りに流されやすいのと、プライドが高すぎる所があってね。

だから今回の件もヒートアップしちゃっただけなんだ」


なるほど、だからヒートアップして柊との口論をやめられなくなってしまったのか。


「加奈はずっと自分が悪いんだって分かってたんだよ。 ね?加奈」


「……」


諭すように言う八神に、神崎は顔を背ける。


嫌な奴だとは思ったが、ただ素直になれない奴だったらしい。


さっきも助けてくれたしな。


「ナンパされてるのを見て、俺は店員を呼びに行こうとしたんだけど、加奈はすぐに走っていったもんね」


「ちょ…! 天馬それは…!」


恥ずかしそうに顔を赤らめる神崎に笑うと、神崎に睨まれた。


こっわ…


「…神崎さん。 私、貴女の事嫌な人だと思ってました」


ゆっくりと、柊が喋る。

そして、神崎に頭を下げた。


「先程は助けてくれてありがとうございます。 そして、色々言いすぎました。ごめんなさ…」


「謝んないで」


謝ろうとする柊の言葉を、神崎は遮った。


「最初に言っとくけど、私あんたの事嫌いだから。 今回助けたのは今までのお詫び。 だから頭なんて下げないでよ気持ち悪い」


神崎が言うと、柊がムッとした顔になる。


「き、気持ち悪いとはなんですか…! 」


「実際にそう思ったから言っただけだけど? 1回助けただけで掌返すとか単純すぎない?」


「な…! やっぱりあなたは嫌な人です!」


「嫌な人で結構〜」


また言い合いが始まってしまったが、今回の言い合いは先程の言い合いとは違い、笑いながら見れた。


性格も考え方も正反対な2人だが、柊にとって、七海とは違うタイプの知り合いになれるのかもしれないなと、2人を見て思った。

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