第28章 理不尽が故に
匡子は玄関先で怒鳴りつけた。
「あなたたちが生きていけるのは誰のお陰なの!
親の面倒を見るのは当たり前でしょ!今晩から実家に来て母上の面倒をみなさい!」と。。。
玄関先で操と匡子の押し問答があったものの
操は渋々と受け入れたのであった。
「トシ。。。武士。。。二人ともごめんね。。。
母ちゃんはおばあちゃんの世話をしなければいけないから。。これから出かけるんだけどしばらく帰ってこれないから。。ごめんね。。。いい子にしてるんだよ」
トシ(武士の兄)は
「母ちゃん。。いつ戻るの?ごはんとか誰がつくるの?」
「お父ちゃんがきっと作ってくれるから。お母ちゃんがお父ちゃんに頼んでおくから。。。もし何かあったら隣の貴子ばあちゃんにお願いしとくから、お父ちゃんが何もしてくれなかったら貴子ばあちゃんのお家に行きなさい。」
「うん。。わかった。ターちゃん、きっと寂しがるから僕が守るから。。。」
「トシ坊ありがとう。。ごめんね。。」
物心着いてない武士はただ、会話の内容は分からないが悲しい雰囲気と寂しさを感じ取りただ泣きじゃくるだけだった。
「が、かあ、かあちゃん。。いがないでーわ~ん。。」
この事がありかれから先、この家族の団欒は全て壊れていくことになるとは誰も想像が付かなかった。
それから父親はそれなりに子供達の面倒は見ていたものの何も変わらない父親の日常であった。
トシと武士はいつも寂しい思いをしていた。
二人ぼっちがやがて
一人ぼっちになり
トシと武士の幼い心は壊れていった。
1週間が経ち、1ヶ月が経ち母親の操が帰ってくる様子もない。
トシは近所に友達がおりいつも一人遊びにでかけ、食事もその友達の家で世話になっていた。
一方、武士はいつも泣きじゃくり、そんな姿を父親は諭しても収まらない息子に飽き飽きしていた。
武士は幼いため、まだ外に出て遊ぶことも友達が居ることもなかった。
やがて武士に身体の変調が現れてきた。
ある日、父親が家に帰ると武士が苦しそうに悶えていた。
周りには嘔吐物が散らばっていた。
「武士!武士!どうした?」
「ぐえっ!ぐえ」嘔吐を繰り返していた。
「何か食べたのか?どこが苦しいんだ?」
何が原因かは分からなかった。
食事はある程度とっていたようだが腐ったものを口にした様子はなかった。
三日三晩吐き続け、食事も受け付けず、嘔吐はもうはや胃液しか出ていない状態であった。
父親は焦り、操がいる実家に向かうことになる。
そして、トシは武士の傍に行き
「お父ちゃんもお母ちゃんもいっちゃった。僕も友達の所行ってくるね。ターちゃんはお布団でおねんねしてるんよ。」
そういいながらトシも家を後にした。
武士はぽつんと一人
嘔吐を繰り返す声だけが家中に響いていた。
「か、母ちゃん。。。ぐ、苦しいよ。。ぐえっ!げっ、ぐえっ」
寂しさのあまりに心の病がこの時、武士に襲いかかっていたのはこの家族の誰もが想像つかない状態であった。
今の時代には心療内科や精神科があり、薬を処方されるであろう。
この時代にはまだ病院もなにもない。
ただ、唐に行き医学を少し学んだ人間はいるがこの村にはそんな人もいない。
武士はただ、ただ一人家族の誰かが帰ってくるのを苦しみながら待つだけだった。
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