第13章 The chef's point of view
しばらくして肉や野菜を運んでくる
シェフがいた。
年齢的には40代後半。メガネをかけて
優しそうな風貌だった。
どこか、凛としてなく気さくに感じる雰囲気だった。
「いらっしゃいませ。本日、お客様の料理を担当する田辺と申します。よろしくお願いします。」
「あ、はいよろしくお願いします。」
「本日の食材は前菜3種、ホタテのソテー、のどぐろのアッロースト、メインの能登牛のステーキ、ガーリックライス、デザートの6品をご用意致しました。」
「美味しそうですね。よろしくお願いします。」
タケシは目の前で調理する鉄板レストランは初めてであった。
興味が湧き始めた。食材の一つ一つが新鮮で金沢と言う地域柄、日本海の海の幸、能登半島で自然豊かな場所で飼育された牛肉の霜降り具合に関心した。
初めに提供された前菜は
3連のお皿に盛り付けられたサーモンのカルパッチョ、ローストビーフ、海鮮マリネ。
準備するシェフの手元をみながら前菜を口にし、生ビールを飲む。
ほんの少し幸せだなと感じるタケシだった。
シェフは鉄板に火を付けホタテのソテーの準備をする。小さな調味料入れから岩塩を摘み、少し高めから全体に満遍なく岩塩を振る。
そしてミルからブラックペッパーをガリガリと2回転ほどさせ、カンカンと叩きながら、振る。
そんな姿をタケシは見ながら
「流石だな、手捌きがうまいな」
とポツリと呟く
シェフは慣れた手つきで鉄板にバターを
入れヘラで円を描くようにバターを溶かした。
その上にホタテの貝柱を乗せ塩やブラックペッパーを振る
何気ない調理の手捌きに見とれてしまうタケシだった。
視線を感じたシェフがタケシに語りかけた。
「柴谷様はどこから起こしですか?」
「岐阜県から来ました。」
「ご職業はシェフか飲食関係のお仕事ですか?」
「え?まぁ、そうでしたけどなぜ分かりました?」
「いえいえ笑、普通のお客様と見る場所が
違っていたもんでして。もしかしたらと
思いお伺いしました。」
「僕はイタリアンでずっとやってきました。やはり手捌きがいいと見蕩れちゃいますね笑。自分は3年前に自分のお店しめちゃいましたけど、最近は雇われながらレストランで働いてました。」
苦笑しながら頭を搔く。
「そうなんですね。。。私も7年前に自分のお店を閉めた経験があるんですよね。」
たわいのない会話が続いた、
そしてシェフが確信に触れてきた、
「ところで柴谷様はお一人旅でいらっしゃぃすか?」
「はい。そうですけど。。。」
「世の中色々ありますよね。。。今日は美味しいお料理を心込めてお作りしますのでこの時間楽しんでくださいね。」
最高の笑顔でおもてなしをしようとしてる姿が
タケシに安心をあたえたのだった。
誰かの為に料理を作るか。。。俺がやり続けたいことだったんだよな。。。
タケシは心の中で感じた。
シェフはこの少しの会話の中で全てを察した様で
それ以上、タケシにあれこれ質問せずに他わいもない話をした。
最後にシェフが言った言葉がタケシの心に響いた。
「柴谷様?最後にお言葉のプレゼントいたしますがよろしいですか?」
シェフはニコッと微笑む
「あ、ありがとうございます。よろしくお願いします。」
「悲しいこと辛いことがあるからこそ、本物の笑顔が生まれる。私達はその笑顔になれるお手伝いが出来ます。柴谷様はその目の奥にいろんな経験をされたと感じます。だからあなたなら出来る。そしてあなたは今まで以上に幸せになれます。これがどんな意味かはきっとあなたなら分かるはず。私は今日、柴谷様のお料理を作らさせて頂き、会話して分かりました。あなたならまだ誰かを幸せにできるってホンの少しのお時間でしたが感じました。だって私も今日は柴谷様とこうして会い幸せを感じました。あなたは不思議な心をお持ちです。それを信じてくださいね。」
感慨深くその言葉を聞き、涙が溢れて拭うタケシ
まだ誰かを笑顔に出来るんだって。。。
本当なのだろうか。。。
俺にそんな力が残っているのだろうか。。。
そんな事を思いながらタケシはシェフに
「ありがとうシェフ。今日は久しぶりにいい時間を過ごせました。シェフも僕と同じ考えで料理を作られてるって思うと嬉しく思います。またいつかどこかでお会いできたら。。。本当にありがとうございました。」
笑顔で頷くシェフ
俺に不思議な心って
なんだろう。。。そんな心とか力ってあるんだろうか。。。
タケシはレストランを後にし、自分の部屋に戻った。
ベッドに寝転がり
夜景を見ながら自然に眠りにつく。
そして
不思議な夢を見た。
それはショートボブでタケシよりはるか年齢が離れている若い女性の夢。
その中の女性はとても素敵な笑顔で
タケシに向かって微笑む
そんな笑顔に優しさを覚え吸い込まれそうな
優しい気持ちになる
そんな夢をタケシは見ていた。。。
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