Episode.12 真実を知る為に

 あの後、俺がルドルフさんと家に戻ると美味しそうな匂いが部屋中を充満していて夕飯への期待がふくらんだ。


「村長さんから賢者様達にと良い食材を頂いたので、今晩はご馳走ちそうです」

ダリアさんがそう言い、にっこりと笑顔を浮かべる。


「まじですか!? いやっほぉぉぉぉ!」

そのダリアさんの気遣いに俺は全力で喜びを表現する。


元はと言えば俺が今回の旅に同行した理由がたまには違う食事を楽しみたい、という事だったのを今思い出した。


「随分嬉しそうね?」

そんな俺の姿をフィオは悔しそうに顔を歪ませながら睨んでくる。


彼女からしたら、俺の反応は今まで自分の出していた食事に不満があったと言われている様なものなのでその反応は当然だ。


しかし、今の俺は喜びを抑えられない。


何故なら、現実世界を生きていた人間としては修行僧の様なあの食事はとてもじゃないが耐えられないからである。


「……あんた、帰ったら野草のスープ一週間ね?」

背後から何か小さいのが呟いているが、今の俺の耳には入らない。


その理由は……


「はい、ロストさんの分」

コニーが元気よく運んできたのは肉の焼ける良い匂いと甘辛いソースに包まれた料理――


そう、新鮮な肉料理である。


「肉だぁぁぁぁ!」

俺はテンションが最高潮に達し、その場で喜びの舞を踊る。


「……やっぱ二週間にするわ」

直後、とてつもなく恐ろしい発言が背後から聞こえてきた。


母さん、聞いてください。

俺、ルドルフさんの屋敷に帰ったら死ぬかもしれません。


Episode.12 真実を知る為に


「いただきます」

皆それぞれ食卓に並び、食事の挨拶をする。


「うまうま」

俺は凄い速さで目の前の肉にかぶり付き、新鮮な肉の喜びをみしめる。


「何か変わってる食感だけど旨い」

食べてみると俺の想像していた食感と違い、筋ばっていて脂身の少ない鳥肉といった感じだった。


「そうですか? 良かった、実はこの料理は村の名物なんです」

その俺の感想にダリアさんは嬉しそうに笑い、料理の事を説明してくれる。


「この肉は何の肉を使ってるんですか? 鳥?」

俺は食べるのを継続しながら、何の肉が使われているのか聞いてみた。


ねずみです」


「え゛っ?」

その返答に俺の思考が一瞬で停止する。


「牛……」


「鼠です」

信じたくない真実を聞かされ、俺の中で必死に食べられる肉に変換しようとする。


「豚……」


「鼠です」

が、その度にダリアさんが丁寧に説明してくれるので見事に失敗に終わった。


「なるほど、この村のラットヴィルとはここからきておるのか?」

全く動じないルドルフさんが、肉を食べ続けながら村の名前の由来についてダリアさんに尋ねている。


「はい、この村では鼠の……」

それからダリアさんがこの料理について色々語ってくれていたが、俺にはそこからの記憶はない。


ただご馳走という事で出されたものを残す訳にはいかず、終始引きった笑顔で完食したという事実だけは覚えている。


しばらく肉料理はトラウマになるかもしれない。


その後すぐにトイレに行くと嘘をつき、外へ飛び出した。


「お゛う゛ぇぇぇぇ」

そして、近くの茂みに駆け寄ると胃の中にあったものを全て吐き出す勢いでリバースする。


いくら新鮮な肉と言っても鼠肉は、俺にはハードルが高すぎたのだ。


「全く、だらしないわねぇ」

リバースを続けていると後を追って来たのか、フィオが呆れ顔で声をかけてきた。


「う゛っ、うるせー……」

何時もなら売り言葉に買い言葉な会話も俺が弱っているので成立しない。


「やっぱり、あたしの料理が一番よね?」

そんな俺を見てフィオは、何故か勝ち誇った様に勝利宣言をする。


「いや、それはない」

それに素直に頷くのがしゃくだった俺は、彼女のその宣言を否定する。


「……あんた、覚えてなさいよ」

すると、フィオはいつもの様に地団駄じたんだを踏みながら悔しがる。


フィオとの間抜けなやり取りをしている間に吐き気は治まり、本調子に戻った。


「すっきりしたんなら戻るわよ?」

まだ少し不満気なフィオは、俺の調子が戻ったのを確認してコニーの家へ戻ろうと移動を始める。


リバースする事に集中していてすっかり忘れていたが、辺りは既に真っ暗で一人で出歩くのは危険な時間帯となっていた。


ただ暫く暗闇にいたので目が慣れ、暗い中でも微かにだが周囲を見渡す事が出来る。


「ん、人?」

そのおかげなのか、離れた場所に人が歩いているのを気付く事が出来た。


「まさか、こんな時間に人なんて……」

フィオはいる訳ないと言いたかったんだろうが、俺の視界の先に本当に人がいたので黙ってしまった。


俺はよく目を凝らし、その人物がどんな姿をしているか確認する。


何故なら、その人物が昼間知り合った人に背格好が似ていたからだ。


「ウォレスさん?」

そして、その人物がウォレスさんである事が判明する。


彼は周囲をキョロキョロ見回した後、森へ続く道を歩き出した。


俺は彼の行先が気になり、ついて行こうか考える。


「やめておきなさい」

それを見透みすかしたのか、ついて行こうとする俺にフィオが釘を刺してきた。


「何でだよ?」


「ついて行ったら、きっと後悔するわよ」

フィオの言葉の意味は俺も薄々だが気付いている、結論を出すのを避けていたのにそれが無駄になるかもしれない。


関わるべきではない、そう考えるのが一番簡単だ。


でも、信じて笑いかけてくれたコニーを裏切ってしまうんじゃないか、そう考えると関わらないという選択肢は選べそうにない。


「悪い、やっぱり気になるから行くわ」

親切で止めてくれたフィオに謝罪しつつ、俺はウォレスさんの後を追う為に追跡を始めた。


「はぁ……」

そんな俺の行動を見て背後からフィオの深い溜息ためいきが聞こえてくる。


「あんた一人じゃ危険だし、ついて行ってあげるわよ」


「ありがとう」

悪態をつきながらもそう言ってついて来てくれるフィオに俺は、苦笑しながらも感謝の気持ちを伝えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る