あんたは、居残り

「それと、お盆休み。みんなで、実家に行くから!お前は、居残りな!」


「はい」


「一週間後に死んでるとかダルいから、死にそうなら家の外で死ねよ」


兄ちゃんに、そう言われた。


「はい」


「じゃあ、風呂はいってとっとと寝な」


「はい」


不思議な家庭だって思うだろ?


俺は、二番目の父親の子だった。


母親は、俺を産んですぐにそいつに捨てられた。


そしてすぐに、兄と姉の父親とやり直した。


兄と姉を可愛がっていた父親は、母親が不貞をした事を許した。


その不貞の代償が、俺だった。


ぬるいを通り越して、冷たい湯船にはいる。


何か、ヌルッとしてる。


さっきの時間が、楽しかった。


「俊君、おじさんの負けだ」


「私もやらしてよ」


「しゃーなしだぞ」


「俊君、やろっか?」


「うん」


うんって言っても、怒られなかった。


泡を沢山たてて、石鹸で全身を洗ってから一気に流す。


じゃなきゃ、五分はすぐくる。


「終了」


「はい」


いつも、外で兄が見張ってる。


ゆっくりお風呂に入ってみたい。


「じゃあ、お休み」


「はい、おやすみなさい」


水を渡された。


歯磨きは、グチュグチュしかできなかった。


治療費は、タダだから虫歯になってもOKなんだ。


「理名に会いたい」


俺専用に作られた、一畳の部屋。


今の父親が、家族の為に建てた家。


俺だけ、小さな部屋で


虐待を疑われたくない両親は、ギリギリのラインで俺を生かしていた。


「理名に会いたい」


さっきの理名さんが掴んでくれた手を思い出す。


「優生さんとゲームしたい」


あの人達の、家族になりたい。


泣きながら眠った。


朝、目覚めて用意をする。


コップ一杯の水を飲んだ。


トイレは、大きいのは学校でって決まりだった。


「おはよう」


家から、出てきた俺の前に理名がいた。


「何で、いるの?」


「給食ないよね、今日!隣の人の子供が終業式だって聞いたから。優生駅まで送ってきて、寄ったんだ。」


「お腹痛い」


「えっ、家に行こうか」


理名さんは、車に乗せてくれて家に連れて行ってくれた。


俺は、急いでトイレに行った。


下痢で、便器を汚すから使用禁止なの忘れてた。


理名さん家を汚しちゃった。


「手、こっちで洗って」


俯いてる俺に理名さんは、


「どうした?」


と聞いた。


「うんちで便器が」


「あー。便器は汚れるもんだから気にしない、気にしない」


そう言って、頭を撫でてくれた。


俺は、手を洗った。


「理名」


「あっ、お腹空いた?」


「えっ?」


「うんちしたから、お腹空いたんでしょ?」


「う、うん」


「私も今から朝御飯だから、一緒に食べる?」


「うん」


「学校は、時間間に合う?」


「全然、間に合う」


「何時に出たらいい?近くまで送るから」


「えっと、50分。」


「じゃあ、まだ38分はあるね。座ってて」


理名さんは、キッチンでカチャカチャ何かをしていた。


「はい、召し上がれ」


5分で、やってきた。


「いただきます」


「どうぞ」


お味噌汁と鮭と卵焼きとご飯とサラダと納豆がやってきた。


朝から、こんなの食べてるんだ。


「また、泣いちゃった?」


「うん」


「いっぱい泣いていいよ」


そう言って、理名さんはいただきますをして食べていた。


俺の初恋の人は、俺に優しくしてくれる。


俺は、それが凄く嬉しかった。


ご飯を食べ終わったら、理名さんは学校の近くまで送ってくれた。


「いってきます」


「いってらっしゃい」


そう言って、手を振ってくれた事に泣いたんだ。


初めてを全部くれた。


朝御飯もいってらっしゃいもゲームもハンバーグもトイレもお弁当も…。


理名さんは、お昼から仕事だから俺にお弁当を持たしてくれた。


お下がりのランドセルに、お弁当が入ってる。


嬉しくて、堪らなかった。


「おはよう」


「おはよう」


学校では、いじめられてないんだ。


だから、学校は嫌いじゃなかった。


かと言って、友達は須々木多一すすきたいちしかいなかったけど…


それでも、家より学校の方がずっとマシだと思ってたんだ。


理名さんを見つけたあの日までは…。


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