第17話 大事なもの(ジルアーク)

「リア、魔力を扱う際の注意点は覚えているよね?

 その中に婚約者以外の異性の魔力の受け渡し禁止があっただろう。

 あれは魔力の受け渡しを異性間で行うことができるのは一度だけだからだ。

 婚姻するときにお互いの魔力の半分ずつを交換するんだ。」


「え?」


「今、リアの中に俺の魔力の半分以上が入っている。

 つまり、俺はこの先リア以外の異性に魔力を流すことはできない。」


「…えぇ?」


「勝手に魔力を流してしまってごめん。

 でも、俺以外リアを助けられるほどの魔力量の持ち主もいないと思う。」


「…謝らないで。私を助けるためにしたのでしょう?」


「それはそうだけど、俺のせいでリアを危険にしてしまってごめん。

 どうしてもリアにいなくなってほしくなかった。

 だから、俺のわがままでごめん…。」


「じゃあ、今は婚約者じゃなくて結婚してることになるの?」


「いや、まだ。

 俺からリアに流しただけだから、俺はリア以外とは結婚できないけど、

 リアは俺以外と結婚することが可能だ。」


「…ジルの魔力はその状態で不安定にならないの?

 何も影響がないわけがないよね?

 魔力のすべてを失ってしまったら命の危険があるのなら、

 半分でも危険なんじゃないの?」


「…不安定にはなるよ。リアから魔力をもらって、正常な状態に戻るんだ。

 リアからもらわなかったら、以前の俺の半分とは言わないけど、

 それなりに少なくなると思う。

 でも、俺の魔力量は半端なく多いから、それでも生きてくうえで困らない。

 リアは多すぎて発散させるのが少し苦労するかもしれないけど、

 俺以外の誰かに魔力を渡しても問題はないよ。

 あぁ、今はダメだよ。

 リアの魔力がきちんと回復して、リアの魔力に戻ってからじゃないと無理だから。

 今のリアに入ってる魔力は全部俺の魔力だからね。属性も違うんだ。」


「…そうなの。いつくらいに回復するの?」


「最低でも二週間はかかる。

 だから、その間は周りに気が付かれないように、

 リアの魔力が元に戻るまでは別邸に籠れっていう指示なんだと思う。

 父上も母上も、中途半端な状態のリアを人に見せるのは嫌なんだろう。

 今は何も考えずに休んで回復することを考えて。」


「ええ。」


話が終わって、少し寝乱れたリアの髪を直すようになでていると、

落ち着いた寝息が聞こえてきた。

俺も少し寝ておくかな。ここまでずっと寝ないでいたせいか、限界が近かった。

それでも魔力を流すのを止めないように意識して目を閉じた。




今何時だろうか、魔力回復薬の三本目も飲み終えてるから、

そろそろ八割回復しててもいいころだ。

別邸に移動する前にリアは湯あみして着替えさせないとな…。


その前に気になっていたことを終わらせてしまうか。


「リア、腕を出して。」


「腕?どうして?」


不思議そうにしながらも、寝ころんだまま両腕を出して俺に見せてくれる。

その腕を確認して、左腕を手に取った。


「このあざは、シャハル王子に掴まれた?」


「…あぁ、そうね。」


思い出したくないのか、リアはうつむいてしまう。

こんな顔をいつまでもさせたくはなくて、すぐに魔術をかける。


「じゃあ、治してしまおう。」


リアの腕に俺の手をそえて、治癒魔術を展開させる。

あまり得意ではないが、あざを消すくらいなら出来なくもない。

数分間かけて、ゆっくりとあざは消えて行く。

何もない綺麗な肌に戻るのを確認して、手を離す。


「リア、他にもあざがあるよね?」


「…?」


「魔力を流していると、怪我している場所も少しわかるんだ。

 右胸、どうしたのか教えて?」


リアは右胸と聞いた瞬間、さっと顔色を悪くした。

やはり何かはあったんだな。

だいたい想像はつくけど、ちゃんと説明してほしい。


「リア、話してくれない?」


「…後ろから羽交い絞めにされて、

 服を脱がされそうになったから抵抗したらシャハル王子に肘が当たって。

 そしたら右胸を力いっぱい掴むようにさわられて…制服の上からだけど。

 力が強かったからあざになってると思う…。」


思い出したのか少し涙目になってしまったリアに、

心配いらないと抱きしめて頭を撫でる。


「嫌な思いしたけど、よく逃げたね。リアは頑張ったよ。」


「ん…。」


「そのあざも俺が消して無かったことにするから、ね?」


「うん…。」


「じゃあ、服脱がせるよ。」


「えっ。」


右胸についているというあざを見ようとブラウスのボタンを一つずつ外していく。

目に見えて慌てて真っ赤な顔しているリアが可愛いが、止めてあげない。


「ジル?ちょっと待って。自分で治せるから!」


「無理だよ。今リアの中にあるのは俺の魔力だって言ったでしょ。

 リアの属性は光と風だね。光なら自分自身にも治癒できるよな。

 だけど、俺の属性は水と氷と闇だから。自分に治癒はかけれないよ。」


「じゃあ、私の魔力に戻ったら治す!」


「いやだよ。あいつに傷つけられた痕をそのままにしておくわけないだろう。

 俺は治癒が得意じゃないから、見て直接触らないと使えないんだ。」


ブラウスのボタンは全部外され、下着が見える。

声では嫌がってるけど、全く抵抗されないのをいいことに、

そのまま下着も外してしまう。

真っ白で形のいい胸や桃色の先が見えて、興奮する気持ちもあるけど、

右胸にはっきりと赤黒いあざがあるのが見えてイラつく気持ちの方が強い。


俺のリアにこんな痕をつけるのは許さない。

どれだけ強く揉んだらこんな痕になるんだ。

そこに見えた暴力の痕に、リアがどれだけ怖かっただろうと思う。

こんな痕はすぐに治してあげたかった。

湯あみで一人でいる時にその痕を見て怯えてしまわないように、

どうしても今俺が治しておきたかった。


「さわるよ。痛かったら言って?」


痛くないようにリアの右胸にそっと手を当てる。

胸全体をおおうように手を当てて、治癒を展開させていく。

思ったよりも範囲が大きくて、何度か手を当てる場所を変えて治癒をかける。


「んっ。」


リアが真っ赤なまま口に手を当てて声が出ないようにしているのを見て、

少しだけ意地悪な気持ちになる。

嫌な思い出を上書きできないかな…俺が。


もうほとんどあざが消えたのを確認しながら、手ではなくくちびるでふれ、

ぱくりと咥えるように口にふくんだ。

そのまま魔力を送りこんで、薄く残っていた痕も消していく。

右胸全体を綺麗にした後、胸の少し上に吸い付いてわざと痕をつける。


身体の態勢を元に戻して、

恥ずかしさで息が上がってしまっているリアを抱き寄せると、

何の抵抗も感じずにリアは胸に顔を寄せてくる。


「もう大丈夫。全部綺麗になった。

 その上で、俺が痕をつけた。

 いい?リア。思い出すのは俺の痕のことだけだよ?」


「…うん。ありがとう。」

そのまま余韻を楽しむように抱き合った後、

リアに湯あみをさせるために隣の部屋にいるミトを呼んだ。

着替えなどを用意して待ってるはずだ。

久しぶりに顔を見たミトは泣いていたのか目が赤くなっている。

寝不足なのだろう。その後ろにいるリンとファンは眠そうだ。


「もう大丈夫だ。怪我はあざだけだったし、それも全部治癒してる。

 リアの湯あみと着替えが終わったら、軽食を食べて移動しよう。

 もう夕方になるから、夜になるのを待ってから移動した方がいいな。」


「はい。」「あ、あの…リア様は大丈夫でしたか?」


おそらくミトが言うのは、シャハルに乱暴されていないか聞きたいのだろう。


「リアはほとんどケガも無く無事だった。安心していい。

 全身に魔力を流して確認しているから、リアは綺麗なリアのままだよ。」


「あぁぁ。良かったです…。」


ほっとしたのだろう。崩れ落ちそうになったのをリンが支えてやっている。


「別邸に着いたら使用人達もいるだろう。お前たちも一度休みを入れるんだ。

 二週間ほどは外に出ないと思うから、その間にちゃんと休めよ。」


「わかりました。」


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