衝突
眩しい太陽の光が病室に照らされる。そんな変わりない日々を過ごす日が続くはずだった。
見舞いには母さんと父さん、陽輔が毎日来ている。変わったのは俺の体調が悪くなるばかりだ。悪化していく身体は日に日に痛みを増していく。まるで胸が圧迫されている感じだ。
不意に誰かの足音が近付いてくる。扉のほうに視線を向けると、母さんが俺の様子を見にやってきた。俺はそっぽを向いて、窓の外を眺める。
「優悟、苦しくない? 胸痛くない?」
優しい言葉に返答もせず、外を眺め続ける。今は何も話したくない。ただ、外を眺めていると、眩しい光を浴びてしまう。
思わず目を瞑ってしまった。直後、眩しさがなくなった。目を開けてみると、母さんが窓の前に立っている。
「良い天気ね。でも、眩しいでしょ」
カーテンを閉めて優しく笑いかける。閉めてくれるのは有り難いはずなのに、その表情は俺の心を締め付ける。
母さんは悪くはないんだ。俺の心がそうさせているだけなんだと言い聞かせるように心の中で呟いた。
暫く母さんと話して、いつも見舞いに来る陽輔を待った。陽輔が来たのはいつもより遅く、見舞い時間可能なギリギリの時間帯だった。
俺の体調の様子を見て、直ぐに帰った。学校が終わった後、アルバイトしているんだな。
「よう、体調はどう?」
「大丈夫だ」
その言葉のループばかりが続く。何日も何日も。
試しに陽輔に疑問をぶつけてみた。
「なあ、最近さ、見舞いに来るの遅くないか? しかも一瞬だけ。無理して来なくてもいい。来れる時だけで、」
言葉が途切れてしまった。その理由は不意に陽輔を見た時に気付く。俺の言葉を耳にしてか、ムスッとしたように表情が変わったんだ。
おかしな事は言っていない。寧ろ、忙しくなって遅くなっても必ず毎日来る陽輔のほうがおかしく思い始めている。
次の瞬間、陽輔の口から意外な言葉が出た。
「あのさ。俺が子どもの時、どれだけ後悔してるか知らないだろ。お前の身体を心配して見舞いに来ちゃ悪いかよ。来るなって言うなら、そうするさ。勝手にくたばってろよ」
初めて耳にした。初めて怒鳴り散らす姿を見た。言葉を吐き捨てるように発した後、陽輔は病室を飛び出すように去っていった。
陽気な性格の陽輔が初めて見せた姿だった。知らなかった。いや、知る由もない。今まで言われなかったからだ。
あんな怒鳴れ方をしてしまうと、俺が悪かったのかと思うようになる。罪悪感が波のように押し寄せてきて頭から離れない。
謝ったほうがいいのだろう。今日は無理だ。時計を目にすると、見舞いの時間ギリギリだった。
またの機会にするか。
『勝手にくたばってろよ』
その言葉が過ぎる。心の何かが抉り取られる感覚を覚えた。
直後、胸に激痛が走った。咄嗟に胸を抑えるが、耐えられない。発作が起こってしまったんだ。今度は無理かもしれない。俺はこのまま、命が……。
病室に響く煩くなる心電計の音を耳にしながら、意識が薄れっていった。
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