すれ違い(1)
陽輔と遥さん、二人で楽しく過ごせると思っていたあの時が懐かしく思えてくる。
それは突然訪れた。
ある日、看護師さんたちから耳を挟んだ。陽輔のことを。
「あの子、ほら、優悟くんのお見舞いにいつも来てる子」
「ああ。確か、名前は、」
「陽輔くんって言ったっけ?」
「うん」
盗み聞きするつもりはなかった。偶々、病室の扉が開いていて、看護師さんたちの話が耳に入ってきた。
本来なら、病室の扉は開いていない。今日に限って開いていたんだ。おそらく、母さんの閉め忘れだと思う。
話によると、看護師さんの一人が日が暮れ始める夕刻時に陽輔が店で働いているところを見たらしい。店に寄ったものの、陽輔は看護師さんに気付かず対応していたという。
その話を耳にし、俺は一人納得した。その理由は最近の見舞い時間が不規則だということにある。
平日は見舞い終了時間ギリギリで来たと思ったら即帰り。休みの日は午前中の一瞬の時間だ。
陽輔は今も変わらず、毎日来ることを続けている。ただ、彼女の遥さんは一緒に来なくなった。
どうしてなのか理由を聞きたいが、陽輔の気持ちを考えると聞くに聞けなかった。
もしかして、二人はもう付き合っていない、そんな考えがどうしても離れない。
扉を開け放たれたまま色々考え込んでいると、珍しい人物が病室に入ってきた。
遥さんだった。
「遥さん?」
遥さんは入ってくると、下を向いて俯く。何かあったのだろうか。
久々に会った遥さんはどこか元気をなくしていた。やっぱり、そういうことなのかと何かを察した。
「私、陽輔くんと別れたの……」
顔を上げた遥さんは思いも寄らない言葉を発した。いや、本当は予想出来ていたが、言葉を信じたくなかった。
二人はあんなに仲が良かったはずだ。何があったんだ。
陽輔のことだ。きっと、訳があるのではないかと思う。陽輔は俺が遥さんと話していると、嫉妬するほど遥さんを好きな場面が何回もあった。それがなぜ別れたんだ。
ふと、遥さんに視線を向けると、涙を拭っている。
「……充くんのお母さんと話していたら、陽輔くんに見られていたみたいで、やっぱりまだ好きなんだって言われて、違うって否定したんだけど……」
必死に絞り出される声は震えていた。涙を流し続ける遥さん。
恋をした経験がない俺はなんと言葉を掛ければいいのか、困惑するしかない。
ただ、遥さんからは陽輔が好きだという気持ちは伝わってくる。充がこの状況に居合わせていたらなんて思うだろうか。
ちゃんと話をするべきだというかもしれない。
「遥、さん、陽輔と、」
直後、胸がどくんと鳴った。こんな時に発作が起こるとは俺の身体はどうかしている。
俺は激しい胸痛に胸を抑える。
「優悟くん!」
必死に呼び掛ける声が段々と遠くなるのを感じながら、俺は必死に痛みを耐えた。
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