再会(1)
病室から出て数分、俺はある一室に辿り着いた。そこには「楠木 充」というプレートが一つだけある。俺と同じ個室だ。
俺は閉まっている扉をこんこんと叩く。扉を通して弱々しい声の返事を耳にする。
扉を開けて、中に入る。ベッドに身体を起こして彼はこちらを見ていた。
「優悟、久しぶりだね。生きてて、良かった。元気に、してた?」
充と目が合うと、充が微笑みながら言葉を発する。彼も俺と同じ病気でこの病院に入院している。とは言っても充は入退院を繰り返しているだけ。
それでも、小さい頃は病院内で初めて会ってよく遊んでいた。
「優悟?」
「あー、元気だったり、調子悪かったり。今日は発作が出てないから調子いいほう」
充の呼び掛けに俺はハッと我に返って答えた。
直後、充は小さく笑う。笑っていても、どこからどう見ても充のほうが悪いように見える。
鼻には呼吸器チューブ、それから幾つもの機械が充の周りを囲んでいた。時々顔を歪める充の表情が良くない事を顕している。同じ病気なはずなのに、こんなにも症状が違うと俺が病気なのか疑ってしまう。もしかしたら、充は……。
「そっか。でも、また、会えて、良かった。見ての通り、僕は、良くない、みたい、なんだ」
無理して笑いかける充だが、その表情はどことなく悲しさや切なさ、色んなものが混ざり合っているように見えた。俺はなんと言葉を返せばいいか分からない。
「優悟、今までありがとう」
その言葉に咄嗟に充を見ると、充は窓の外の遠くを眺める。
何を思い、何を考えているのだろうか。もしかしたら、この先のことを考えているんじゃないかと思ったが、声を掛けられなかった。恐らく、それは俺たちが抱えている爆弾が原因なのかもしれない。少しばかり話をして病室を後にした。
廊下を歩いて、後ろを振り返る。少し先に充の病室が目に入った。突然の訪問に充は驚いたはずだ。それなのに、充は嬉しそうに歓迎してくれた。ただ、突然の訪問で身体に負担掛けていないといいが……。
そんな事を考えていると、見覚えある人物が充の病室の前に現れた。あの子は、確か。
声を掛けようとするも、あの子は病室に入っていった。それに思い出せば、俺は今病室に出られないことになっている。関係者に見つかれば、叱られるし心配される。早く戻らなければと足を速めた。
病室に着くと、母さんが顔色を変えて待っていた。それもそうだ。病室にいるはずの俺がいなくなっていたのだから。
それに、家はそんなに遠くはない。着替えを持ってくるだけなら、それほど時間は掛からない。
心配を掛けてしまっただろう。そんなことを思いながら、ベッドに横になった。
「充くんのところに行ってきたの?」
俺は驚いた。同時に急に胸が痛み出し、咄嗟に胸を抑えていた。
「優悟、大丈夫?」
呼び掛けにも応えられず、息苦しさが増してきた。今日は調子がいいはずだ。自分の身体のことだ。尚更、分かっている。
そういえば、ここに来る前に少し早足で来たんだったっけか。そうか、そのせいで発作が起こってしまったんだ。
「優悟、優……」
次第に視界は真っ暗になった。
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