第6話『それぞれの後悔 小菊の登場』

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)


6『それぞれの後悔 小菊の登場』





 後悔が沸き上がってきた。


 湧き上がるじゃない、沸き上がるんだ。

 胸のあたりで沸騰するものがあって、それが体中を駆け巡って、身体を熱くする。


「あら、暖房がきついのかな?」

「ううん、そじゃない、機内食食べたから」

「ミコは食べたら熱くなるんだったわね、いーな、そういう子は太らないんだよね」


 夏子叔母さんは、そう言うと詰まらなさそうにアイマスクして寝る体勢になった。


「ミコも寝ときな、ひょっとしたら、そのままお葬式ってこともあるからね」

「う、うん……」


 お母さんとお父さんは、電話をくれた直ぐ後に羽田から一足先にたった。

 あたしは埼玉から遅れてくる夏子叔母ちゃんを待って飛行機に乗ったんだ。


 食べて体が熱くなるのは小学校までだ、後悔だなんて、楽天家の叔母ちゃんには言えない。


 オメガ先輩に頼んだのが新発売のエロゲだったなんて!


 オメガ先輩は独特だ。


 なんというのか、フニっとしたオーラが独特で、あのフニフニはくせ者だ。


 堂本先生とトラブってるところを助けられたこともあるけど、初対面の男の人といっしょにお昼を食べるなんてありえない。

 あたしは、こんな Σ 口のツッケンドンだから、面と向かって冷やかされるようなことはないけど、陰じゃいろいろ言われてるんじゃないかと思う。


 アキバではビックリした。


 人ごみの中とは言え、逃げもしないで「学校休んで予約のエロゲを受け取りに来ました」なんて。なんで言ってしまったんだろう(#-_-#)。


 えと……お祖母ちゃんが倒れたって電話もらって、動揺してしまって、そいで心配な顔で見つめられて、つい言ってしまったんだ……


 あーーーー!


 むろん露骨にエロゲだなんて言ってない。ゲームのタイトル言って予約券を渡しただけ。「よし、俺に任せとけ!」って胸叩かれて、その場はチョ-安心してしまった。


 オメガ先輩は営業職に向いていると思う、道を踏み外せば名うての詐欺師になるかも……


 あー何考えてんだ!


 ゲーム受け取って、それがバリバリのエロゲだって分かったら……あーー大ヒンシュクだーー!!


 

 グホッ!


 いつもなら簡単に避けられるキックをまともに食らってしまった。


「この、腐れ童貞がああああああああ!」


 調子に乗った二発目は、からくもかわした。

 空振りになったケリにバランスを崩し、鬼の妹はドウっとひっくり返って縞パンが丸見えになる。


「見たなあー変態!」

「オメーが悪いんだろ」

「おまえが悪い! 同じゲーム屋の袋に、こんなエロゲ入れてほっぽらかしてるおまえがああああ!」


 受け取ったゲームがエロゲであると分かってからは生きた心地がしなかった、ソフマックの売り場には長蛇の列ができていてよ、とうぜん大型店だから、他の客もいっぱいいるわけで、そいつらが――わ、エロゲの予約!? こいつら変態? キモ!? エンガチョ!――とか思っていて、そのうちの何十人かは、帰りの駅までいっしょなわけで、そのうちの何人かは同じ電車で――え、あのエロゲ野郎と同じ方向!?――とかキモがられ、ひょっとしたら、同じ駅で降りて、同じ町内で……あり得ねえ(;'∀')。こんなのもある、同じエロゲ買った奴なら――おお、同好の士よ! 我らが友よ! エロゲの友よ!――とかな。


 なんとか家にたどり着いた俺は緊張のあまり忘れていた尿意を思い出してトイレに直行した。


 で、妹の小菊が同じゲーム屋の袋をリビングにオキッパにしているとは夢にも思わなかった。


 俺は、玄関ホールの棚の上に置いていたんだけど、アホな小菊は自分が置いたものと思い込んで開けてしまったというわけだ。


「ち、ちが、これは……!」


 さすがにシグマに頼まれたとは言えない。


「と、友だちに頼まれて受け取りにいっただけだ!」


「見え透いた言い訳を……あ……いや、ありえるか。あんたの友だちってノリスケ一人だもんな、ノリスケならありえるか。とりあえずあんたの分、口止め料ちょ-だい」


 小悪魔は、ヒラヒラと俺の前にパーにした手をひらめかせたのだった。




☆彡 主な登場人物


妻鹿雄一(オメガ)     高校二年  

百地 (シグマ)      高校一年

妻鹿小菊          中三 オメガの妹 

ノリスケ          高校二年 雄一の数少ない友だち

ヨッチャン(田島芳子)   雄一の担任

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