第2話『それぞれのあだ名』

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)


2『それぞれのあだ名』   





 例のやつとはスペメン、スペシャル麺類の略だ。


 食堂の麺類は、うどん・そば・中華そばの三種類。

 日によって残っている麺類はまちまちで、その麺類に、ありったけのトッピングを全部のせしたものをいう。


 今日のスペメンはうどんだ。    


 天かす、オボロ昆布、きざみあげ、わかめ、玉子が乗っかって300円。早めに頼むと、数量限定の肉が入ることもある(肉が入ると350円)



 券売機のメニューには無い特別メニューだ。



 元々は、余った食材で作ったまかないなんだけど、ずっと昔の先輩が発見して裏メニューになっている。


 で、目の前には大盛りと並のスペメンが並んでいる。


 食堂のおばちゃんは南さんといって俺んちの近所のおばちゃん。



 おばちゃんは状況を察して、大盛りと並に振り分けてくれた。



「こんなの初めてです!」



 シグマは弾みのいい子で、うどん一杯で気持ちが切り替わったようだ。


 口元は堂本が言う通りのΣだけど、全体で見ると、年相応に驚き六分ワクワク二分に緊張二分ってとこだ。


 根っこの所では弾みがいいようで、うどんをすするΣ口も悪くはない……どっちかっていうと可愛いやつだぞ。


「あ、いっしょに食べててよかったっけ?」


「あ、え、えと、かまいませんよ。先輩は?」


「俺は気にしないから」


「そ、そですか……(^_^;)」


 ひとしきりスペメンに集中する。


 妹以外の女の子と食べるのは緊張する。


 ノリスケといっしょならズルズルかっ込んで、うどん一杯なんてあっと言う間なんだけど、なにか喋らなきゃいけないんじゃないのか、ずるずるすすってはヒンシュクなんじゃないかとか思っているとペースがあがらず、シグマに先を越される。


「あ、あ、そだそだ、立て替えてもらったお代です(#'∀'#)」


 テキパキと財布を出して300円を差し出した。


「あ、いいよ、俺のおごりで」

「でもでも……そだ!」


 クルリと目を回すと、シグマは自販機に向かって駆け出した。


「リンゴジュースとカフェオレとどっちがいいですか( #>o<#)!?」

 

 自販機の前から叫ばれて、ちょっとハズイ。


「あ、カフェオレ!」


 口の形を大きくして意思表示。


「男なんだから二つ飲んでください」


 ドドン


 カフェオレのパック二つが置かれた。シグマはリンゴジュースだ。



 チュルチュル……  ズズズズー!



「せ、先輩も堂本先生だったんですか?」

「ああ、俺は授業だけだったけどな」

「先輩も呼び出されたんですよね」

「ああ、いっしょいっしょ、数学欠点だったんでテスト前に呼び出された。で、入室禁止の札に通せんぼされた」

「で、ブッチしたんですよね」

「うん、指示が札と矛盾してるってこともあるんだけど、テスト前に説教しておしまいってのは、先生のアリバイっぽく思えてさ。昼飯と天秤にかけたら、やっぱ昼飯になるよ」

「い、いっしょです……あたしも、そういうの嫌い」

「でも『先生の指導はアリバイだ!』なんてことは……言わない方がいいような気がしてな」

「で……ですよね」


 発展しそうな話題だったけど、初対面で踏み込んでいいような内容じゃないと思って口をつぐむ。


「俺、二年一組の妻鹿雄一、いちおう名乗っとくな」

「あ、あたし、一年七組の百地です。今日は本当にありがとうございました」

「俺、オメガで通ってるから」

「え、先生のあだ名通りですか?」

「町内にオメガ時計店てのがあって。そこのトレードマークが似ていてな、別に堂本先生の独創じゃないよ」

「あたしのΣもそうです、先生は自分の命名だと思ってますけど」


 お互いのあだ名が堂本のオリジナルではないことに小さく驚いて、それぞれの五時間目に戻っていく。


 食堂の外は日差しの割には冷たい風、ブルッと震えてトイレ経由で教室に戻ることにした。

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