Epsode.3 ファースト・レボリューション

「出力はこれくらいか……」

 戦うに当たって、リームはまた自分の腰辺りを弄った。

 先に仕掛けたのはバドだった。

「ははは! 食らえ! 『鏡魔法』!」

 バドは置き鏡ぐらいの大きさの鏡を召喚した。

「『八咫瓊勾玉』《やたかにのまがたま》」

 召喚した鏡から大量の光球が発射された。

「うお! 危ねェっ!」

「『創造バリア魔法』『リームバーリア』!」

 リームは掌からバリアを発生させ、攻撃を防いだ。

「うおー! 防いだー!」

 ギャラリーもリームの意外な善戦に興奮している様だ。

「それがてめェの魔法か!」

「ああそうだ! お前の魔法も面白ェな! 後でくれ!」

 何をわけのわからん事を……とバドはドン引きしたが、今度はリームが仕掛けた。

「もっと知りたいな、お前の魔法の事! 頼むからもう少し見せてくれ! 『創造雷魔法』 『渦電龍』《うずでんりゅう》!」

「は!?」

 バドが驚く間もなく、リームは魔法陣を展開したかと思うと、東洋の龍の形をした雷が回転しながらバドに襲いかかった。

「ぐあああ!」

 モロに食らったバドはそのまま倒れた。

「ぐ……くそォ……」

 バドはまだ負けてない様だ。

「二つ目の魔法だと……? たかだか地方貴族如きが……王家を……ナメんじゃねェよ!」

「別の魔法ってわけじゃないんだけどな……」

 立ち上がったバドが再びリームへ向かっていった。

 リームは、自分の魔法をおさらいしていた。何せ人を自分の魔法で攻撃するのは初めてだったからだ。

 ———まず魔法は、空気中の魔素を体内の魔力と結びつけて使用するものだ。しかし、もう一つ魔法を構成づける要素があり、それが「魔法式」。魔素と魔力が魔法の材料なら、いわば魔法式は魔法の設計図の様なもの。

 この魔法式は生物それぞれ違うものを持っていて、生物それぞれに固有魔法があるのはその為だ。つまり、魔法式の違いがそのまま魔法の違いと言ってもいい。

 当然創造魔法にも固有の魔法式が存在しているが、創造魔法はそれ単体では役に立たない魔法だが、だからといって創造魔法が弱いわけではない。

 この魔法の真髄は、別の魔法式を創造魔法の魔法式の中に組み込む事で、「新たな魔法」を理論上いくらでも創造できる点にある。

 例えば「創造雷魔法」と既存の「雷魔法」は同じ性質を持つが、創造雷魔法が創造魔法の魔法式+雷魔法の魔法式で構成され、雷魔法とは魔法式が違う以上は別物であり、つまり「創造雷魔法」はそれまで存在しなかった「新たな魔法」である。「魔法式」さえあれば、実質おれはこの世の全ての魔法を使う事ができるのだ。


 ———しかし、「魔法式」はひどく複雑である。固有魔法ならば自分の魔法式を知る必要はないのだが、創造魔法だとそうはいかない。その魔法式を何個もストックして必要に応じて組み込む事ができるのは、彼女の努力と才能あっての事である。


「ふーむ、面白くなってある様じゃのォ」

 そう言いながら決闘場に現れたのは、白髪を長く伸ばした少女、いや見た目で言えば幼女であった。

 審判をしていたブライトは、彼女を見るなり驚いて、「理事長! どうしてここに!?」と言った。

「どうしても何も、お主も近くで祭りをやってたら自然と足を運ぶじゃろう」

 そしてその理事長、レジェ・ロイヤルは、ブライトに「それで? お主はをどう思う」と聞いた。

「どう思うとはどういう事でしょうか」

 その返答にロイヤルは、はぁ……と深いため息をついて言った。

「リームの事じゃよ。あやつの事は10年前から王都の方でも少し噂になっとってな、気になってたまにあやつの使侵入しとったのだが、それがかなり利発で面白い魔法を使っててな、このまま地元で腐らすのも勿体ないと、色々としてやった。なーに、あやつが本当にそこまでの人間だったら、わしもここまではせんよ」

 まったく、めちゃくちゃな事をするお人だと、ブライトは思った。

 しかしめちゃくちゃさなら、リームも負けていないとも思っていた。王家に逆らった上に決闘にまで発展し、そして五王家の第一王子相手に善戦、いや圧倒している様にも見える。こんな光景は今まで見た事がなかった。


 ———おかしいだろ! 何で王家が地方貴族に勝てない!? 地方貴族では王家には勝てない、それが常識なハズだ! そもそも何で地方貴族が「特進総合科」にいるんだ!?

 バドは徐々に打ちのめされつつあった。

 周囲の観客も、地方貴族が「特進総合科」にいる事、そしてそいつが王家を圧倒している事に疑問を抱いていった。

「そういえば、こんな噂を聞いた事がある」

 ある観客の男子生徒が一緒にいた友人に言った。

「今年は学園創立史上初めて『特進総合科』から『一般合格者』が出たって。地方貴族から『特進総合科』が出たのだとしたら、あいつがなんじゃないか!?」

 そうなの……?

 ウソだろ……?

 観客がざわつき始める。どうやら周囲も彼女の異質さに気づき始めた様だ。

 そもそもマジーロ魔法学園は貴族の為の学び舎である。一般市民はお断りなのだ。

 それはトップの学科たる「特進総合科」ではより顕著であり、賄賂や縁故入学が横行していた。最高級の教育を受けられる上に、「特進総合科」というだけで経歴に箔がつくからである。そうでなくとも試験官が受験者(の親)にわざと簡単なテストにしたり、解答を横流ししたりする事もあった。

 当然そのしわ寄せは受験者に向く事になる。「特進総合科」を自分達のものにしようとした中央貴族と王家の圧力によって、年々一般用のテストは難しくなっていった。

 しかしその時、史上初の「一般合格者」しかもが出たので、王家達は狼狽する事になった。当然圧力で合格取り消しになる所だったのだが、彼女を「面白い」と思ったロイヤルが便宜を図ってリーム本人も知らない所で入学させる事に成功したのだった。


 ———さて。

 ロイヤルは、地方貴族に追い詰められる王家と、それにざわつく観客を見て一人ほくそ笑んでいた。

「あやつなら、起こせるやも知れんのォ。いずれ起こる世界の「災厄」に対抗する為の「革命」を。今日この日が、最初の『革命』じゃ」

 ロイヤルは赤い目を光らせ、そう静かにつぶやいた。


 Episode.3 終わり

 Episode.4に続く



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