天才少年(♀)の創造魔法〜神様に「世界を救え」と頼まれた結果、異世界転移して魔力量10万の美少女になりました〜

桃浦金竜

第一部 嵐の前の静けさ

物語の始まり

Episode.1 スクールライフ・スタート①

 ———よし、この創造魔法なら行ける。

 そう確信したリームは、ノアに言った。

「一緒にやろう、ノア。二人なら、いや二人一緒なら、を倒せる!」

「リーム……」

 ボロボロの校舎と校庭、そして自分達。本来厳かに行われる筈の卒業式が、とんでもないものになってしまったとリームは思った。

「でも! この戦いが終わったら、あなたは……」

 今にも泣き出しそうなノアが言い淀む。

「いや、いいんだ。ノア。この世界を救う為なら。だって元々決まってたんだから」

 今、二人の少女は自分達の10倍はある怪物と相対していた。

「行くぞ! 最後の戦いだ! 『エンゲルス・エクス・マキナ』!」

 覚悟を決めた二人は手を繋ぎ、同時に叫ぶ。

「『創造〇〇魔法』!」

 二人の体が光り輝いた。


 

 ———3年前、彼女達の出会いに時を戻す。

 4月、春。新生活が始まる季節である。それは異世界でも同様であった。

「ついにこの時が来た……」

 ピカピカの制服に身を包み、創立498年の由緒正しきマジーロ魔法学園の門をくぐったのは、希少種族、ドラゴン族の少女「ノア・シュトローム」だ。頭に2本の角と、肩甲骨から小さな翼、お尻に小さなドラゴンの尻尾が生えているその姿は、優れた身体能力から世間で「最強の種族」と称される彼らの特徴である。

 校門から校舎までの道はきちんと整備されており、その脇には青々とした木々が植えてあった。

「始まるんだ……! 私の……学園生活が!」

 故郷の期待を一身に背負い、これから始まる学園生活に、ノアは期待に胸を膨らませていた。

 ……膨らむ胸はない様だが。


 その時である。

「わー! 突っ込んでくるぞー! 避けろー!」

 周囲の人間の叫び声が聞こえたので、ノアはドラゴン族の5.0の視力でその突っ込んでくる物体を確認した。

 すると、箒にバイクを合わせた様な奇妙な乗り物にまたがった少女がこちらに突っ込んでくる事がわかった。

「うわー!」

「ぎゃー!」

 反応が遅れたので、さすがのドラゴン族の身体能力でもよけられなかった。

 少女はノアを巻き込んで、植えてあった木々をへし折りながら突き進み、校舎に「ドゴォン!」と激突してようやく止まった。

「あーいたた……私がドラゴン族じゃなかったら死んでた……もー! ちょっと何!? あんた!」

 さすがドラゴン族、あれ程の事故でも傷一つついていなかったが、せっかくのピカピカの制服が破れ、泥だらけになったので、せめて文句の一つでも言ってやろうと、自分とぶつかった犯人の顔を見た。

 少女は、こちらに一切目をくれず、「セーフティ」が発動したお陰で助かったとか、安定性が悪かったとか、もっと改良の余地があるだとか、ぶつぶつ言っていた。

 少女は銀色のお尻まで伸びたクセっ毛ロングヘアーで、大きい赤い目と長いまつ毛とたわわに実った胸を持つ、まさに美少女であった。

「あのーもしもし?」

 ノアがそう言った事でようやくその少女はノアの存在に気づいた様である。謝るかと思いきや、少女はノアをジロリとみた後、いきなり「キミドラゴン族か! キミの固有魔法は何だ?」と聞いてきた。

 意外な反応に面食らったノアは、思わず「『雷』ですけど」と答えた。

 それを聞いた少女はぱあっと顔を輝かせ、「そうか! そうか! 『雷魔法』か! じゃあちょっとくれ」

 彼女はそう言うとノアに触れ、何やら唱えた後、「新たな魔法式が採れたよ。ありがとう!」と言った。

 その様を見たノアはドン引きしたが、すぐ気を取り直して自分と周囲の被害を指で示した。

 周囲とノアの惨状を見て、ようやく事の重大さを理解した少女は、何と土下座して謝罪した。

「本当に! ごめんなさい!」

 あまりの迫力にノアは気圧され、その変貌ぶりにノアは一瞬二重人格を疑ったが、後で弁償をするとの事で、とりあえずその場は収まった。

「そういえば、あなたの名前何ていうの?」

 ノアが聞いた。弁償して貰うのなら、相手の名前を知っておく必要があると考えたからだ。

「おれ……いや私の名前は『リーム・ガイアグル』だ。今年から『特進総合科』に入学する予定で、年齢は……たぶん15歳かな」

 何とも歯切れの悪い返答であった。果たして自分の年齢に「たぶん」がつく事なんてあるのだろうか? 

 ノアはその事を疑問に思ったが、とりあえずそれは置いといて、自分も名前はノア・シュトロームといって、ドラゴン族が治める「ナイトレイ自治国」の王女である事、自分も「特進総合科」である事を伝えた。

 リームは、自分の名前がノアである事を知ると、なぜか少し驚いた様だった。


「つまり私達はクラスメイトになるって事?」

 ノアが聞くと、リームも、「そういう事になるな。3年間よろしく。」と言ったので、ノアも「うん、こちらこそ」と返した。

 リームはノアに手を差し出す。握手のサインだ。ノアは少しモヤモヤしたが、握手を求められたので、その手を握り返した。

 次第に騒ぎに気づいた教職員が集まってきた。リームは彼らにも土下座して謝罪する事になった。


 入学式は、学生寮への荷物の搬入などの理由から、三日後の予定であるという。

 一旦ノアと別れたリームは、自分の学生寮へ行った。

 学生寮は、学校から徒歩5分の所にある10階建ての建物である。学生寮はこれだけではなく、他にも5棟程あるとの事だ。

 リームはその学生量の最上階の自室に荷物を運んできた。

 リームの荷物は最低限の服と一人分の食器、その他諸々しかないので、荷物の搬入はものの10分程度で終わってしまった。

 荷物の搬入が終わり、リームは自分の部屋をぐるりと見渡した。

 部屋は1LDKの風呂トイレベランダつきだった。高級ホテルの一室並みの広さがあり、一人用の部屋としては十分すぎるものである。これが生徒全員に充てがわれるというのだから、この学園の豪勢ぶりが窺える。

 自分の部屋の見渡しも終わり、リームはふうっと一息ついた。

 一国一城の主になったという達成感の様なものは、彼女にはなかった。

 彼女は、いやは、ずっと一人だったからだ。

 話は10年程までさかのぼる。


 ———10年前 日本———

「リーム・ガイアグル」いや「藤山ヒロム」は、元の世界で「世界一の天才」と呼ばれた少年だった。

 生後一週間で言葉を話した。一ヶ月後には言語でコミュニケーションが取れる様になった。しかし両親はその様子をとても気味悪がり、彼を「化け物」と呼んで捨てた。

 養護施設に引き取られた後も、彼に釣り合う人間はおらず、彼は孤独を極めていた。

 やがてその天才ぶりが世界に知られる様になり、数多の研究機関、国際組織と関係を持った。やはりそこにも、彼の居場所はなかった。

 金銭面での不自由はなかった。彼らの研究や開発に協力し、報酬を貰っていたからだ。しかしどこか心にモヤモヤしたものを持っていた。「神」と出会ったのは、まさにそんな時であった。

 

 Episode.1 続く



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