第7話 消えた少女たち
ルデット侯爵領で起きていた連続少女誘拐事件。それは寝室で寝ていたはずの娘が朝になったら忽然と姿を消していたと訴え出る娘の親達が続出した事で騒ぎとなったらしいものだった。
侯爵は配下の騎士を派遣して調査を命じたが全く手掛かりがつかめなかった。立て続けに起きたたかと思えばぴたりと収まり、近頃になって少女達が寝室に戻っていたとの報告が相次いだ。彼女達に姿を消す前と変わった様子はなく怪我や精神的にショックを受けた痕跡はない。
報告書に書かれていたのはその様な事だった。
魔族に命を狙われる俺がその犯人として濡れ衣を着せられた事で、そもそも事件を魔族が起こしている疑いが持たれた。そこで消えてしまった少女達の家を訪ねて手掛かりがないか調べる事になったのだが……。
「賞金首として死んだはずの俺が外を出歩くのに変装が必要なのはわかる。だが、どうしてこんな格好をしなければならないのだ!?」
「思った通りよ。ティルスって中性的な顔立ちだからこのドレスが似合うと思っていたのよ~~」
「うん、私も綺麗だと思います!」
「リデルまでのっからなくていい。似合うかどうかは聞いていない! 理由を尋ねているんだ」
「手配書にあった犯人は男の姿。中途半端に変装するより思いっ切って女になった方が確実じゃない!」
最初はただの変装と聞かされていたが次第に化粧をされ……、絹仕立ての服を着せられ……、気が付けば女になりかかっていた。抗ったところで時既に遅し、強引に押し切られて仕上げられてしまった。
今日はヴァレットの代わりにルデット侯爵の命を受けて調査にあたる令嬢として行動する事になるらしい。
「町の大半の人達はルデット侯爵令嬢の顔なんて知らないから大丈夫。適当に、おほほっ、と笑っておけば本物だと思い込んでくれるはずだから」
「しかし、俺が侯爵令嬢にならずとも他の手があったのではないか? と言うか本物であるヴァレットがそのままやればいいだろ!」
ヴァレットは言葉では何も返さず行動で俺の口を封じる事にしたらしい、強引に馬車の扉を閉めるとすぐさま出発させた。彼女とリデルは令嬢の身の回りの世話をするメイド役でヴァレット弐式は護衛役の騎士との設定になった様だ。
最初の被害者の家に到着した。家の造りは極々普通の庶民が住む場所といった感じの設えで貧しくはないが富裕階級とも言えない、娘を誘拐したところで莫大な身代金を要求出来そうな家ではなかった。
「これはこれは侯爵令嬢様。娘をさらった賊を自ら成敗して下さったそうでありがとうございます」
一度はその賊にされ今度はそれを討った功労者にされる。何とも妙な気分になりどう応えていいものか迷った。
「侯爵令嬢様は喉の調子がお悪いので私の方から質問させて頂きますね」
すかさずヴァレットが割って入ってくれた。見た目はあれとして……、声を出しては男と気付かれてしまうかもしれない。ここは彼女に任せた方がよさそうだ。
「すると、夜に寝室で寝ていたはずの娘さんが朝になったら消えていたと?」
「ええ……。窓を割って誰かが入った跡はありませんでした。あの娘が何より大事にしていたホルンも置かれたままでしたし家出だったとも思えません……。」
「これはお嬢さんのですね? すごく使い込まれているけどちゃんと手入れが行き届いていますね」
ホルンをまじまじと見つめていたのはリデルだった。扱う物は違えど同じ奏者として楽器という存在は気になるものなのだろう。
「将来、宮廷楽士になりたいなんて言って王立音楽学院に通っていたんですけど戻って来たらすぐにやめてしまいました。まあ、それで家の手伝いをしてくれるのは助かるんですけどね」
「そうですか……。そこまで大きな夢を持っていたはずなのに戻って来たら急にやめる、何か気になります」
倉庫の掃除をしているという少女に会ってみる事にした。
「もしよければご一緒しませんか?」
リデルは彼女のホルンを差し出し自身はチェロを構えた。
「ごめんなさい。それに全く興味がないんです」
「聴いてくれる人達の気持ちが晴れるのを想像しながら演奏するのって楽しいですよね?」
「あの、掃除が遅れてしまうので。ごめんなさい」
もやもやしたものを抱えながら最初の家を後にする事になった。
「来てみるものだな。報告書には少女が姿を消す前と変わらない状態で戻ってきたとあったがそれは外見だけの話だろう」
「宮廷楽士になるのはとても大変なんです。毎日の練習はもちろんとして、何回試験に落ちてもめげない強い心が必要なんです。何より本当に音楽が好きだという強い気持ちがなければ続きません。それが消えてしまっているなんて……」
「夢見ていた夢が消えてしまうとはね……。それにしてもうちの騎士連中は使えないわね、変化が大ありなのを見落としていたじゃない! 帰ったらお仕置きだわ」
それから報告にあった3件の被害者の家を訪ねてみたがどれも同じ様な状況だった。今度は誘拐未遂に終わった方の被害者の家を訪ねてみた。
「夜中に娘の部屋の方から窓ガラスが割れる音がしたんです。飛び起きて様子を見に行くと手配書の顔の男が娘に手を伸ばしていました」
父親は無我夢中で手に握っていたホウキを男に叩きつけたところ男は逃げ出したとの事だった。
続く2件の被害者も同じ様なものだった。
「全く気配なく成功させた件とは明らかに違う。やっぱり見つかる為にやったとしか思えないね」
腕を組んでそう言ったヴァレットに俺とリデルは頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます