第5話 しがみついている

 彼は電車の運転士である。

 今日も仕事である。

 とある駅に停止する。彼の目線の先にひとりのおっちゃんがいる。おっちゃんは何かに怯えたように柱にしがみついている。

 彼は電車を発進する。なんだろう? そう思った彼。

 再びその駅に停止する彼。柱にしがみついているおっちゃんがいる。よくよく見ればくつをはいていない。いったい何に怯えているのか? 電車を発進する彼。

 そして、六時間の電車の運転を終えて、彼はおっちゃんがいる方を見ればもうおっちゃんはいない。

 彼は電車の運転を終えてしばらく考える。あのおっちゃんは何に怯えているのか、と。

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