ゲーム7:親切丁寧家庭教師対決③
――今頃二人は上手くやってるかなーっ。
思わず身をよじらせる。
ここでいう二人は二つの意味がある。
一つは健吾と弘人。もう一つは、真緒と朱だ。
健吾と真緒と言うのはどうだろう。意外と良いカップルになったりと言うことも考えられるが、ゲームの面白さ的にはそんなことは無い方がいい。
弘人と朱は明らかにダメだろう。朱は意識が高く、少々怒りっぽいところがある。しかも、朱は小賢い女だ。何かを企んでいたらヤバい。それに対し、弘人は気が弱く、常に他人の顔色をうかがう男。これはマッチしない気がする。もっとも、正反対だからこそ気が合うこともあるが。
明日は勝太と一樹がそれぞれあずきと樹莉のハートを迎え撃つ。
――上手く行けば、このまま早織と一樹が結ばれるんじゃぁ?
健吾と真緒が結ばれ、勝太とあずきが結ばれる。弘人は残念だろうが、そこで一樹と争っても勝てるとは思わない。
――キタっ!
二人の見込みが付いたところで、私はスマホを持ち、メッセージを打ち始める。相手は、五十嵐一馬。
――早織がやってくれたら、後は私が落とすだけだっ!
――伊織先輩はそういう人だったのか。
伊織が中学校時代、勝太を取り合っていたグループの顧問というか、盟主を務めていたこと。そのグループのメンバーに働きかけて、これをやってもらっていること。
その他諸々、中学生時代の伊織のことなども教えてもらった。
まさか、今回のこと以外にも想像以上の情報量のことを教えてもらえるとは思っていなくて、ビックリしたがこれは健吾が信頼されたということなのだろう。
「そういうことなんです」
「……なるほど。良く話してくれたなぁ。ホントに、ええっと、何というかその……」
言い慣れていない言葉を言うのは難しい。こんな男だったんだなぁ俺って、と思った。
まあ、ならこれから言えばいい話だ。真緒にはしっかり感謝しないといけない。
「……ありがとな」
「あ、いや、その、別にお礼をされることは全然してないんですけど……」
「まあまあ。俺が言いたいから言ってるんだ」
ところで。
結局、このまま帰ることになるのか、俺は。何もしてないわけだし、これで外されたらヤバいんじゃないか……?
「ええっと……せっかく来たわけだし、何か無いか? 苦手な教科とか……?」
「え……?」
「いや、本気で嫌いな教科とか……スポーツとか?」
「ええっと……体育が苦手、です……」
「本当に?」
「本当に苦手なんです。無理、本当に……」
表情を見るからにこれは本当っぽかった。よほど嫌なのか顔を真っ赤にしている。
「今何やってるんだ?」
「バレーボールです……」
「あ、マジか。じゃあ次は……」
「ええっと、バレーがもうちょっとで終わって、すぐにサッカーがあるらしいです」
「サッカー。苦手か?」
「苦手です……」
――キタっ! 家庭教師は勉強だけじゃないだろ、運動も教えていいだろ。それでポイントをつければ……。
俺はその情景を思い浮かべ、ほくそ笑むのだった。
「じゃ、始めるぞ」
「はい」
学校の体操服に着替えた真緒に、俺は言う。
「ええっとさ、その前にその敬語止めてくれねぇ? なんか、同学年なのに息苦しいし。元々あの人に派遣されただけの話なんだからさ。楽しく行こうぜ、楽しく」
「あ、うん……」
少しは心のガードを解いてくれたのか、彼女は少しはにかんだ。
「じゃ、行くぞ。取り合えず、まずはボールを蹴る練習から始めるか」
「はい……あ、うん」
俺は幼稚園でサッカーを習い始めた時にコーチに教えてもらったことを思い出しながら彼女に声を掛ける。
「まずは、一人でボールを蹴ってみろよ。ほれ」
急ぎ家から取ってきたボールを置く。
「はい、俺に向けて蹴ってみろ」
「うん……おりゃっ!」
力任せにつま先で蹴ったボールは、上手いこと健吾の右足に飛んできた。
「おぉ、ナイスパス。上手いじゃんか」
「あ、ありがと……」
ポッと彼女の顔が明るくなった。
「ええっと、もっと上手くするにはな、蹴る足の位置が大切なんだ。ここら辺でボールを蹴ってみると……」
色々指導していると、才能があるのかないのかすぐに上手くなっていく。
サッカー選手よりも指導者の方が俺は向いているのかもしれない。
「ねぇ……」
さっきよりも人懐っこさが見えてきた真緒がバッキバキに割れた腹にチョンと触れた。
「うわ、めっちゃ割れてる。このユニフォームすごいカッコイイね」
――!!
まずい。俺は何とかさっきの彼女の笑顔を振り払おうとした。何とか早織に意識を向けないと、そのまま真緒の虜になってしまいそうな気がしたからだ。
「まあ、こんな感じで元はどんどん勢力を広げて行くわけで。まあそこでチンギスから代わったフビライが日本に攻めてくるわけなんですよね。はい。……ちょっと、ちゃんと話聞いてます?」
「聞いてるってば」
「ならいいですけど。それでね、チンギスが作ったモンゴル帝国をフビライは元という国名に変えました。ここでやっとこの名前が出てくるんですね。元、まあフビライは東アジア全体を完全支配しようと目論んだんです。そこで、中国の南の方に手を付けようとするときに、そこと協調していた日本に協力を求め、それを拒まれ攻めてきたわけなんですね」
だんだん熱が入ってきているのが自分でもわかった。
世界地図を使いながら説明しているのは、我ながら分かりやすいものだなぁと思う。
家庭教師としては完全に合格点だ。
朱が聞いているのかが分からないが、弘人的には完全に合格点だと思った。
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