第十五話 クソ理論
「はぁ、はぁ……貴方もそろそろ魔力がなくなってきたのではないでしょうか? あんな
マリアは魔力切れによる
「はぁ……まだ十パーセントも使ってないぞ。いくら何でも魔力切れが速すぎるんじゃないか? ほれっ」
俺はため息をつくと、〈創造〉でニ十本の短剣を作った。そして、それを〈操作〉でマリアの周りに浮かべると、剣先をマリアの方に向けた。
「な……と言うか、どうしてそんなに動かせるの! 〈操作〉というのは数個しか動かせないんじゃないの? それと、その短剣はどこから出したの! 何のズルをしたの!」
マリアは俺に負けたことが、納得いかないのか、ギャーギャー騒ぎ出して、
「うるさいな。それは全て俺が努力をして得たものだ。だが、お前はどうだ。そのスキルをまともに使ったのは今日が初めてなんじゃないのか? 何で空間切断を使わないんだ?」
すると、図星だったのか、マリアは俺のことを睨みつけながら、黙り込んだ。
こいつが今の戦いで使用したのは転移のみだ。だが、〈空間操作〉の最大の強みは、空間切断にある。熟練者でもニ、三回で魔力切れになるが、その分強力な技だ。これは空間そのものを切断するので、相手の防護を無視して切断することが出来る。
使う前に空間が
まあ、つまり何が言いたいのかというと、こいつは魔力量増加の特訓を全くやっていないせいで、空間切断が使えるだけの魔力を持っていないということだ。
「まあ、そろそろお前を担いで外に出るか」
俺がそう言った瞬間、マリアはまたギャーギャーと、子供みたいに騒ぎ出した。
「なによ! 一家の恥のくせに、私に触れるとか恥ずかしくないの? あと、そんな暇あるなら、さっさと衛兵の詰所に行って、自首してきなさい。今なら私と互角に戦ったことに敬意を払って、私自らの手で殺してあげるから」
マリアの言葉は、自己中なんて言うのもおこがましい。一体何をどう考えたら、あの発言が出てくるのかが分からない。俺は、怒りやあきれを通り越して、ポカーンとしてしまうぐらい、こいつの言葉の意味が分からなかった。
「あのさ、お前自分でクズなことを言っている自覚があるのか? それ、民衆の前で言ってみな。非難の嵐になるぞ」
だが、ヒートアップしているマリアに、俺の言葉は全く響かなかった。
「はぁ!? そんなことになるわけがないじゃない。貴族たる私の言う言葉が正しいのよ。平民ごときが私を非難するなんて、恐れ多くて出来ないのよ! そんなことも分からないなんて。本当に貴族だったのか?」
「あのな。正しいことを言う奴が貴族に相応しいのであって、貴族の言うことが正しいわけではないんだよ。そもそも、違法奴隷売買の組織を裏から操ってた時点で、お前は法律を破ってるんだよ! そんな法律破ったお前の言葉が正しいとか、冗談もいい加減にしろよ!」
俺は怒気を纏わせながら、そう叫んだ。
「あのね。法律の悪い所を指摘するのも私たち貴族の役目でもあるのよ。確かに、貴族を奴隷にするのは罪よ。ただ、平民を奴隷にするのは罪ではないわ。何故なら、平民は私たち貴族よりも劣った存在だからよ。牛や豚を売買するのと同じよ」
ここで、俺はプッチン来た。額に青筋をくっきりと浮かべ、目は血走っていた。
「もういい。お前と話をするとは無駄だったな。ちょっと眠っとけ」
俺はそう言うと、マリアの周りに浮かばせている短剣の内の一つをただの鉄のぼうに変えた。そして、それをマリアの首に軽く叩きつけることで気絶させた。
その直後、この部屋にマリアを裏切って、俺たちに情報を渡したケインが入ってきた。
「おい! 大丈夫か……て、やべぇな……」
ケインは室内の
「ケインか。何をしてたんだ?」
「ああ。衛兵を呼び出しに行った不届き物を潰してきたんだよ。何かみんな思いのほかお前たちのことを警戒しててな。万が一負けた時の為に、衛兵を呼んで、お前らを不敬罪、殺人罪、傷害罪の罪で逮捕させようとしてたらしいぜ。しかもご丁寧にマリアさまの署名付き封筒まで持ってるよ」
ケインは封筒を指に挟むと、ひらひらと見せつけてきた。
「危なかったな……俺たち」
マリアは無能中の無能だったが、部下のみんなは、俺たちのことを警戒して、二つのプランを用意している有能な奴だらった。
「まあ、取りあえず俺はこいつを担いで、隠し通路経由で街の外に出るつもりだ」
俺はマリアを肩に担ぐと、そう言った。
「分かった。じゃあ、俺もお前たちについて行ってもいいか? こんなことしちまったせいで、行く当てがないからな……いや、これはただの建前だ。本音を言うぞ。俺はな、これからお前たちに仕えることにする。お前らたちは俺をマリアという
ケインはまっすぐな目つきで、俺たちのことを見た。俺は、ケインの瞳をじっと見つめた。
「……分かった。取りあえずついてこい」
ここで詳しい話を聞いている暇はないと思った俺は、後で話を聞く為に、取りあえずついて来てもらうことにした。
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