第20話

「ったく……ん、もしかしてフィー?」

「久しぶり、ソフィア。相変わらず本ばっかりだね、ここ」




 手すりに手をかけた女性は、フィーを見るなり首を傾げた。

 橙色の髪を束ねて後頭部でまとめており、吊り目で黒縁の眼鏡をかけている。背丈は一六〇センチほどで、足首まで届く丈の白衣を身に着け、ショートパンツからはすらりと白くて長い足が見えた。

 年齢はおそらく十代後半だろう。大人っぽいというよりも可愛い雰囲気であるが、目つきが悪いため、どこか意地悪そうに見える。

 そんな彼女を見て、エギルはフィーに声をかける。




「彼女がフィーの言っていたアレか?」

「そう。ソフィア・アルビオン。変わり者」

「……変わり者とは失礼ね、ただ人が苦手なだけよ」




 そう言った彼女はやれやれといった感じで首を左右に振り、ゆっくりと階段を下りてくる。




「それにしても、フィーがここへ来るなんて久しぶりじゃない? なに、別の奴隷具を付けられて外してもらいたいわけ?」

「ううん、それはいい」

「ふぅん、じゃあどうしたのよ?」




 ソフィアは一階に下りてくると、フィーだけに声をかける。

 まるでエギルたちは見えていないような、少しおかしな行動だった。

 そしてフィーはエギルを指差す。




「エギルが、ソフィアにお願いがあるって」




 そう伝えると、ソフィアは眉をピクッとさせ、エギルをじっと見つめる。




「……ふぅん」




 ジロジロと、頭の天辺から足の爪先まで観察するかのような視線をエギルは受ける。




「まあいいわ。とりあえず話だけは聞くから、二階に上がってちょうだい」




 ソフィアはそう言って再び階段を上がっていく。

 エギルたちは顔を見合わせてから、彼女の後を追うように階段を上っていく。




「これは……」




 エギルたちは再び絶句した。

 一階は歩く場所がないほど書物が散乱していた。二階はさすがにそれほどではないと思いきや、むしろ、二階の方がうずたかく積まれているし、床も見えない。




「まあ、好きなとこ座って」




 ソフィアは適当に足で書物をどかすと、自分のスペースだけを確保して座り、




「フィーはここね」




 膝をポンポンと叩いて、自分の上にフィーを誘う。

 フィーはあからさまな嫌そうな表情をする。




「……いやだ」

「断るの? じゃあ私もそいつのお願いを断るわよ? いいの?」

「……」




 ソフィアは少しだけ意地悪い笑みを浮かべると、フィーは渋い表情でエギルを見る。

 どんな意図があるのかわからないが、フィーがソフィアの膝の上に座らなければ話が進まないようだ。しかし、それをフィーは嫌がっている。




「……なんだか、すまない」

「……」




 エギルはフィーに小さく伝えると、無言のままソフィアのもとへ向かい──膝の上に座った。




「うん、やっぱり最高の抱き心地ね」




 後ろからフィーを抱きしめながらソフィアは初めて笑顔を見せる。膝に乗せられたフィーは人形のように頭をガクッと垂れ、その目にはもはや生気が失われていた。




「エギル様……なんだか不思議な方ですね」

「ああ、そうだな」

「……危ない感じ、な人ですね」




 エレノアとセリナに小声で伝えられて、エギルは軽く頷く。




「三人は適当にそこら辺に座って」




 エギル、エレノア、セリナを指差したソフィア。三人は書物をどかして、適当に場所を作って座る。だが、レヴィアにだけは手招きをして、




「──あなたは、こっちに座るの」




 自分の横をポンポンと叩く。

 意図がわからず、レヴィアは首を傾げる。




「うむ、我もそっちに座るのじゃな?」

「……のじゃ。……うん、あなたは絶対に私の隣。それ以外は受けつけないわ」




 エギルたち三人の座る位置は指定しないが、レヴィアは近くに座らせる。

 膝の上にいるフィーがエギルを見る。




「ソフィアは女好きで、超が付くほどのロリコンだから……背の低い女しか近くに寄せないの」




 それを聞いて、セリナがうっと体を後ろに反らした。

 フィーとレヴィアに共通してるのは、外見が子供っぽいということだけ。紛れもなく、彼女はロリコンなのであろう。二人はソフィアにとっては最高の獲物というわけだ。

 だが心外だと言わんばかりにソフィアは否定し、持論を述べた。




「私は別にロリコンじゃないわよ? ただ、幼い少女が好きなだけ」

「……それをロリコンって言うんだよ」

「ふぅん、まっ、どっちでもいいわ。ほら、あんたらも早く座りなさいよ」




 扱いが全く違うのは、エギルとエレノアとセリナは大人だと判断されたからなのか。




「俺の名はエギルだ。それで早速本題に入るが──」




 話を聞いてもらえそうな空気になったので、エギルは自己紹介を手短に済ませると、ここへ来た目的を伝えた。

 サナとルナの母親の病気を治すこと。

 神の湖へと続く扉の封印を解呪すること。

 この二つの願いを伝える。その最中、ソフィアは黙って話を聞いた。そして話が終わると、彼女は「うん」と小さく声を発し、




「おそらく、できるわね」




 そうはっきりと答えた。




「本当か?」

「ええ、本当よ。ただ、すぐにってわけじゃないわ。それぞれの呪いや封印を解くには、症状や状態を見て、その対象にかけられた術式を理解する必要があるのよ」

「術式……」

「まあ、知識がないあんたたちに言っても無駄ね。私がこの子の奴隷具を外してあげたことは聞いてるわよね?」




 この子、というのは現在、頭を撫でられているフィーのことだろう。エギルは頷く。

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