第41話 仮装 × デイジーとかすみ草

英人は、今衣裳に着替えている。


日本を出るとき、塗料も用意した。


衣裳を着て、その塗料で顔全体と右腕、足首の肌色の部分を消していく。


『我ながら上出来だ!』


赤や白や黄色を散りばめているので、単調さもなく、きらびやかな演出もできている。


着替え終わって扉を開けたら、運転手が英人を見て、後ろにスッ転げた。


反応も良さそうだ!


流石にこの格好でホテルのメイン出入口は歩けないため、裏口から車に乗る。


20分ぐらい車で走ったあと、曲がって止まった。


どうやら到着したようだ。


心臓の鼓動が、自分の耳にも聞こえる。

eightersはこの仮装を喜んでくれるだろうか?

っていうか、なんの仮装かわかってくれるだろうか?

不安だ。だが、これなら絶対に8人とは被らない!


意を決して、明るく照らし出された建物に歩き出した。


もう出たとこ勝負だ!


扉をノックする。手が震えている。


暫くの静寂のあと、中から声がした。


「どうぞ」



扉を開けた瞬間……



5人がしりもちをついて、後ろにこけた。


その5人とは、英人、ワン、エミリオ、クリスティーヌ、アンナだった。


「「「「「光合成人間っ!」」」」」


そう、英人は、議論チャットで自らが提案したことのある『光合成人間』に仮装したのだ。


作成にはフェイクグリーンを用いた。


ベースは芝やクラピア、クローバーを使用して、そこにリュウノヒゲやヘデラの葉をバランス良く配置し、ツタ系をマフラー代わりに首に巻いた。


あとは明るさを出すため、真っ赤な薔薇、白と黄色のデイジー、かすみ草で彩りを与えた。


英人は、まず肩の荷が降りた。


「うわっ!」


改めて、みんなを見る。なんなんだ、このクオリティは。


真ん中には8人の男性。両脇に2人ずつの女性。


目を点にしていると、スリムながら筋肉質の赤鬼が一歩前に出て、棍棒を床に立て膝まずいた。


「ようこそ、eightersへ」


声からワンだとわかった。

英人はワンを立たせた。


「本日はお招きいただきありがとうございます」


英人は、左胸にある真っ赤な薔薇を外して手渡す。


『それにしてもすごい筋肉だな。腹筋も割れてる。角の生え際もわからないし』


「では、みんなの自己紹介を」


「こちらがドゥーエです」


また英人は薔薇を外して渡す。


『狼男か。口の辺り1/3が人間ぽい。変身中かなあ? 毛も本物?』


『なんか、女性の泣き声が聞こえる気がする』

右の2人が肩を抱き合って、小さくしている。


「こちらがタラータです」


『うわっ、すご。包帯から見えているところ、黒光りして干からびてるよ。眼はグレイのコンタクトかな』

英人は同じ行動を繰り返す。


「こちらがスーです」


『これは明らかにキョンシーだな。でも、肌の虫食い跡がリアルすぎる。衣裳も細部まですごいな』


「こちらがサンクです」


『ゴブリンだよね。アニメよりゴブリンじゃん。繋ぎ目とか全くわかんない』


「こちらがセイスです」


『ドラゴニュートじゃん。めちゃくちゃ強そうだ。てか、尻尾も付いてるけど、重たくないのかな』


「こちらがチルです」


『ドワーフか。筋肉でかいっ。叩かれたら、10mは跳ばされそうだな』


「こちらがオイトです」


『狐? あ、九狐か。あ、クラマか。髪の毛グレイでさらさらだな。白装束も再現度すごいな』


とりあえず8人の紹介と挨拶が終わった。


『とりあえずリアリティーが半端ないな。挨拶したけど、普段会ったら誰だか全くわからないだろうな』


女性2人が英人に近づいてくる。


『すげ、美しすぎるよ。サキュバスと獣人ケモ耳剣士かよっ。てか、アニメより完成度高くないか? これ本物じゃん。けも耳本物? 剣とか甲冑もすごいけど、スリットヤバイな。

それにしても、2人ともスタイル良すぎるよ、モデルか? てか、サキュバスやば。尻尾フリフリなってるし、黒い翼も本当に生えてないか? ツインテールと角も似合ってるな。』


「次に私とドゥーエの恋人を紹介します」


「サラとセレナです」


『ケモ耳剣士がサラさんで、サキュバスがセレナさんね。あれ? どっちがどっちの彼女なんだろ?』


2人にも赤い薔薇を手渡す。


「では、最後に特殊メイクをしてくれた僕たちの友人2人を紹介します」


『すげ~な、やっぱり特殊メイクなんだ。でも、この技術力は間違いなくプロだよね?』


『お~妖精とエルフ。可愛い~。エルフは白のロングドレスに花冠かあ。

妖精も豪華な白い刺繍を施したショートドレスに同じ花冠だな。両方胸元開いててセクシー』


『あれ? あの花冠デイジーとかすみ草でお揃いじゃん』


「私はクリスティーヌと申します。英人様にお会いできるのを心待ちにしておりました」


ちょこんとドレスのスカートを持ち上げ、頭を下げる。まさに貴族のような振る舞いだ。


クリスティーヌは必死に心のブレーキをかける。


「こんにちわ。はじめまして、英人です」

英人は、赤い薔薇を手渡す。


『エルフ耳の再現度すごいな。それにしても綺麗だ』


「私はアンナです。私も英人様とお会いできるのを心待ちにしておりました」


ショートドレスの先を持ち上げ、頭を下げる。

所作が美しい。


「こんにちわ。はじめまして、英人です」

英人は、赤い薔薇を手渡す。


アンナも心にブレーキをかける。


『羽の色が鮮やかなのに透けてるよ。露出度も高いから、目の行き場に困る』


「お2人ともデイジーとかすみ草の花冠しているんですね。僕とお揃いですね」


2人の顔が赤くなる。


『こんな美しい人も世の中にいるんだな』


「実は私たちも議論チャットをしておりまして、『cr』と『a』として、『e-to』様とお会いしております」


「あ、君たちが『cr』と『a』だったんだ」


『この二人が『cr』と『a』だったんだ。やば、腰が抜けそうだ。でも一気に親近感がわく』


スーが理解できていないので、英人に質問する。

「英人さん、それは何の仮装ですか?」


ワンとクリスティーヌとアンナがスーを睨む。


「あ、議論チャットで『空気』をテーマに議論したとき、僕が生み出した生物だよ。人間が光合成できたら、酸素増えて空気綺麗になっていいよねって。だから、光合成人間」


「あ、ご説明ありがとうございます」

スーが頭を下げる。


「では、今から仮装パーティーをはじめましょう」


赤鬼ワン』がそう言ってパーティーの始まりを宣誓した。

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