第37話 環境 × デジタルホログラム

英人は、仕事をしながら思考を巡らせる。


『ワンからのメッセージにどう返事をするべきか、回答に悩む。日本で会うべきか、アメリカで会うべきか』


『eightersはかなり稼いでいるだろうし、あれだけ好意を抱いてくれているなら、VIP待遇で美味しいものとか食べさせてくれるかな?』


もう逃げ場もないのだから、英人の中ではもう会うことは大前提だ。


そんなことを考えながら仕事をしていたら、またセミが鳴いているミスをしまくっていた。


「久里~っ!ちょっとこっちこい!」


上司に呼ばれて怒られた。


最近、仕事の価値観でも他の人と差が広がったような気がして職場の居心地が悪い。

『妄想族総長』とかあだ名をつけられていることは知っている。

ただ、英人自身も、最近は妄想族度が加速しているような気がしている。


これは議論チャットの影響か、eightersのメッセージの影響か……


『でも、彼等と話せるなら、それはそれで光栄なことだよな~。まあ、なんで『e-to』を気に入ってくれたのかは自分自身良く理解できていないんだけどな。

動画のネタを考えて欲しいとかそういうことなのだろうか』


また、ミスをしまくっていた。


「久里~っ!」


また跨がった上司に呼ばれて怒られた。


ヤバイな。ミスしまくっている。集中しないといけないな。


でも、本当に『妄想→次々に現実』に変わっていったら?


世界はよくなるだろうとは思う。


英人は、仕事上というのもあるのだろうが、その辺の人間よりは、自分の価値観の中に、環境配慮等社会的な問題への知見はあると思っている。


ただ『人間が少なくなればいい』とか『保険は不要』とか、人より深く考えすぎてしまってばかりなのだが。


「久里さん、そろそろ打ち合わせに行く時間ですよ」

後輩ちゃんが、声をかけに来た。


「もうそんな時間か。今日は何の打ち合わせだったっけ?」


「え、忘れてたんですか? エントランスのデザインの打ち合わせですよ。先週、久里さんが設計さんに指示してたじゃないですかあ?」


「あ、そうだったね。(久里は全く思い出せない)」


「会議室にお通ししておきましたよ」

後輩ちゃんは優秀だ。


「ありがとう」

そう言って会議室へ移動する。


「こんにちわ。早速始めましょうか」


設計さんは、プレゼンシートを渡し、説明を始める。


「今回のコンセプトは環境に配慮して、地域にも貢献できる~~~」


『そもそも紙がもったいないよね。木をなんだと思ってるんだ。やっぱりデジタルホログラムいるよ。

てか、環境に配慮するなら、もっと植樹とかできないかな。外壁を全部植栽にするとか。

エントランスの中のど真ん中にシンボルツリーを植えて、その回りをキッズスペースとかにしたら、楽しそうだな。木から吊り下げブランコつけたり』


と自然に、妄想を加速させてしまっているうちに、設計さんのプレゼンが終わった。


「いかがでしょうか?」

設計さんが久里の顔色を伺う。


「あ、いいと思います。あと、もう少しだけ遊び心を足していただけると、他と区別化できて、より良くなるかもしれませんね」


「わかりました」


「とりあえず社内で資料回覧して出た意見をまとめて、メールさせていただきますね。その辺考慮して、手直ししてもらってから、次回の打ち合わせをしましょうか」


久里は、少し前までなら、エントランスのデザインとかは好きな仕事の部類だった。


あ~したいとか、こ~したいとか、多角的な視点から考えて、材料も選定したり。


『だめだ。妄想脳が止まらない。しかも、楽しい部類のはずの仕事が物足りなくなってきている』


自分のデスクに戻ったら、また、ミスをしまくっていたらしい。


「久里~っ!」


再度、上司に呼ばれて怒られた。


『今日はなにやっても上手く行かない』


久里は、あきらめた。


『日本で会うか? アメリカで会うか?』


決めきれない……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る