決勝の舞台④
(ルカさん……苦戦してる)
グロリアは向こうの様子を察しながら、ヒューゴと武器を打ち合っていた。
一進一退の超絶的な攻防。激しく鋼を打ち鳴らす光景に、ルカたちを忘れて観客たちは夢中になっている。
だが、グロリアには懸念があった。
ルカが倒されることがあってはならない。
試合にただ勝つならグロリアがヒューゴもカミロもまとめて叩きのめすだけで事足りるだろう。
(でも……それじゃダメ……)
この試合はルカが最後まで立っていなければ、意味がない。
グロリアはそう思うようになっていた。
ルカの決意に触れたからか、ニーナやニコラの熱意にあてられたのか――わからないけれど、いつの間にかグロリアは彼らの顔を思い浮かべながら戦っていた。
……こんなのは、初めてだ。
小さな戸惑いを感じながらも、グロリアはそれが悪い気分ではないことにも気付いていた。
「チィッ、やっぱ強えなあ、メイドの姉ちゃん!」
舌打ちまじりだが、子供のような喜びを隠せない口調でヒューゴは言った。
ヒューゴと距離を取って短剣を構え直したグロリアは、ばれないようにルカを気にしつつ、
「お褒めに与り光栄です」
「この大会じゃ出すまでもないと思ってたが……アンタほどの相手なら不足はねぇ!」
ヒューゴはそう言うと、モーニングスターを高く振り上げた。
間合いが遠いのに、なぜそんな動作になるのか。一瞬考えたが、答えはすぐに出た。
「起きろ――《ギドニー》!」
不可解な言葉を叫ぶとともに武器を振り下ろす。
その瞬間、モーニングスターのトゲつき頭部が柄と分離し、鎖をしならせながら飛んできた。
鎖で分離できるタイプのモーニングスターは珍しくない。それを隠すギミック持ちなのも。
だが、ヒューゴの得物は明らかに違う。
「捕らえろォ!!」
離れた距離のグロリアに一瞬で鎖は絡まると、自ら意思を持っているかのようにそのまま何重にも巻きついてくる。
どうやら柄の先端から鎖は無限に収縮し、自動で相手を追尾して捕捉するらしい。
「……魔法武器でしたか」
ぐるぐる巻きにされたグロリアはその存在を口にする。
古代の技術で製造された非常に稀少なアイテムで、魔法で命を吹き込まれた生き物のような特徴を秘めている。
さっき叫んでいたのはそのモーニングスターの名前だろう。武器を起動する合い言葉のようなものだ。
不意打ちの攻撃にまんまと嵌ったグロリアを見て、ヒューゴが獰猛な笑みを浮かべる。
「ここで使うのはアンタが初めてだ。へへ、良い格好だな……!」
卓越した実力だけでなく、こんな隠し球まで最後まで温存していたヒューゴ。
普通に賞賛に値する強さだ。とっくにブロンズ級の強さを飛び越えているのだろう。
だが、グロリアは元・勇者だ。
手数の多さで負けることはない。
グロリアは目を閉じ、詠唱を始める。
「『四つの世界に、四つの王あり。其は蛮勇にあらず、巨岩を穿ちし知勇持つ大地の賢者。我の呼び声に応え、今此処に顕現せよ』」
勝ちを見込んだ瞬間、ヒューゴは聞いたことのない呪文を聞いて唖然とした。
すぐに鎖を引いてグロリアを止めようとする。だが、
「《
先にグロリアが詠唱を終えた途端、ヒューゴの足元の地面が隆起した。
「っうぉおお!!??」
足元を揺るがされ、つんのめるヒューゴ。
地面の隆起は一筋の道を描いてグロリアの元まで迫る。
そこから、ポコン、と顔を出したのは、ヘルムを被ったモグラのような生き物だった。
「いやー、グロリアはん、えらい久しぶりでんなぁー! 最近呼んでもろてへん思てたところやねん、お元気してまっか?」
「お久しぶりです、ノームさん。おかげさまで。そちらはどうですか」
「いやー、おかげさんで平和にやらしてもらってますわ。地脈が安定してますねん。おかげで子供らもスクスクとよう育ちますわ、元気すぎて相撲取るたび腰痛める一方ですねん、ガハハ!」
「そうですか、お子さんたちもお元気そうでよかったです」
地中から突然現れたモグラのような生き物と対話するグロリア。
つぶらな瞳の生き物は見た目こそかわいいが、正体は四大元素のうち土を司る精霊王のノームである。
普段は人間界にはいないが、召喚魔法に応じてここに出てきてもらったのだ。
「それでグロリアはん、今日はどんなお呼び立てで?」
ノームが訊ねると、グロリアは自分の身体を覆う鎖を視線で示す。
「ちょっとコレなので、力を貸して頂けないかと……」
「ほほーん、なるほどね! そんならちょっと本気出しまひょか、そーれ!」
ノームは掛け声をかけ、ズズズ……と轟音を立てながら穴から這い出てきた。
現れたその偉容に会場は絶句する。ノームの身体は巌のような巨躯のドラゴンで、見えていた頭部はほんの一部だった。
巨大な土竜は自身を霊体化させると、鎖に繋がれたグロリアの身体に入り込む。
ノーム――圧倒的なパワーで巨岩を砕き、地面を掘り進む精霊竜が乗り移ったグロリアの身体は超絶強化され、見た目こそ変わらないものの、不思議なオーラを纏って輝き始めた。
ヒューゴたちが呆気に取られているうちに、グロリアは軽く息んで、力を解き放つ。
ブヂブヂブヂィイッと何重にもなった鎖が引き千切れ、グロリアの身体は一気に外へ。
「なんだとぉおおおお!!?」
「すみません、魔法の武器ですが、壊してしまいました」
力が加減できないもので、とグロリアは律儀に告げて、飛び出していく。
ヒューゴはとっさに盾を構えるが、グロリアが短剣を持つ手を曲げて肘を入れると、一発でヒビを立てて軋んだ。
「くっ、クソぉぉぉっ!!」
「あなたの攻防一体の武器も、この力の前では意味がありませんよ」
グロリアは慈悲でそう言う。
棄権をするのも彼の権利のうちだ。
さらに盾に追撃するか、グロリアが考えているうちに――ルカの悲鳴が聞こえた。
「きゃあああああっ!!」
転んだのか、ルカの身体は地に伏している。
そこへ風が裂けるような鋭い音が迫る。
グロリアは、考える前に身体が動いた。
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