( 3.1 )私と生まれたドッペルゲンガー
ヨタロウノスケ
第一章 二重の歩行者編
【ドッペルゲンガー】
この世界には“ドッペルゲンガー”がいる、という話をしよう。
最初に知っておいてほしいのは、ドッペルゲンガーと本物の違いは他の人に絶対わからないということ。
ドッペルゲンガーは、いつの間にか生まれたもう一人の自分なのだ。
ドッペルゲンガーはいつ始まるのだろうか。
私は化けられた本人が気づくことで始まると思う。
私に言わせれば、ドッペルゲンガーを生みたくないのなら気付いてはいけない、見てはいけない。
ドッペルゲンガーの逸話は振り返ったイザナギ、襖を開けたお爺さん、壺を開けたパンドラ、これらのような「見るなのタブー」と同義の物語ということだ。
今言ったモノは例外なく決まりを犯した。
そうしなければ、その存在は始まらないから。
犯したのなら、紡がなくてはならない。
語ろう、私と私の話を。
7月20日土曜日─
「だから! 今、家に居ないって言ってんじゃん! 外!」
耳に当てているスマホに向かって怒鳴った。だいぶ意地を張っていて子供っぽかったなと反省しよう。
『えぇ? でも今も声聞こえるわよ?
今年十七歳の女子高生が深夜に家を飛び出して、いわんや心配になったらしい。母が電話をかけてきた。
そこまでは普通のお話だが、私が電話に出た瞬間、声が私の部屋から聞こえたらしい。
思考が止まったさ。あり得ないのだから。バカにしてんのか?
『居るじゃない』
その声がスマホから離れていく。今のセリフは聞き間違えだと結論づけ、小さくなっていく声に聞き入っていると、私の声が聞こえた。
自分の声を録音して聴くと別人の声に聴こえるが、この時聞こえたそのナニカは、喋る時に否が応でも聞こえてくる私の声だった。
受け入れたくない。そう思って言ってみる。
「...ドッキリでもしてるの? 性格悪いよ? ほんと...」
返事はなかった。もうすでに電話は切られてたのだ。
ふざけんな!
口汚いのは許してほしい。先ほど母と喧嘩したばかりで、その際生まれた感情を自分の中で昇華仕切れていないのだ。
暗くしめやかな公園で、それとは対照的に私の身体中を血液が急いで巡るのを感じる。
だが、その熱気を上回り、夏だというのに背筋が凍る。怪談話を楽しむ人間の気持ちなど今知りたくなかった。
じゃりじゃり。
一瞬背中にシャーベットが出来たのかと思った。
それは立ち上がるために踏んだ砂だった。いや、ふざけている場合ではないのだが。
来た道を戻るため北を向いて東に、
鍵は持っているから家には入れる。顔真っ赤になっていた割には鍵をかけて出かける理性は残っていた。逆だな、血が上っていたからかもしれない。
私の声をどうやって鳴らしたのか、母を問い詰めなければならない。
だが、もし、仮にだが、私の声を出した誰かが居たとしよう。
何故その誰かはそこにいるのだろうか。
その誰かは何故私になろうとしているのだろうか。
昔どこかで聞いたような、取って代わる妖怪の類いだろうか。
いやどうでもいい!!
誰かが居たら、ソイツをぶん殴ってでも私の居場所を取り戻してやる。私の部屋に居座ってやがったら、引きずり出して階段前で蹴落としてやる。
日陰者特有の"あり得ない妄想"上での攻撃性が頭の中を占めてしまった。
いつの日か辞めれるように祈っとこう。とか考えようか迷っていた間に、家を二、三軒通り過ぎて我が家に。
嘘です、七軒通り過ぎて我が家にたどり着いた。
鍵を優しく差し込み、慎重にゆっくりと回す。こうした夜にしか聞けない鍵穴の金属が少しずつ擦れる音は、最後にどうやっても鳴る"ガチャン"という鈍い音への期待度を上げてきているようで癪に触る。
次は、玄関を泥棒のように開ける。いやじれったいな! 鍵と同じようなことの繰り返しだからダイジェストで言うと、開けてすぐの階段を静かに登って、近いようで遠い扉に手をかけた。
そこで動けなくなっている。今から回想じゃない。
ここまで少しひょうきんな語り口だったのは、こうでもしないと恐怖にペシャンコにされそうだったからだ。
私は始まりから何も変わらないでここに突っ立っている。
いい加減始めなければならない。だが、やっぱり、いや、でも、開けられない。
動いた。
私の部屋のドアノブが勝手に動いたのだ。向こう側から開けられている。
母さん? 母さんだよね。私じゃない。
あまりにも突然のことすぎて、机の上で眠りかけた時ほどビクッとなった。
思わず下げてしまった視線を戻し、重厚だった扉の先の向こう側を見る。
すると──
──私がいた。
私そのものだ。私を鏡写しにしたかのように。
鏡写しではなくしっかりと反転している。
目があって、呼吸も心臓も時もとっくに止まったかと錯覚するほど、静かで短く長い時間が流れたけれど、私にそれを壊される。
「遅い」
確かに私の声だった。いつも聞こえてくる私の声。そんな声は恐怖で喉が上手く動かなかった私を無視して続ける。
「自分の世界に浸りすぎ。オリジナルの悪い癖だよ。
オ、オリジナル? 私のことなのか?
脳が理解できないことばかりで動けなくなっている私に、私は「ちょっと話そう」と言ってきた。
退く暇もなく私は私に手を引かれ、部屋の中へと進んでいく。どういう状況なのこれ。
私が扉をササっと閉める。
私は私という見た目も相まって、怖いと言う気持ちが薄れつつあり、いつの間にか敵対心が恐怖心を上回ってきた。私のパーソナルスペースを侵したな。私の領土に入ってくるなと。
「あんた誰よ」
言って手を払う。力は平等だった。
「ん?」
「あんた誰って言ってんの」
私は私の正体を暴きたい、だけだったはずが少し楽しくなってきた。なんだかドラマの中に居るみたいで。すぐに危機感がなくなるのも悪い癖だな。
「私? 私のことわからないの?」
だからそう言ってんだろ。義務教育受けてねぇのか。
「私は、あんたの“ドッペルゲンガー”だよ」
ドッペルゲンガー、オカルト好きじゃなくても聞いたことぐらいはある。
見たら死ぬ、と言われている幻覚系の超常現象。
現実的ではない。これはドッキリだ。
だが、その思考の裏返し。心臓が疼き出して止まらない。
だって、声も、服も、髪型も、体も何もかも同じなのに、下等生物で遊んでいるような薄ら笑顔が私に張り付いていたのだ。
私が絞り出せる言葉は、「なに言ってるの?」が精一杯だった。
「はぁ〜。私はあんたのドッペルゲンガー。信じられないと思うけど、ほんとだよ」
答えになっていない! まぁまぁ、落ち着け私。そんなことよりも考えるべき事があるじゃないか。いつネタバラシされるのかと、本当だった場合に私は死んでしまうのだろうか、という事を。
いや全くもって信じてなどいないが、ノリを合わせてやっても構わんし、怯えるフリをしてやってもバチは当たらないだろう。
死にたくないというのは生物として当たり前の感情だし?
まぁ正直未来に希望を見出せないから死んでやってもいいが、少し早い。もうちょっとだけ死ぬわけにはいかないのだ。
そう! 断じて怖いわけではない。
「へ、へぇー。ドッキリでしょ? 誰が何のためにやってるか知らんけど。
い、一応聞いといてやるけど、ドッペルゲンガーに会うとほんとに死ぬの?」
「ドッキリじゃない。私は現実だよ。
ていうか...死ぬの怖いの? どうやって死ぬと思う? どうして死ぬと思う? 死んだらどうなると思う?」
私が目の前まで迫ってくる。私はそんなこと知らない。
息が私に当たり、私へと跳ね返ってくる。
たまに鏡で覗いてやっている私の眼の奥が、私じゃないほどに黒かった。
「アッハハハ、死ないよ」
そう言った私は私を軽く突き放し、数歩だけ離れた。
この刹那
性格が悪いものでな。一度でも嫌な事があった相手とは顔を合わせるたびにその事件が頭をよぎって、楽し穏やかに交流なんてできないのだ。
もう二度と、分かり合うことはないのでしょう。
「...なんで私がこんな目に」
このセリフを言うと、私は急に笑うのをやめて黙った。ヘラついていた癖に。きみがわるいような雰囲気になる。
「どうしてだと思う?」
「え...?」
「あなたが今この状況に陥っている理由、わかる?」
固唾を、違うな、息を、これもしっくりこない。こんな時は何を呑み込めばいいのだろう。米かジャガイモとか?
「...私は、あなたが必要ないから生まれたの」
やめてくれ。
そんな、ことは、わかってる。
嫌な事から逃げてきた、卑怯者の私だ。要らないのはわかってるんだよ。高校からも、人からも、社会からも、何もかも、一度はみ出した人間を、もう受け入れてくれないだろう。
これも言い訳か。言い訳ばっかりだ。私は。
「嘘だよ、なんでなんだろうね」
私のくせに知ってか知らずか、鼻で笑い飛ばしてきた。
勝手に落ち込んだから、何も言い返してはいけない。深呼吸をしよう。落ち着け私。六秒、六秒数えよう。
六秒で怒りが収まるとか何処かで聞いた気がする。
一人になりたい。
「あんた、いつまでここに居んの?」
「ずっと居るよ。ここに」
「え...? でも誰かに見られたら...」
「大丈夫だよ、ほら」
と私は私の後ろの扉を指差した、扉が動いている
「
母だ。母が来た。私が2人居るのが見られてしまった。
「か、母さん!これは違うくて...えーっと...」
「さっきからずーっと話し声が聞こえたけど、ネットでの友達?」
え? 母さんにはアイツが見えてないの? 私の後ろで見えないとか? いやそれは無いだって大きく手を振ってるもん、見えない訳がない。
そう思っているとアイツは私の方を向いて微笑んだ
「見えてないでしょ」
「ど、ど、ういう事なの...母さんはあなたの事見えてないの?」
「母さんから見たらあなたが1人で話してるように見えてるの、ドッペルゲンガーってそういうものだよ」
「え?」
やばい、ヤバいやつだと思われた。母の方を向くと、死んだ目で見られている。
「
やばいやばいやばいやばい、言い訳を考えないといけない。そんな時に私が話しかけてきた
「どうやって誤魔化す?別の話を出して有耶無耶にしたら?」
別の話って...何にもいい事思いつかないよ...
母に背を向けて黙って俯いてると。
「謝ったら?」
「え?」
「謝ったらいいじゃん。だって今日の喧嘩は、いや、いつも私が悪いじゃん。
今日だってお気に入りのシャーベット食べられただけで怒ったよね? 自分で買いに行ってないのに」
「そうだけど...」
「母さんはサンドバックじゃないよ?」
うるさいなぁ。そんなこと...しってるし。
「表面上でもいいの」
どういうこと...
「今だけ謝って、そのあと落ち着いたら心の底から自分1人で許せばいいだけだよ」
...そんなことって許されるのか?
「...じゃ、おやすみ、
「お母さん...行っちゃうよ?」
言わなきゃ。
違う。
これは...いや言え!
ごめんって、謝らなきゃ、嫌だ、はずか...言え! 今!! 私!! 頑張れ!! 意地張るな!!
「...かっ、母さん......!」
やっぱ無理だ、変な汗が……口が動かない……手が震える……心臓が五月蝿い……
「ごめんなさい」
あ
「ごめんなさいっ!!!」
おうむ返しするみたいに声が出た。
謝れたのか?
...下げた頭を上げるのが怖い、母さんはどんな顔をしているのだろう。
( 3.1 )私と生まれたドッペルゲンガー ヨタロウノスケ @yotarounosuke
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。( 3.1 )私と生まれたドッペルゲンガーの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます