71.意外な性格

 マルネイド侯爵家からの帰り道、私はフレイグ様と馬車に乗っていた。

 継母との因縁は、今ここに終わった。これから、彼女は裁きを受ける。その罪は重い。いくら侯爵家の権力があっても、ただでは済まないだろう。


「アーティア、大丈夫か?」

「え?」


 そんな馬車の中で、フレイグ様は私にそのような質問をしてきた。

 何故、そんな質問をしてくるのだろうか。そう考えて、私はすぐに理解した。

 よく考えてみれば、このマルネイド侯爵家への訪問の前にも、彼は心配していたのである。私が、悪い思い出しかない侯爵家に行くことを。


「大丈夫です。正直、自分でも驚くくらいなんとも思わなかったんです」

「……そうなのか?」

「ええ、あの屋敷には嫌な思い出ばかりありました。でも、そんなことは気になりませんでした。きっと、フレイグ様が一緒だったから、そうなったんだと思います」

「俺が一緒だったから?」

「心強い味方がいたから、平気だったんだと思います」

「……そうか」


 私も、あの侯爵家に帰ることに、少しだけ恐怖があった。嫌な思い出が蘇って来るのではないか。そう思ったのだ。

 だけど、そんなものはまったく思い出さなかった。フレイグ様が隣にいてくれる。それだけで、私は何も気にならなくなっていたのだ。


「それにしても、これから色々と大変なことになりますよね?」

「大変なこと?」

「継母が言っていたことは、あながち間違いではありません。これから、フレイグ様は私の家のせいで、色々と苦労されるのではないかと……」

「そんな心配をする必要はない。そもそも、俺は冷酷無慈悲な辺境伯だといわれていたんだ。今更悪評が増えた所で、どうということはない」


 私の心配に対して、フレイグ様は笑っていた。

 その笑みは、とても穏やかなものだ。本当に、まったく心配していないのだろう。


「フレイグ様は、強いですよね……」

「別に強くはない。俺も、折れそうになることはある」

「そうなんですか?」

「ああ、だから支えてくれる相手が必要だ」

「……私ですか?」

「そうだ」


 フレイグ様の言葉に、私は少し恥ずかしくなってきた。

 思いを伝え合ってからわかったことだが、彼はこういうことを特に躊躇いなく言ってくる。

 その愛を隠そうとしないのだ。それは嬉しい面もあるが、こんな風に恥ずかしくなることも多々ある。


「……どうかしたのか?」

「いえ、なんでもありません」


 フレイグ様のそんな性格は、意外だった。

 ただ、それは印象論なのだろう。彼は無口だから、そういうことは言わない。そんな先入観が、私にはあったのだろう。

 そんなことを思いながら、私は帰路に着くのだった。

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