42.変わらない口調

『私達兄弟は、肉体を失っても魂だけで生き残ることができるようです。それは恐らく、人工的に作られたことが関係しているのでしょう』

『まあ、その辺は俺達にもよくわからん』

『そうですね……という訳で、私がこの姿になったのはそういった事情があったからなのです』

「そうなんですね……」


 クーリアさんが肉体を失った事情は、よくわかった。

 魔族の王の子供達。その生体は謎であり、そしてその関係性はとても複雑なものだったようだ。

 兄弟だからといって分かり合えるとは限らない。それは、私もよくわかっている。

 私だって、継母の娘達とは一歩間違えれば、血で血を洗う争いを繰り広げていたかもしれない。そう思うと、二人の話はあまり他人事のようには思えなかった。


『ああ、そういえば、別に私に対して、そんな丁寧な対応をしていただなくても構いませんよ?』

「え?」

『口調の話です。私にも、ラフードのように接してください』


 そこで、クーリアさんはそのように言ってきた。

 ラフードのように接する。そのこと自体は構わない。


「それなら、クーリアさんも……じゃなくて、クーリアも砕いた口調で話して。私だけ口調を変えるのは、変な話だし」

『……え?』


 ただ、私がそうなるのなら、クーリアにもそうなってもらった方がいいだろう。

 そう思って私はそれを伝えたのだが、彼女は目を丸くしている。それは、どういう反応なのだろうか。


『お嬢ちゃん、残念ながらこいつはこの喋り方以外知らないんだ。俺にも、こういう感じだろう? 誰にだって、これなんだ』

「あ、そうなんだ」

『すみません……』

「別に、謝るようなことじゃないよ」


 どうやら、クーリアはこういう喋り方のようだ。

 誰にでもこれであるということは、この喋り方は彼女にとっては砕けた喋り方であるということなのだろう。それなら、それでいい。別に謝るようなことではない。


『というか、お前はどうして急に俺の所に来たんだ? 何か用でもあったのかよ?』

『……ええ、実はそうなんです』

『……うん?』


 そこで、ラフードの質問に対して、クーリアはその表情を変えた。

 その顔は、真剣そのものである。今までとは、違う表情だ。

 それに対して、ラフードも表情を変えた。何かしらの問題が起こっていると思い、真剣に話を聞くべきだと思ったのだろう。


『アーティアにもわかるように言うと、私をこの姿にした兄弟が現れました』

『……なんだって?』

「それって……」


 クーリアの言葉に、私もラフードも驚いた。

 彼女をこんな姿にした兄弟が現れた。それは恐らく、大変なことなのだろう。

 今までの話とラフードの表情から、私はそれを悟るのだった。

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