5.幽霊の正体

『お、お嬢ちゃん、とりあえず落ち着け。別に、俺は怖いものではないからさ』

「……」

『本当だって、こんなに愛くるしい姿をしているんだから、怖い訳はないだろう?』


 狼の幽霊は、私に対してそんなことを言ってきた。

 震えていた私だったが、その言葉で少しだけそれが収まる。なんというか、彼は私に友好的であるようだ。

 幽霊といっても、別に怖いものばかりではないのかもしれない。彼は、いい幽霊ということなのだろうか。


「えっと……あなたは?」

『ああ、そうだな。まずは自己紹介をしなければならないか。というか、お嬢ちゃんは俺の姿が見えているのか?』

「あ、はい。見えています」

『そうか、そうか……そいつは驚きだな。おっと、話がそれたな。俺の名前は、ラフードだ。まあ、あんまり言いたくはないが、魔族の一人だ』

「魔族……」


 ラフードと名乗った狼の言葉に、私はまたも震えることになった。

 魔族、それは人間とは異なる種族だ。その種族と人間は、つい最近まで争っていた。

具体的に言えば、二年程前に戦いが終わったばかりなのである。

 考えてみれば、狼が喋っている時点でそのことに気づくべきだった。何かされるかもしれない。そう思って、私は少し身構える。


『いや、別に取って食ったりしねぇよ。俺は、人間の味方だ』

「人間の味方?」

『……いや、それはあまり正しくないか。人間は嫌いじゃないが、全般の味方という訳でもない。強いて言うなら、フレイグの味方か』

「フレイグ様の味方……」


 ラフードは、辺りを漂いながらそのようなことを言ってきた。

 よくわからないが、彼にも色々と事情はあるようだ。だが、フレイグ様の味方であるという事実だけは、はっきりとしているらしい。

 思い返してみれば、私が先程聞いた相変わらず冷たいという言葉は、フレイグ様に向けた言葉のような気がする。それだけ、ラフードはフレイグ様のことをよく知っているということなのだろうか。


「あなたは、フレイグ様の友人ということなんですか?」

『そうだな……あいつがなんというかはわからないが、とりあえず俺は友人だと思っているよ』

「フレイグ様の友人だから、亡くなっても彼の周りにいるということでしょうか?」

『うん? あ、いや、俺は別に幽霊という訳じゃないんだぞ? まあ、似たようなものではあるんだろうが……』


 私の言葉に対して、ラフードはまた悩み始めた。

 彼の姿は、どう見たって幽霊である。後ろ脚はないし、よく見ると少し半透明なような気もするし、これで幽霊でないというなら、一体なんだというのだろうか。


『俺は魔族の中でも特別でね……この姿は、己の魂だけが具現化した姿なんだ。精霊態と俺達は呼んでいる』

「……つまり、今のあなたは精霊ということですか?」

『ああ、肉体が滅びてもこの姿でいられる。それが、俺達の特権なのさ』


 ラフードの説明に、私は少し考える。

 精霊というものに、私はそれ程詳しくない。だが、それでも幽霊に比べると明るいイメージがある。確かに、今の彼を見ているとそちらのイメージの方が合っているかもしれない。

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